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芍薬の部屋(連載中)

芍薬の部屋 話の四 共生(前編)

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「ずいぶんと甘いものがお好きなんですね」
 レジカウンターに買い物カゴを置くと、主婦なのかフリーターなのか学生なのか、極めて微妙な外見と声音と口調を併せ持つコンビニの女性店員に、笑顔で話しかけられてしまった。
 ほぼ毎日、同じような時間帯に現れては大量にお菓子――特に「コアラの町」を主軸としたチョコレート類――を買い込んでいく謎の学生として、健吾は店員たちにすっかり覚えられてしまったらしい。

「実は幽霊とルームシェアしてまして。お供えがないと祟るんです」
 などと言えるはずもない。迂闊なことを口走れば、謎の学生からアブナイ学生へとクラスチェンジしてしまうのは明白で、それは今後のお菓子購入活動に支障をきたすことを意味している。
 健吾は締まりのない愛想笑いでその場をごまかし、足早に店から退散した。


『二ノ塚マンション』のA棟五〇一号室に現れた、というよりも住みついていた幽霊、瑞奈との同居状態が始まって、一週間ほどが経った。
 事態に目立った進展は見られない。瑞奈の生前の記憶も曖昧なままだった。

 頼みの綱であるはずの従兄妹、珠希との連絡も途切れがちになっている。初めの二~三日は部屋まで様子を見に来ていたが、今は時折メールを寄越すだけになっていた。

 ちゃんと本人に確認をとったわけではないが、どうやら珠希には霊能力のようなものがあって、その方面に関する知識や対処法なども心得ているであろうことは、これまでの彼女の言動からも推測がつく。出会ったときに言っていた「パパの手伝い」というのも、つまりこうした内容を指すのだろう。

 その珠希から、いくつか釘を刺されていることがある。特に強調したのは三点。
 曰く、一つは「藪蛇になるから独りで勝手に動くな」、もう一つは「幽霊に詳しくなったと、知った気になるな」、そして最後に「瑞奈と親しくなるのは構わないが、必要以上に入れ込むな」。

 他にも「あのコに劣情を催すようなことがあったら、ただちにマンションから叩きだす」というのもあるにはあったが、そこは珠希流のジョークだと思いたい。でなければ悲し過ぎて涙が止まらなくなってしまう。
 ともあれ、この方面について全くの素人である健吾としては是非もない。珠希の知識や判断を信じて従うしかない。

 八月に入り、より拍車のかかった猛暑の中、汗を垂れ流しながら坂道を上り、ようやくマンションに辿り着く。
 何の変哲もない白い建物と、右手にぶら下げた白いコンビニ袋を交互に眺め、健吾は深いため息をこぼした。
「僕って、一体何やってるんだろう」

 目の前のマンションとコンビニを往復するだけの毎日。早くなんとかしたいのは山々であるが、他にできることがなかった。そもそも、霊感なんかあるはずもないのに、どうして瑞奈と出くわすようなことになったのだろうか。

     *

 五階に上がって、自室に戻る前に、隣の五〇二号室に寄ってチャイムを鳴らしてみた。
 何の反応もない。
 ノックもしてみたが、やはり返事はない。
 何かあればすぐに駆けつけると言っていたはずの珠希は、ここ数日不在のようだった。

「ただいま・・・・」
 五〇一号室に入り、玄関で靴を脱ぎながら声をかける。本来的に、いや現実的には自分以外に誰もいないはずのこの部屋でただいま、と言っても仕方ないのだが。
 それでも「いる」と分かっている――しかもそれが女の子――だけに、無言でずかずかと入室することに抵抗を感じる健吾だった。

