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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【桃子編】 一 たまごの夏

犬の肉球ブログ 桃子編一 たまごの夏 第二話・その一

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一 たまごの夏 第二話・その一

 とりあえず他にすることも無くなってしまった桃子は、まだグラスに三分の一ほど残っているアイスコーヒーを手に、リビングの真ん中を占拠しているソファに腰を沈め、テレビをつけた。平日の午後はワイドショーやドラマの再放送ばかりで桃子の興味を惹く番組はなさそうだった。
 何の気なしにザッピングしていると、NHKでは高校野球の中継をやっていた。夏の甲子園だ。ここよりも三倍ぐらい暑そうな光景だが、それを涼しい室内で悠々と眺めている自分に若干の贅沢と優越を覚え、一瞬桃子は幸福だった。

「お、地元じゃん」
 試合は、西東京代表対宮城代表だった。
 応援するならどっちだろう、と桃子は迷う。
 現在住んでいる高円寺は東京都杉並区内で、西東京のエリアに入る。そして出身は宮城県仙台市だった。思わず自分の口から漏れた「地元」という言葉のニュアンスでは宮城かな、という気もするが、故郷をあまり好きだと思わない桃子には、そのニュアンスを素直に歓迎できない。だからと言ってここに住み始めてからまだ一年と数ヶ月では、自分が都民だという実感もない。

 試合は〇対〇で三回の裏を終了したところ。どうやら投手戦らしい。
 桃子はどちらかと言えば、野球に詳しい方だ。父親がプロ野球好きで、幼い頃は毎晩一緒にナイター中継を見ていたことが影響している。高校時代、一時期は野球部のマネージャーだったこともあり、そこでスコアブックの書き方も覚えた。たぶん今でも書ける。
 最近は興味を失っていたが、なんとなく夜、暇ですることがないときはスポーツニュースを見ることが多くなった。

 テレビの中ではギラギラの太陽光の下、真っ黒になった球児たちが必死に戦っている。桃子はしばらくそれを見ていたが、どうも集中できなくて、消してしまった。
 一年前なら、試合の行方が気になって最後まで見たかもしれない。一つ一つのプレーに一喜一憂したり、画面に向って突っ込みを入れたり、自分なりの分析を呟いていたかもしれない。でも今はそんな気にはなれない。
 見ていると気になってしまうのだ。
 ――あれれ、みんな年下だよ、いつの間にか。
 高校野球は時の流れを感じさせる。出場している選手を見ると、虚しくなる。
 マスコミが高校野球を報じるとき、未だに「青春」なんて言葉を使ったりするのも気に入らない。

 桃子にとっての青春は、暗く寒い印象しかない。これは別に生まれ育った仙台が東京より北だから寒いという意味ではない。
 自分が何者か知らず、普通に生き、地味な友だちと過ごした平凡な日常。楽しいことは一つもなかった。

 中学に入って間もなく、センパイ達に呼び出され、軽くシメられた。
 生意気だ、髪型を変えろと言われた。何でそんなことを言われるのか理解できなかったが、とにかく従うことにした。生まれつき少し赤みのある髪の色も真っ黒に染めた。
 初恋は十四歳だった。相手は同級生の男子。ただの片想いで、何も言えなかったし、何も起こらなかった。でもある時、その男子の件で同級生の女子に囲まれた。
 その日以来、とにかく目立たないように過ごすことが学校生活の第一目標となった。一度だけ放課後、その好きだった男の子から声をかけられた時も、ただ走って逃げるしかなかった。

 高校生になって、普通になった。髪を伸ばし、染めて、スカートも短くして、どこにでもいる女子高生。
 二度目の恋は十六歳の春。相手は卒業したばかりの野球部のOB。だめもとで告白したら、なんとOKしてくれた。その二日後に初めてのデートをして、三日後に初めてのキスをした。七日後にお金を貸して、十日後に初めてのセックスをした。
 十一日目、彼の携帯が繋がらなくなった。連絡もこなくなった。その時になって、自分が彼の住所も知らないことに気付いた。
 僅か十日間で終わった恋で、お金と処女を失い、男への不信と敵意を手に入れた。汗臭い男だらけの野球部のマネージャーも辞め、自分自身を人を見る目のない最低女だと決め付けた。

