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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【桃子編】 三 オーディション

犬の肉球ブログ 桃子編三 オーディション 第三話

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三 オーディション 第三話

 雑誌『WANTA』の編集長、谷口健二は不機嫌だった。
 こんな合同オーディションに参加しなくても、誌面を飾ってくれる「読者モデル」は充分に足りているし、毎月数人から数十人、モデルに使って欲しいという問い合わせが絶えたことはない。
 読者の目線で親しみやすい内容を作るのが『WANTA』の基本方針であり、その方針は谷口自身が打ち立てたものだ。今のところそれは成功と言っていい成果を挙げている。わざわざこんなことをする必要性があるのか。必要なときに必要なものは読者から、というのが『WANTA』流ではなかったのか。

 ネルモプロモーションからテストオーディションの話を持ってきたのは部下の鈴元だ。C●NC●Nのような超メジャー誌に対抗するため、中堅どころの雑誌が集まり、合同でモデルオーディションを実施する。その最大のメリットは、各誌が個別にモデルを募集するよりも、規模も宣伝効果も遥かに大きくできること。そうすれば自然と有望な人材が集まってくることは自明だ。
 しかも応募する側にもメリットがある。一誌が実施するオーディションでは最終的に合格する者は一名、他に次点がいたとしても多くてせいぜい一、二名程度。しかし今回のテストオーディションでは各誌がそれぞれ合格者を出すので、参加する雑誌が多ければ多いほど、合格者も増えるというわけだ。今回参加するのは三誌だが、成功すれば次回は五誌以上に増やす予定らしい。
 こんな急ごしらえの企画を、鈴元は谷口が不在のときに独断で進めてしまった。鈴元は時折、勝手に一人で決めて勝手に独走する癖がある。

『WANTA』では編集長である谷口を除けば、鈴元は唯一の男性スタッフだ。組織の構成要因には多様性が不可欠であり、異種の志向性を持った鈴元はそのために置いている。
 他の四人の女性スタッフは、ファッションの他に旅行やグルメ、ショッピング、インテリアといったテーマに詳しく、鈴元は芸能界に異様に詳しい。それにパソコン、カメラ、音響機器なども一通り扱えるので便利といえば便利な男だった。
 取材などがあるときは、たいてい鈴元が同行して撮影や録音などを行なう。その際女性のスタッフはファッション誌の編集という肩書きらしく、それなりに服装などを整えていくのだが、鈴元はそういうことには頓着がなく、毎日出勤してくるのと同じジーパンとTシャツ、またはトレーナー姿のままだ。お陰で鈴元は取材現場ではアルバイトかなにかとよく勘違いされる。

 本音を言えば、谷口としては鈴元にもう少し身なりに気を配って欲しいと思っている。人は外見じゃないとは言うものの、一応ファッション誌のスタッフなんだし、五日間同じ服とか、染みだらけのトレーナーは勘弁してほしい。
 メガネはいつも曇って霞がかかっているようだし、ほとんど手入れした形跡の見られない髪もベットリと頭部に張り付いている。異様なほど痩せているが、長身であるため、職場ではたいそう目立つのだ。当然女性スタッフからは嫌われている。日常的に陰口も絶えないし、体臭をどうにかしてほしいという苦情も毎月受け付けなければならない。

 しかし、そんな鈴元でも谷口はクビにできない。今の『WANTA』には必要な人材だった。機材の扱いの他に、彼には突出した才能があった。
 それは一種の審美眼である。女性を見る目だけは、どうやら一流らしいのだ。
 多くの読者モデルと読者ライターに支えられている『WANTA』だが、そのモデルの実に九割は鈴元が選んだか、若しくは何処からかスカウトしてきたのだ。そしてその読者モデルが評判になって発行部数が伸びてきた。何人かはその後テレビタレントとして巣立っていったが、彼女らも全て鈴元の紹介だった。

 鈴元が見つけてくる女性は、美人であるとか、センスがいいだけではなく、スタッフに対して非常に従順な態度をとるのも特徴だった。特に鈴元が口を開くと、はいっと何でも素直に言うことをきく。中には鈴元に対して少々怯えたような表情を見せる者もいる。その卑屈さが気に入らないこともあるが、反抗されるよりはましだという考えもある。
 そういうわけで、今の『WANTA』には鈴元が必要であり、そのことが谷口編集長にとって最大の悩みの種でもあった。
 今日のオーディションも鈴元が勝手に話を進めたために、谷口は審査員として参加しなければならない。

 控え室でぶすっとしていると、やがて鈴元がやってきた。
 審査員だからということで、一応ブランド物のスーツを着用してきた谷口は、おとといから着続けている黄色いよれたトレーナーに、青いリュックを背負って現れた鈴元に嫌悪した。

     *

 主催者であるネルモプロの社長が短い挨拶をして、オーディション直前の打ち合わせが始まった。
 スタッフと、谷口を含めた審査員の紹介を簡単に行い、続けて今日の大まかな進行についての説明が始まる。合同参加する『マチェリー』と『ロン』からも、審査員として編集長が出席していた。そしてその二人の編集長の脇にはそれぞれ部下らしい人物が二人ずつ並んでいる。おそらくは補佐として、選考にあたっての実質的な検討作業を行なうのだろう。谷口にも補佐が一人来ているが、その鈴元はこの場にあっても相当浮いている。

