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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【桃子編】 一 たまごの夏

犬の肉球ブログ 桃子編一 たまごの夏 第一話・その一

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犬の肉球ブログ

     *

 この家の地下には爆弾が埋まっている。
 いつ爆発するかわからない。
 手足は振るえ、背中から全身に向って冷たい痺れが広がる。そして動けなくなる。
 自分の中に恐怖というものが生まれた。
 それは自分を縛りつけたまま、今も地下で息づいている。

     *

第一部 桃子編

たまごの夏 第一話・その一

 昼食を済ませた後、夕べ作っておいたアイスコーヒーを冷蔵庫から取り出し、氷の入ったグラスに注ぐ。グラスの中で氷が崩れ、カラン、と涼しげな音が心地よく響いた。
 ほんのちょっとだけミルクも入れて、ストローでかき回す。透き通った、限りなく黒に近い暗褐色の液体が、一瞬にして濁ったつや消しのビターキャラメル色に変化した。

 しまった。またうっかりやってしまった。
 首の筋肉からにわかに力が抜けて、頭ががくっと垂れ下がる。
 アイスコーヒーにミルクを加えたら、かき混ぜてはいけないのだった。光沢のあるコーヒーの表面に、注意深く、そっとミルクを滑らせるように差し入れ、まるで雪が積もったような美しい上澄みを作りだす。そして、ミルクとコーヒーの境界で複雑に織り成す白と黒のコラボレーションを楽しみながら味わう。それがいけてるはずなのに。いくらその方が美味しいからとはいえ、無闇にかき回すのはかっこ悪いって、いつも思っていたはずだったのに――。

 木村桃子は、キッチンの片隅で自らの愚行によってすっかり変色してしまった飲み物を見つめたまま固まってしまった。
「・・・・ふう」昔からの癖はなかなか治らないものだ。まだまだ修行が足りないな。
 大きくため息をついて、それから失敗したアイスコーヒーを一気に飲み干しにかかる。だが、量が多すぎて半分も飲めずに噎せてしまった。
 飲みかけのグラスを持ったままリビングへ移り、窓際の小さな机に腰掛ける。グラスを置き、机の上のノートパソコンを開いて電源スイッチを押した。
 パソコンが起ちあがるまでの間、なにげに窓の外を眺めてみた。

 マンションの五階から見える高円寺の街は、雲ひとつない午後の強すぎる光と熱で焼かれ、わざとらしいくらいに眩しく、濃厚な色彩を放っていた。この窓ガラス一枚隔てた向こう側に横たわっている八月の世界は、連日記録的な猛暑だと報じられている。

 桃子は夏が嫌いではないが、暑いのは苦手だった。汗は際限なく出てくるし、そのためにメイクも崩れる。うっかりしていると、白さが自慢の肌もすぐに赤黒くなってしまう。神様は一体何が気に入らなくてこんなに暑くするのか。暑いにも程がある。暑いと訳もなくイライラしてしまうのが、よけい腹立たしい。
 エアコンのリモコンを取り出し、設定温度ボタンの「下げる」を連打した。
 暑がりの桃子にとって、エアコンは必需品だ。
 エアコンを発明した人は本当に偉いと心の底から尊敬している。まさに人類の至宝、これこそ文明の勝利。省エネだとかエコだとか、クールビズとか、ヒートアイランドなんて気にしない。使わなければ宝の持ち腐れだもの。
 先週、知り合いの渡瀬成美とそんな話をしたら、こう返された。
「夏は暑いから夏なんじゃないかなあ。夏は好きだけど暑いの嫌いって、ちょっとわがままかもね」

 まったく、成美は何もわかっていない。夏は暑くてあたりまえに決まってる。もっと人の心を読めっての。言葉の裏に隠された心の襞とか、台詞の行間に込められた心情とかを汲み取れって。年上だからって姉さんぶってるけど、考えなしの薄っぺらだよ、あいつは。表面だけ、格好だけだよな、うん。だから未だに芽が出ないのよ。いい加減諦めた方が恥をかかなくて済むのにね。
 窓に薄っすらと映っている自分の顔が、いつの間にか笑みを浮かべていた。桃子は成美の悪口を思い浮かべると何故か機嫌が良くなる。最近見つけたプチストレス解消法として、ちょっと病みつきになっていた。

「さて、と」
 起動を終えたパソコンに向き直り、高校時代からの友だちでパソコンオタクの雪村亜衣が教えてくれたアドレスを打ち込み、マウスでクリックする。程なくして、ディスプレイに目的のサイトが姿を現した。
『ライブチャット・サファイアガール』
 画面に大きく、サイト名と一緒にセクシーな格好をした女の子の写真が幾人も載っていた。
 この先に進むべきかと、桃子は躊躇う。もともと乗り気ではないのだ。充分承知はしているが、改めて画面中央の下部にある文章を読んでみる。
『当サイトのコンテンツは、成人を対象としています・・・・』
 入り口にもはっきりと「十八歳以上」と書かれている。正真正銘のアダルトサイトだった。

 つい二日前、バイトをクビになってしまった。嫌いな仕事だったので、辞めること自体に異論も未練もなかったが、稼がないと実家からの仕送りだけでは今の生活を維持できない。急いで新しい仕事を見つけなければならなかった。だが、働くといっても何でもいいというわけにもいかない。
 桃子には夢がある。夢のために上京してきた。夢を叶えるには努力が必要だった。そして努力するためには、ある程度まとまった時間が必要だ。生活のためだけに、バイトで長時間拘束されたくはなかった。だから短時間で、しかも融通がきいて、なおかつ一定以上の収入が得られる仕事が理想的なのだ。
 勿論、そんな仕事が易々とその辺りに転がっているはずもない。おととい辞めたバイトは拘束時間はさておき、収入面を考えると惜しい気もしてくる。でもまた同じ仕事をしたいとも思わなかった。

 どうしたらいいかわからず困っているところに、亜衣が冗談混じりにライブチャットという仕事を教えてくれた。亜衣自身も、そこのチャットガールとして登録しているらしい。
 サイトの入り口を眺めながら、彼女の言葉を思い出した。
「時間の融通っていう面では、完全に自由だね。人気が出ればそれなりに稼げることも確かだよ。ただ、こういうのは好き嫌いも向き不向きもあるから、勧めたりはしない。自分で見て判断しなよ」
 亜衣は相変わらず話し方がクールだ、と関係ないことまで頭に浮かんでしまった。

 桃子はそのまま十分以上迷った挙句、ようやく先に進むことを決意した。
 亜衣もここで登録している、もしかしたら今も亜衣がいるかもしれないし、とにかく見てみるくらいだけなら――そう思うことで、気持ちを押し出すことができた。
 カーソルを合わせ、入口をクリックすると、画面が切り替わり、現在オンライン中の女の子のリストが写真付きで登場した。昼間であるせいか、人数は少ない。数えてみたら八人、その中で「チャット中」と表示されているのは一人だけだった。
 オンライン中の女の子の写真は顔が隠れているものも多かった。亜衣が桃子にこの仕事を紹介した理由もここにある。

(その二につづく)




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