 数秒の後。
 しゅるしゅる――ぴしゃっ。
 と、奇妙な音が聞こえて、それからさらに数秒後――。
「おかえりなさーい」と、奥で瑞奈が返事をする。

 健吾が外出先から帰宅すると、いつもこんな具合だった。
 この、返事が聞こえるまでの『間』が怖い。

 僅かばかりの沈黙の中で、一体何が起きているのか。
「しゅるしゅる」と布が擦れるような音、それに続く「ぴしゃっ」という、粘性の高い液体の塊が床で弾けるような音は、何なのか。

 健吾は想像してしまう。
 瑞奈はどうやら、「男がいると出現する幽霊」だ。
 逆に言えば、男がいなければ出現しない。つまり、健吾が外出中は「消えている」のではないか。
 そして健吾が帰宅すると、その都度出現する。あの不気味な『間』と奇妙な音は、瑞奈が形作られているときに生じるものではないか。その様子とは一体・・・・。

 うっかりその場を目撃してしまったら、絶対に後悔しそうなので、健吾は瑞奈の「おかえりなさーい」が聞こえるまでは、玄関から決して動かない。

 中に進むと、いつものように、六畳間の黄色い畳の上にちょこんと瑞奈が座っていた。
 長い黒髪に透き通るような白い肌、少し痩せすぎにも見えるが、それでも充分に滑らかなラインを描く頬に細く通った鼻筋、大きくて黒目がちな瞳。
 いつもポケっとした表情をしているが、それでもつい見惚れてしまいそうになる。これで十四歳と言うのだから、そのまま大人になったら、とんでもない美人になっていたのは間違いない!

 などと少々オヤジ臭い論評を思考していると、健吾の視線に気づいた瑞奈と目が合った。
 瑞奈は、ポッと頬を桜色に染めて、視線を逸らした。

 ・・・・困った。
 なんでか、最近瑞奈は健吾と目が合うと、こういう態度を示すようになった。
 理由は分からないし、どう対処していいかも分からない。そして一番困るのは、不覚にも、そんな彼女を見ると健吾の心臓がちょっとだけドキドキしてしまうことだった。

 なんとなく居心地の悪い雰囲気をわざとらしい咳払いでごまかして、健吾は六畳間に足を踏み入れ、瑞奈の前に座ると手にしていたコンビニ袋を差し出した。
 途端に瑞奈の両目が大きく開き、キラキラと輝きだす。

「ちょこだー」
 と、子どものようにはしゃぎながら、両手を伸ばしてくる。つい今しがた見せた恥じらいやはにかみに似た表情は嘘のように消え去っていた。
 健吾は苦笑しながらも、素早く袋を瑞奈に渡した。このときモタモタしていると、興奮のあまり彼女の首がもげてしまうことがある。

 コンビニ袋の中から「コアラの町」が三箱あるのを見つけると、両手で抱きしめるように抱え上げて、満足そうに微笑む。
 すると、次第に部屋が涼しくなってくる。こうした現象は、最早日常茶飯事のレベルで繰り返されており、健吾もすっかり慣れっこになっていた。

 かつて、珠希にいじめられて大泣きしたときは、凍え死ぬかと思うほど寒くなったが、お菓子を食べる時などは程よい涼しさになる。どうやら悲しくても嬉しくても、気持ちが昂ると冷気を発し、その起伏が大きいほど寒くなるらしい。

「いただきまーす」
 瑞奈が大きく口を開け、「コアラの町」を二~三個まとめて放り込み、もごもご食べ始めると、さらに涼しくなる。

 お菓子であれば何でも喜んで食べるが、特にチョコレート類が好きで、中でも「コアラの町」が格別――これは、健吾が実験の末に導き出した答えだった。
「きのこの野山」「パイの芽」「チョコフリーク」「LOCK」「ポキッとカット」などなど、色々食べさせた結果、「コアラの町」の時が一番涼しかった。

