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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【桃子編】 六 ハスとモモ

犬の肉球ブログ 桃子編六 ハスとモモ 第二話

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六 ハスとモモ 第二話

 ――今ならまだ間に合うだろう。
 谷口は鈴元をデスクに呼んだ。
「先日提案のあった、『WEB WANTA』の件だが――」
「それならなんとか順調です。もうちょっとで面白いものを見せられると思いますよ」

 鈴元は首を突き出すように、谷口に向って身を乗り出した。それを見ただけで、乗り気であることがわかる。面倒なことになりそうな予感がして、躊躇しそうになるが、この機を逃すとさらに面倒になると思い直し、谷口は鈴元の言葉を無視して続けた。

「進めろと言っておいて申し訳ないのだが、検討した結果、一旦企画を白紙に戻すことにした。それに、この件は他の者に担当させるから」
「は?」鈴元は何を言われたかわからない、と言った様子で、首を傾げた。

「インターネットも、機材の扱いも、いつまでもお前一人に任せっきりという訳にもいかないだろう。皆にも色々と経験を積んでもらう必要がある。ホームページの見直しは、いい機会だと思ってな。今後、鈴元には基本的にサポート役を勤めてほしいと――」
「急にそんなこと言われても無理ですよ!」

 鈴元が大声で怒鳴ると、部屋中のスタッフの視線が集中した。余計にここで引き下がるわけにはいかない。他のスタッフにも経験を積んでもらいたい、と言ったことは嘘ではないが、本当の理由は、最近独断で物事を進める傾向が強くなっている鈴元に、釘を刺しておくことだった。

 ウェブの件も、細かく状況を報告するように指示しておいたのにも関わらず、これまで一度も報告してこない。それとなく鈴元を観察していると、かなり精力的に作業をしているように見えたので、このままではいきなり完成品を持ってこられる可能性がある。
 それを許してしまうと、編集部内のチームワークにも悪影響がでてしまう。『WANTA』は、あくまでスタッフの共同作業で作り上げるものであり、個人の偏った趣味を生かす場ではない。
 編集長である谷口自身の立場と、他のスタッフからの信頼を失わないためには、このあたりで鈴元を抑えなければならない。

「何が無理なんだ。今まで一度も進捗状況報告がないことから考えても、まだたいして準備も進んでいないだろう。今のうちなら方針変更も容易なはずだが?」
 谷口はあえて嫌味混じりに言った。そしてそれは紛れもない事実に基づいた正論でもある。現在作業がどのような段階にあろうと、非は報告を怠った鈴元にある。鈴元がどう反撃してこようと、その非を理由に担当から降ろすことも可能だ。

 そう思いながらしばらく黙っていたが、鈴元の反論が始まる気配が一向に感じられない。デスクの正面に立っている彼を見ると、そっぽを向いて、顔を真っ赤にして、口をすぼめて前に突き出し、頬をぱんぱんに膨らませていた。まるでスネた子どもの態度だ。
 何も言わないのであれば、それはそれで楽だ。結構なことである。スネた鈴元をあやす義理は谷口にはない。

「では、そういうことだから、いいな」谷口が話を終わらせようとすると、鈴元が小さい声で呟くように言った。
「僕がやっていいって言ったくせに」
「あ、何だ、何か言ったか?」
「どうしてくれるんですか」鈴元はそっぽを向いたまま、独り言のように言った。

「何のことだ?」
「今日、これから会うことになってるのに」
「会うって、誰とだ?」
「・・・・」
「鈴元、誰と会うんだ?」
「モデル候補・・・・ブログの」
「この、馬鹿野郎!」
 思わず谷口は立ち上がり、怒鳴りつけた。だが、鈴元は膨れっ面のまま横を向いて、目を合わせようともしない。

「モデル候補に連絡する時は、俺に一言言ってからにしろと、特に念を押しといただろう。まったく何でもかんでも勝手にやりやがって」
「僕がやっていいって言ったくせに」
「とりあえず中止しろ。すぐに連絡しろ」
「もう会う時間だもん。来ちゃってるもん」
「何処で会う約束してるんだ?」
「・・・・向かいの、喫茶店」
「すぐに行って、事情を話して帰ってもらえ」
「そんなことできませんよ。僕には」
「なんだと」
「だって、たった今担当から降ろされたもん。僕、もう担当じゃないですよ」
「おい、お前なあ――」
 鈴元は尖がらせた口先から、ぶうぶうと変な音を鳴らしている。谷口は呆れきって、全く動こうとしない鈴元を説得する気にも、無理矢理たたき出す気にもならなかった。

「――で、誰が来てるんだ?」
「・・・・木村桃子」
「では、俺が行って話してくる」
 鈴元はぶう、と唸り、細かく振動する唇から唾液が飛び散った。
「お前はここで待ってろ。いいな」
「その前に、返してくださいよ」
「返す?」
「僕の企画書。だって必要ないでしょ、僕はもう担当じゃないから」
 谷口はぶん殴りたくなる衝動をなんとか抑えた。ち、と大きく舌打ちしてから、企画書を取り出して机の上に投げつけるように置いた。