「――予めお送りした資料の通り、一次審査である書類選考は、私どもの方で作業させていただきました。応募総数二百七十七名のうち、一次審査を通過した者は八十四名。先ほど受け付けが終了したところですが、現時点の参加は七十七名です。まあだいたい八十名とお考えください。
 厳密な定数はございませんが、この八十名を二次審査――普段着審査ですが――で一気に二十名前後に絞り込みます。手順としましては、八十名を四つのセッションに分けて四回審査を行います。ですから一セッションあたり二十名のうち、五名通過が一つの目安となります。
 ここで一旦昼休みになりまして、午後から三次審査――これは水着ですが――で、およそ半分の十名に絞ります。これは一度にまとめて行ないます。そして最終審査である四次審査は、残った十名に対して一人ずつ、個別に面接を行います。
 最終的に各誌一名ずつ合格者を選んでいただきますが、合格者の定員があるわけではないので、二名欲しいという方は、二名合格させても結構です。
 もし、二誌ないし三誌とも同一人物を選んでしまった場合、その者だけを合格とするか、次点を繰り上げて人数を調整するかは、その時点で改めて協議します。
 当方としては、三誌が参加しているから必ず三名合格者を出さなければならないとは考えておりませんので、その辺りは自由にご判断いただきたいと思います。とにかく今回はテストの意味合いもありますので、今後のためにもあらゆる課題を浮き彫りにしていくことが重要と考えております――」

 延々とスタッフからの説明が続く。話は長いが、口調も態度も丁寧で、谷口には好印象だった。
 しかし話を聞いていると、要するに何も決まっていないからあとはよろしく、と言われているような気がしてきた。『WANTA』のモデルに水着審査はあまり必要ないと思うし、だいたいどんな雑誌であろうと、採用したい子は同じになってしまって、奪い合いか譲り合いになるのが関の山ではないだろうか。妥協して二番目、三番目の子を採用することになったとしたら、本当にこちらにメリットはあるのだろうか。

「――以上が大まかなところです。何かご質問はありますか?」
 スタッフの問いかけに、谷口は挙手してみた。
「はい、『WANTA』の谷口編集長。なんでしょう?」
「流れはだいたい了解しましたが、ひとつだけ。もし今回の応募者の中に、我々のモデルとして適格な者がいなかった場合は、該当者なし、という判断をしても構わないのでしょうか?」
「はい、もしそのような場合は無理に選ぶ必要はございませんし――」
「編集長、そんなことはないと思いますよ」
 突然スタッフの説明を遮って、谷口のすぐ横に座っている鈴元が喋りだした。

「一次審査通過者のデータを一つずつ丁寧に見てきましたけどね。なかなかいい感じのコが揃っていますよ、今回。使えるコはかなり高い確率で見つかると思います。少なくとも僕は今の段階ではそういう感触を掴んでいますよ。感触と言うより、自信に近いですね、これは。だから編集長の心配は不要ではないか、と思います。そりゃ実物を見ないと最終的な判断はできないですけど、プロフィールだけで見たところ、既に僕的には何人か目をつけたコがいまして、そのリストアップもしてきましたから、見てくれませんか」
 室内に鈴元の声が響き渡り、全ての視線が谷口と鈴元に向けられた。谷口には耐えられない痛い視線だった。
 鈴元はよれよれの紙切れを谷口に差し出し、そこに書かれたリストの説明を始めた。鈴元が発声するたびに、紙には唾が飛び散り、まだらな染みを作る。
「そういう話をしているんじゃない。お前は黙ってなさい!」
 恥ずかしさのあまり、鈴元を怒鳴りつける。
 もともとここは審査員と主催者の打ち合わせの場だ。補佐である鈴元に発言権はない。しかも全く見当違いな内容で、スタッフの発言を遮ってしまった。とんでもない恥と、迷惑だ。

「あの、大変失礼いたしました」
 谷口は立ち上がって頭を下げた。審査員もスタッフも何も言わずに谷口の謝罪を受け入れたが、室内は完全にしらけきってしまった。中には谷口に対する哀れみと、鈴元に対する嘲りの視線を注いでいる者や、肩を震わせ必死に笑いをこらえている者がいた。再び頭を下げてから椅子に座った谷口のその脇で、鈴元は不満げに頬を膨らませて黙っていた。
 こんなに自分の立場も場の空気も読めない奴を連れてくるのではなかった。谷口は怒りと後悔で顔面が沸騰しそうだった。
 しかし、ここで鈴元を追い出すこともできない。実際に応募者を選別するのは鈴元で、それは谷口が行なうより遥かに確実なのはわかっている。結局は今さっき彼が差し出したよれよれのリストに頼らざるを得ないのだ。

 体内に溜まった熱をため息で吐き出してから、机の上に残されたリストをチラッと眺めた。
 リストには八つの名前が書いてあった。この八人が『WANTA』の合格者の最有力候補ということだ。
 こういう作業をやらせれば鈴元は役に立つ。役に立つからこそ、悩みはつきない。
 打ち合わせ終了後、待ち構えていたように鈴元がリストの説明を再開した。場をわきまえずに主張してくるのは、鈴元が自信を持っている証拠でもある。
 リストは五十音順に、殴り書きのような下手な字で書いてあった。

 葦原さつき  伊原美沙  上島鮎  木村桃子 
 坂井菜々  中井戸友里  藤川千春  渡瀬成美 

 本番前にして既に疲れてしまった谷口はリストの名前を記憶に留め、彼女ら以外はもう無視することに決めた。

(第四話につづく)




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