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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【桃子編】 七 引越し

犬の肉球ブログ 桃子編七 引越し 第五話

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七 引越し 第五話

 引越しの日、朝から生暖かい風が強かった。
 夏は猛暑で冬は暖冬、だんだん世界が壊れ始めている。
 しかし、今の桃子にとっては、今日一日を無事に終えることの方が遥かに重要だった。

 誰にも内緒で引越すといっても、実際のところ成美にはバレてしまっている。あれから四日間、桃子は昼間に一度荷物を取りに帰っただけで、あとはずっと成美のマンションに居候していた。
 お陰で何の準備もできず、仕方なく業者に追加料金を払って荷造りからお願いするハメになった。それでも、あの部屋に戻って夜中一人で過ごすよりはマシだと思った。

 早朝に成美の部屋を出て帰宅。人気のない薄暗い空気を吹き飛ばすために、まず全部の窓を開放した。
 十二月とは思えない、熱のこもった風が桃子の部屋を浄化していく。
 業者がやってくる予定の九時までに、掃除くらいはしておかなくては、と動きやすいパンツとトレーナーに着替えた。それから、だいぶ伸びてきた髪を後ろで軽く縛って準備完了。

 業者がやってきたのはほぼ予定通りの八時五十分過ぎ。スタッフは二人。浴室の窓ガラスが割れていることに少し驚いたようだったが、あとは手際よく作業を進めてくれた。

 一人では運べないソファ、ベッド、冷蔵庫、洗濯機などを除けば、桃子の部屋にはあまり物がない。おそらく午前中で引越しは全て終了するだろう。
 桃子は基本的に見ているだけ。楽ちんである。むしろ荷造りから業者にお願いしたのは正解だったかもしれない。

「服については、いろいろと扱いがデリケートな場合もあるので、ご自分で作業をしていただきたいのですが」
 そうスタッフに言われて、とほほ、と内心呟きながら、荷造りを始めた。
 おそらく桃子の持っている服の数は多い方だろう。それに、キャバクラバイト時代に必要だから買った、派手なドレスも結構ある。
「ああもう、こんなの売っちゃうとかしとけばよかった」一つひとつ、ハンガーボックスに詰めながら自然とぼやきが口から漏れた。

 案の定、スタッフの荷造りはすぐに終わり、トラックへの積み込みが始まる。一番もたついている桃子は汗だくになりながら、一人で焦っていた。
 結局スタッフの手助けをもらい、約二時間で出発準備完了。現住所の南高円寺から、成田東へ移動。と言っても、同じ杉並区内で、駅にして一つ分の距離しかない。

 引っ越し先のアパートに着くと早速スタッフが積み下ろしを始める。荷解きまでは依頼していないので、ただ桃子が指定した場所に荷物を置いていくだけだ。もともと荷物の全体量が少ないこともあって、午前中のうちに全て終了してしまった。

 初めて見たときは結構広く感じたのに、こうして荷物を運び込むと、やはり以前のマンションよりもかなり狭いことを実感する。
 部屋の広さとミスマッチしているせいか、一回り大きくなったように見えるソファやベッドを見つめながら、桃子は成美の部屋を思い出した。ああいう、和風テイストの方が空間を有効に使えそうな気もする。
 慌てることはないが、とにかく住めるようにしなくては、と桃子は休まず作業を続けた。

 ポケットの携帯が鳴ったのは、そろそろ昼食にしようと一息ついた、午後一時頃だった。
『もしもし、木村さんでしょうか。『WANTA』の鈴元と申します』
 あまりにもタイミングが悪い、桃子は少し苛立ちながらも、呼吸を整えてから明るい口調で返事した。
 連絡が来ること自体はありがたいのだが、せめて明日にしてほしかった。ミーナの件もあったため、まだブログを一度も更新していない。
 あと一日あればなんとか体裁を繕うこともできただろうに。
 そんな桃子の考えとは関係なく、携帯からは鈴元の声が続く。