 鈴元はそれを素早く拾い、初めて谷口の目を正面から見据えた。
「僕はもう担当じゃないから関係ないですよ。いいですか、この企画書に書いてあることを一つだって絶対に真似しないでくださいね。これは僕のアイデアなんですからね」

 谷口は何も答えず、不快に満たされたままオフィスを後にした。
 こんな男を、『WANTA』には不可欠な存在だと考えていた自分自身に腹が立った。

     *

 約束の時間を十分過ぎた。
 桃子は指定された時間の通り、喫茶店内の片隅で『WANTA』の鈴元を待っている。
 昨日、ブログモデルの件を受ける旨を伝えたところ、早速一度会って説明したいと言ってきた。

 引越しの見積もりも済み、これから準備で忙しくなりつつあるし、バイトも入っていたが、都合が悪いとは言い出せなかった。ここでわがままを言うと、そのまま別の人に取って代わられるかもしれないという不安があった。

 バイトは蓮に代わってもらった。正直に理由を話したら、快く引き受けてくれた。
「がんばってね」という蓮の言葉が励みになった。

 もう情報をくれる亜衣はいない。チャンスは自分で見つけて、自分で掴み取らなければならない。少しでも可能性がある話には、全力であたる。このブログモデルの話は大きなチャンスだ。なにしろ、今までのようなオーディションではなく、直接向こうから連絡してきたのだから、要するにこれはスカウトと同じだ。とにかく上手く話を進めて自信をつけたい。自分にとって大きな一歩だ。

 鈴元らしい人物はなかなか現れない。
 本当に来るのだろうか、との不安を、きっと編集の仕事は忙しいから、と言い聞かせながらじっと待つこと約二十分。
「木村さんですね」
 低めの、少し渋い声をした男が声をかけてきた。

 来た! と思った瞬間、心臓が飛び出そうなほどの緊張感と、僅かばかりの違和感が桃子の中で混然となった。
 この人が、鈴元さん?
 中肉中背の、落ち着いた雰囲気の男だった。声と同様、渋めのジャケットがよく似合っている。

 なんか電話とイメージが違う。
 電話の声はもっと細くて高めのトーンだったし、話し方から、少々せっかちな性格ではないかと思っていた。それとも、気のせいだろうか。自分も電話だと声が高くなることあるし。
 それにこの人、どこかで見たことがあるような気もする。

 とにかく立ち上がって挨拶しようとすると、男はどうか座ったままで、と言いながら、名刺を一枚桃子に差し出した。
 名刺には、鈴元ではなく、谷口健二と書かれていた。
「『WANTA』編集長の谷口と申します。はじめまして、ではないんですけどね」
 ようやく桃子も思い出した。ネルモプロの合同オーディションで、唯一桃子に質問をしてくれた審査員だ。

 現れたのが鈴元でないことに一旦失望しかけたが、それは一気に大きな希望へと変貌した。なんと編集長が直々に会いに来てくれたのだ。要するに、この人は鈴元の上司ではないか。
 違和感が払拭されて安堵しかけたのもつかの間、目の前の人物が「偉い人」だということに気づき、緊張感はむしろ倍化した。

「あ、あの、木村桃子です。連絡いただいてありがとうございます。よろしくお願いします」
 座ったまま、何度もペコペコお辞儀しながら早口で桃子が言うと、谷口は困惑したような表情で、ゆっくりと話し始めた。
「そんなにかしこまらないでください。実は、木村さんにお話ししなければならないこと、そして謝らなくてはいけないことがありまして」
「は?」

 丁寧で、諭すような口調の谷口編集長の話を聞きながら、桃子は次第に全身の力が抜けていくのを感じた。破裂しそうだった心臓は、今では逆に動きを止めそうなほど元気を失っている。両肩はすっかり落ち込み、体が一回り小さくなったのに、何故かお尻は椅子に深く沈み込むようだった。

 谷口の声も徐々に遠くなり、記憶の中から亜衣の顔と声が鮮明に浮き上がってくる。
 どうも気にかかる、ますます気に入らない、私が確認するまで返事は待て――亜衣はそう言って、警告した。
 亜衣が、正しかったのだ。

「・・・・というようなことでして、元々実験としての企画だったのですが、結局ブログモデルの件は中止ということになりました」
「そう、ですか」
 理由や経過説明は全く耳に入らず、ただ「中止」という言葉だけが桃子に重くのしかかってきた。

「この度は、本当に申し訳ありませんでした」
 谷口が深く体を折って謝罪した。
 それを見ても、桃子は何も反応できなかった。

 谷口は最後に交通費です、と言いながら封筒をテーブルの上に置いて、逃げるように去って行った。
 しばらくしてから、ゆっくりと封筒を手に取り中を覗くと、一人寂しげに、口を真一文字にした福澤さんと目が合った。

(第三話につづく)




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