 十七歳の夏休み、パソコンオタクのクラスメイト、雪村亜衣と一緒に七夕を見にいく。 亜衣の夢は変わっていて、世界中の出来事を全て知ること、だそうだ。そんな夢を語られたら、みんなドン引きしてしまうだろう。それに亜衣は地味でブスで、愛想もなければ人付き合いも悪い。だから男から声をかけられる確率もぐっと減る。一緒にいると楽だった。
 でもその時は声をかけられてしまった。大人の、黒っぽいスーツを着て、ちょっとチャラそうな、でも清潔そうな男。
 その男は「スカウト」だと名乗った。名刺も貰った。亜衣のアドバイスで、念のため二枚貰った。

 後日、亜衣がその男のことを調べた。名刺に書いてあった住所も確認して、直接電話もかけてみた結果、その男が本当に芸能プロダクションに所属していることが判明した。
 その時、世界が変わった。自分は特別な存在で、特別な何かの一部であるような気がした。

 自分はそこらの女とは違う。昔シメられたのは、凡庸な女どもが非凡な自分に嫉妬したからだ。選ばれた女である自分は、付き合う男のレベルだって違う。不釣合いなしょぼい男なんて相手にしてはいけない。自分の価値が下がってしまう。そのことに自分で気付いていなかったから、くだらない男に騙されたのだ。
 しかしもう大丈夫だ。目覚めたから。
 暗い日常に一条の光明が差し込んできたと思った。

 ところが両親は芸能界入りに猛反対した。かなりショックだった。
 諦めきれずに両親との攻防を続けているさなか、自分をスカウトした男が、少女に対するわいせつ罪で逮捕される、というニュースが流れた。これで両親の勝利は確定した。
 でもその男の肩書きに嘘はなかった。その男がわいせつ行為を働いた相手は小学生だけで、自分とは年齢に開きがある。あくまで自分は仕事の対象としてスカウトされたのではないかと思った。亜衣もその考えに賛同してくれた。だからといって、芸能界入りの話が消滅してしまったことに変わりはなかった。

 亜衣が相談に乗ってくれた。亜衣は東京に親戚がいるので、それを頼って卒業したら東京に行くつもりらしい。亜衣は自分にも上京を勧めた。機会は東京の方が圧倒的に多いはずだと。
 そこで、東京の短大を受験した。地元の大学も受けたが、そちらはわざと落ちた結果、上京が叶った。小さな傾きかけた会社の万年係長である父親と、平凡な専業主婦の母親、我が家の経済力を考えると申し訳なくて仕方なかったが、夢への大きな一歩を踏み出せたような気がして、有頂天だった。

 東京に出て先ずやったのは、若者がたくさんいる場所を徘徊することだった。再び芸能界関係者にスカウトされるのを期待して、あちこち歩き回った。しかし、何回か普通の男にナンパされはしたものの、それ以外は何も起きなかった。次第に自分がただのアホの田舎者に思えてきた。

 住所は東京都杉並区南高円寺。見栄をはって結構値のはる新築1LDKのマンションを借りた。
 すぐにデビューできるから大丈夫だと思っていたが、見通しが甘かった。裕福ではない実家からの、精一杯の仕送りだけではとてもやっていけないことに気付き、とりあえず近所のコンビニでバイトしながら、もっと稼ぎのいい仕事を探すことにした。
 しかし、なかなかいいバイトは見つからず、仕方なくコンビニバイトの日数を増やすことで生活を維持するしかなかった。バイトで多忙になった分、短大にはあまり通わなくなっていった。

(その二につづく)




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