『今日、なんとか時間を作ることができました。先日お話した件について、これから会ってご相談したいのですが、可能ですか?』
「え、今から、ですか?」
『はい、急なことで申し訳ないですが』
「あの、実は私、今引越しをしているところなので・・・・」
『え、引越しですか? それは知らなかった。じゃあ、今大変な最中ですか?』
「ええ、まあ・・・・」
『そうですか、それじゃあ、今からお会いするのは難しいですかね。いや、困ったなあ』
「何かあったんですか?」
『いや、なんというか、私もですね、通常の仕事の合間合間でブログの検討作業をしていますからね。次にいつ、こうした時間を作れるか、はっきりしないんですよ。かと言って、あまりのんびり構えているわけにもいかなくてですね・・・・』

 桃子は黙って話を聞いていた。だが、そこで鈴元の言葉は途切れてしまい、しばらく無音状態となった。
 おそらく、これ以上先方には話すつもりがないなのだろうと察した。
 つまり、桃子になんとかしろ、時間を作って会え、と暗に要求しているのだろう。

「あの、後は細々した物の整理だけですから、少しくらいなら・・・・」
 仕方なく桃子がそう返事すると、待ち構えていたように、勢いよく鈴元の声が被さった。
『本当ですか。いや、すみませんねえ。じゃあ、貴方も大変でしょうから、今からそちらの方へ行きますよ。最寄り駅で待ち合わせるということでいかがですか?』
 瞬く間に段取りを決められてしまい、桃子は勢いに呑まれて承知してしまった。

     *

 約一時間後、待ち合わせ場所である丸の内線南阿佐ヶ谷駅に鈴元が現れた。
 桃子は一度も鈴元の姿を見たことがない。地下鉄の入口前で所在無く立っていると、「木村さん」と声をかけながら近づいてくる男があり、自らを鈴元と名乗った。

 初対面なのに、迷う様子もなく自信たっぷりに、一直線で桃子に向って来られたのは何故なのか、不思議だった。
 そのことを問うと、鈴元は以前、ネルモ合同オーディションの会場で桃子の姿を見ていると言いながら、その時桃子が送付した写真と履歴書のコピーを取り出してみせた。
 なるほど言われてみればその通りだ。顔を知っているからこそ、鈴元の方から連絡が来たのだから。

 少し緊張気味だった桃子は、鈴元の姿を見て途端に萎えてしまった。
 薄汚れたスニーカーに、同じく薄汚れたジーンズ。腿の辺りは特に茶色がかった染みのようなものが拡がっている。色的にも位置的にも、それが手垢であることは明白だった。
 視線を少し上に移すと、水色のトレーナーが視界に入る。今日が暖かいためか、十二月なのに上着はない。トレーナーには目立った汚れはないようだが、完全に色あせてしまっており、裾や袖口などは全てだらしなく伸び切って、いかにも年季が入った感じだった。
 そして、その上にのっかている顔は異様に痩せこけ、メガネの奥には細くて貧相な眼と、筆で力強く塗ったような、濃くて太いクマが印象的である。

 どうも、ファッション雑誌の関係者とは思えない風貌だった。この前会った編集長の谷口という男は、多少地味な色調ではではあったけど、一見して安物ではないとわかるジャケットとシャツをラフな感じで着こなしており、いかにも自分なりのポリシーを持ったセンスのいいオジサン、というイメージだった。
 そして鈴元との最も大きな違いは、清潔感だ。編集長は汚れ、染み、ホコリ、臭いといった類の言葉とは一切無縁な存在に思えた。その対極に位置する人物が、目の前にいる。正直なところ、桃子の一番嫌いなタイプに近い。
 編集長とヒラの差、なのだろうか。それともどちらか一方の男が特殊なのだろうか。

「さて、あまりお互い時間もないでしょうから、早速どこか近くのお店で話しましょうか。いろいろ込み入った内容をやりあうかもしれないから、静かな所よりも気軽に話せる雰囲気のところがいいですね、僕としては。できればテーブルもそれなりに広いと助かりますけど、どこかご存知ですか?」
 鈴元にそう尋ねられても、桃子もあまりこの周辺について詳しくない。地下鉄丸の内線は、この辺りではちょうど青梅街道の真下を通っている。従って南阿佐ヶ谷駅も街道沿いにある。ただ、青梅街道は道幅も広く車の交通量も多いが、それは単に幹線道路というだけで、通り沿いにあまり飲食店の類は多くない。駅前と言っても、地下鉄はこんなものだ。

