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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【桃子編】 六 ハスとモモ

犬の肉球ブログ 桃子編六 ハスとモモ 第一話

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桃子編
六 ハスとモモ 第一話

     *

 昨日も今日も、僕は地下の悪魔に怯えながらひっそりと暮らしている。きっと明日も明後日も怯えているだろう。無闇に動いてはならない。足の下のどこかで眠り続けている悪魔を目覚めさせてはならない。ただじっとしていることが、最も正しいのだ。

 TOKOに会えなくなってから、一体何日が過ぎてしまったのだろう。あの生意気な常識知らずは、今どこで何をしているのだろう。だいたい想像はつく、どうせつまらないことで失敗でもやらかして落ち込んでいるに違いない。TOKOとはそういう奴だ。
 だから、僕は奴を気にかけているんだ。僕が導いてやらないと、奴は駄目人間になってしまうに違いない。これは僕に課せられた使命だ。

 僕はずっと、ひっそりとTOKOを見つめ続けてきた。
 奴は間抜けだから、僕がこんなにも心配していることに全く気づいていない。その無神経さにはいつも腹が立つ。今度たっぷりと説教してやろう。そうすれば奴はきっと僕の愛情に気づき、心から感謝するはずだ。

 そう、これは愛だ。ただじっと見守るという愛の形。
 僕もようやく理解した。崇高な愛とは、無償だ。ただじっとしていることが、最も正しいのだ。
 僕が奴にしていることは、愛そのものではないか。

 ただ、見守る。そして、道を踏み外しそうになった時だけそっと助けてあげる。
 僕が見守ることで、奴は僕の深い愛の中に包まれているのだ。

 僕が教えた情報に奴は飛びついた。だから僕はいつでも喜んで力になってあげよう。
 でも、今会えなくなっていることについては、きっちりと叱らないといけない。いささか面倒でもあるが、奴は馬鹿だから言わないとわからない。
 僕の愛が理解できるよういちいち教育しなくてはいけないと思うと苛々してくる。まったく救いようのないほどの馬鹿だ。

     *

 ベッドから上体を起こした時、部屋は既に柔らかな遅い朝の光で満たされていた。
 午前九時、もう起きなければいけないのだが、まだ脳の一部が覚醒していないのか、全身に力が入らず、そのまましばらく放心状態が続いた。

 桃子は目覚める直前に見ていた夢を思い出した。

 真っ暗な中で一人、自分が何処に行けばよいかわからずに困っていると、遠くに白い染みのような小さい光を見つけた。近づいてみると、その光は遥か高くにあり、手を伸ばしても届かない。困っていると、光の中から手が出て、桃子に向って伸びてきた。その手の甲には大きな傷跡が刻まれていた。

 桃子はその手を掴み、引っ張り上げてもらおうとするが、自分が重いのか、どうやっても上手くいかない。これじゃそっちにいけないよ、と言うと、光の中から今度は人が現れ、桃子の傍らに飛び降りた。
 それは蓮だった。蓮は優しく微笑みながら桃子を軽々とお姫様抱っこすると、ふわりと浮き上がるようにジャンプし、桃子を光の中に連れて行った。
 二人を包んでゆく白い光が朝の光と重なって、桃子は目覚めた。

 ・・・・なんて恥ずかしい夢だ。絶対に誰にも言えない。
 光に向って跳び上がるとき、必死に蓮の首にしがみついていた自分を思い出し、頬が熱くなる。不意に腰から背中のあたりがムズムズしてきて、再びベッドの中に潜りこんだ。

 一体何だというんだ、落ち着け。なんで夢に蓮が出てくる? 昨日の夜は、一緒に話してその後一緒に帰っただけではないか。他には何もないぞ。

 でも、嬉しかった。蓮と話したこともそうだけど、駅まで追いかけてきてくれたことは、もっと嬉しかった。二人で荻窪から高円寺までの長い道を、他愛もない話をしながら歩いたことを思い出すと、自然と顔が緩んでしまう。そんな自分が可笑しくて、とうとう大声で一人笑いを始めてしまった。

 そんな幸せな物思いのひと時を、携帯電話の着信音が断ち切った。
 引越し業者からの連絡だった。
 そうだった、こんなことをしている場合ではない。今日は午前中に業者が見積もりに来る。引越しは来週に迫っていた。そろそろ準備を始めておかないと、当日大変なことになる。

 慌てて身支度を済ませてからベッドを整え、散らかっている雑誌類をラックに放り込む。それから掃除機を床に滑らせた。
「ま、こんなもんかなあ」
 軽い掃除の後、改めて部屋を見渡してみた。

 東京に出てきて、初めて住んだ場所。初めての一人暮らし。そして心が安らぐ唯一の場所。
 桃子は夢のために上京した。だから東京とは、夢を叶えるところだ。そして、まずこの部屋にたどり着いた。ここは夢の始まり。ここで夢に憧れ、夢を追い続けた。この部屋は、桃子にとって東京そのものだった。

 この部屋とももうすぐお別れだ。
 なぜか、いつもより少しだけ広く感じる空間の中で、桃子は目に映る壁、床、天井を、懐かしさにも似た心持で一つ一つ眺めた。

 ここに居させてくれてありがとうね。とっても楽しかったよ。でも見てて、必ず成功して、またここに戻ってみせるから。少しの辛抱だから待っててね。

 気がつくと、両方の目が充血していた。いつからこんなにおセンチで涙もろくなったのだろうか。桃子は思いっきり鼻をかんだ。


 引越し業者がやって来るまでには、まだ少し時間があった。
 桃子はパソコンを起動して、メールをチェックしてみた。特に新着のメールはない。ブログも確認してみた。新しいコメントはない。携帯の履歴も確認してみた。先ほどの業者からの連絡以外に、新しい着信も、留守電メッセージもメールもない。

 夕べのことを思い出しながら桃子は思った。
 やはり、自分から連絡するべきだろう。亜衣に謝らなくては。
 あれは、ほとんど八つ当たりに近い。亜衣は心配してくれたのに。
 桃子は亜衣の携帯に電話をかけてみた。

「あれ?」
 繋がらない。留守番とか、電波が届かない、相手が電源を切っている、という状態ではない。

『おかけになった電話番号は現在使われておりません。恐れ入りますが、番号を――』
 無機的なアナウンスが淡々と流れていた。

 まさか、と思いつつ、亜衣の携帯にメールを送ってみた。しばらくして、そのメールが跳ね返ってきた。
 亜衣のパソコンのアドレスにメールを送ってみた。しばらくして、やはり跳ね返ってきた。

 どうやら、亜衣は徹底的に桃子を拒否したらしい。桃子にはこれ以上、亜衣と連絡する手段がなかった。
 本当に、二人は終わってしまったらしい。

 桃子は床に倒れこみ、胎児のように体を丸めて、引越し業者が来るまで泣き続けた。

(第二話につづく)




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