 鈴元もこの辺りは不案内なようだ。当てもなくとりあえず、といった様子で周囲を見回しながら、街道を歩き始めた。
「お店があるとしたら、こっちの方でしょうか」
 あまり自信はなかったが、桃子はそう言いながら、駅からほぼ北に向って、JR阿佐ヶ谷駅まで真っ直ぐ続いている「中杉通り」を指した。
「なるほど。では、あそこにしましょうか」
 桃子が無造作に差した指の延長線上に、偶然ファミレスがあった。

 無論、桃子に異論はない。鈴元は桃子に同意を求めることもせずに、勝手に歩き出した。かなりの歩幅で、速度も早い。桃子は小走り寸前の足取りでついていく。女と一緒に行動している自覚がないのだろうか。自分への配慮が感じられないのが気に入らない。

 まあ、今はデートしてるわけでもないし、この人は友人でもない。それにこれは仕事に関することなのだから、この程度で文句を言っている場合じゃない。もしかしたら、この人は敢えてこうした態度をとり、私に仕事の厳しさを伝えようとしているのかもしれないし。
 半ば無理矢理にそんな解釈を造り上げ、桃子は黙ってついていった。しかし、鈴元の背中を追いかけながら、そこにへばりつくように肩からぶら下がっている青黒いリュックを見ていると、どうしても気分が引き締まらなかった。

 ファミレスに入り、席につくなり鈴元は話を始めた。
「できれば年内のうちに一度、内部で提案したいと考えているんですよ。そのためにも貴方のブログについて、今のうちに意見交換したいと思いまして」
「年内ですか」
 桃子は頭の中でカレンダーを思い浮かべた。今日はもう十二月中旬。つまりあと一、二週間のうちにということである。

「提案する時に、貴方をブロガー候補として紹介しますから、サンプルとして貴方のブログを一部でいいから使いたいと思っています。前にも電話で話しましたが、僕の企画内容だけでなく、その方が他のスタッフもイメージしやすいかもしれませんからね」
 話を聞きながら、桃子は大いに焦った。まさかこんな急展開になるとは。決まった企画ではないから、もう少しゆっくりしたペースで、じっくりと検討しながら準備を進めていくものとばかり思っていた。

 いたたまれないような思いで、桃子は鈴元の説明を遮った。
「あのお、実はあれからブログを全然更新していなくてえ・・・・」
「・・・・そうなの?」
 にわかに鈴元の声が低くなり、眼光が鋭さを増した。桃子は正視できずに小さく頷き、そのまま俯いてしまった。

 怒られるかな、と思ったが、鈴元は全く別のことを言った。
「大丈夫ですよ。どのみち企画資料に添付しようと考えていたのは、できるだけ新しめの記事を二、三本ですからね。今から十日くらいのうちに書いていただければ問題ないですよ。それに、あくまでサンプルですから気楽に考えていいですよ。いい内容にできるように、僕もできるだけアドバイスしますから、お互い頑張りましょう」
「あ、はい。ありがとうございますう」
 桃子は心底救われるような思いだった。この鈴元という男、存外優しいのかもしれない。

「それで、早速なんですけど、一度ブログを見せていただきたいのですが」
「へ?」
「僕もうっかりしてましたよ。一度も木村さんのブログを見たことがないもので。ほら、ブログのアドレスもタイトルも、今まで何にも訊かなかったでしょう。貴方の履歴書にも書いてなかったし」
「あ、そういえば――。見るって、今からですか?」
「ええ。今から」
「でも、私パソコン持って来てないし。引越したばかりだから接続もしてないし」

 すると、鈴元は青いリュックに手を突っ込み、桃子の物よりも一回り小さいパソコンを取り出してみせた。
「これで。ここでアクセスできますよ」
 鈴元はパソコンを起動させてから、桃子に差し出した。

(第六話につづく)




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