     *

「さて、と」
 瑞奈が幸せそうに食べるのを見届けて、健吾は立ちあがった。
「僕はちょっとシャワー浴びてくるよ。買い物してかなり汗かいちゃったし」
「ふぁーい」と、もごもごのままの瑞奈の返事。
 浴室へ向かおうとすると、背後から声をかけられた。
「あ、ちょと、まてくらはい」
 瑞奈は慌ててゴクっとお菓子を飲みこんで、一息ついてから続けた。

「えっと、あのー、た、タオルを・・・・」
「タオル?」
 たちまち瑞奈の顔が赤くなっていく。
 ――え?
「この前みたいの・・・・、困ります・・・・から」

 最後の方はほとんど声になっていなかったが、何を言っているのか瞬時に理解した。
 途端に健吾も顔を真っ赤にして、六畳間の片隅に積み直した段ボール箱の山に駆け寄った。
「あはは、だ、大丈夫だよ。忘れるもんか、ほら、この通り!」
 箱の中からバスタオルを取り出し、瑞奈の前で大きく掲げてみせた。
「はいっ、いってらっしゃーい」
 笑顔の瑞奈に見送られ、健吾は逃げるようにその場を去った。


 四日ほど前のことである。
 とても暑く、湿気の多い午後だった。いつものように、健吾はコンビニにお菓子を買いに行った。

 ほんの十五分程度の外出時間で、全身が汗まみれになってしまった。シャツも纏わりついてとても気持ち悪い。帰宅するや、無性にシャワーを浴びたくなり、買ってきたお菓子を放り投げるように瑞奈に渡してから、間髪いれずに浴室へ駆け込んだ。

 いつもよりぬるめ、というよりほとんど水に近いくらいの温度で一気に全身の汗と脂を押し流し、体内にこもった熱も合わせて冷却する。

「ぅはあぁぁああ――――極楽極楽ぅ」
 思わず声が漏れてしまう。あまりの気持ち良さに、そのまま居眠りしてしまいそうになるほどだった。
 少しウトウトした心持で、体が充分に冷えて落ちついたところで浴室を後にした。

 脱衣所を兼ねた洗面所で、きょろきょろと辺りを見回す。
「あ、タオル用意するの忘れてた」
 ついでに着替えもない。確かタオルはまだ段ボール箱の中だ。
 まあ仕方ない、と健吾は六畳間までタオルを取りに行った。

「きゃ!」
 すぐ傍で小さな悲鳴が聞こえた。
 見ると、全身ずぶ濡れ全裸の健吾のすぐ前に、両手で顔ごと目を覆った瑞奈が座っていた。

「うわらはっ――」
 意味不明な声を発し、健吾は慌ててその場を退散した。
 それからその日は、瑞奈は一度も健吾と目を合わせようとしなかった。

 その翌々日、つまり一昨日――。
 コンビニ弁当の夕食を終え、ビールを飲みながらくつろいでいると、急に強い眠気に襲われて、うっかりビール缶をひっくり返してしまった。床も服もびしょびしょ。

「・・・・うーむ。仕方ない。風呂入って寝よう」
 その日健吾はまだ風呂に入っていなかったので、シャワーを浴びることにした。

 浴室で、きょろきょろと辺りを見回す。
「あ、シャンプー切れてる」
 確かシャンプーの予備が段ボール箱の中に。健吾は六畳間までシャンプーを取りに行った。

「ふきゃっ!」
 瑞奈が短い悲鳴を上げた。
「ふぉぉーーーーう」
 健吾は慌てて両手で股間を隠した。
 瑞奈も咄嗟に両手で目を覆ったが、今回は指の間隔がやけに広かった。

 二度も瑞奈に全裸を晒してしまった。
 その度に、瑞奈の絶叫と、それに伴う冷気による凍死か、あるいは異変を察知して飛び込んできた珠希の鉄拳制裁を覚悟したが、彼女は大きく動揺することはなく、助けを呼ぶどころか、怒りもしなかった。
 思えば、瑞奈が健吾と目が合うと頬を染めて、恥じらうような仕草を見せるようになったのは、この頃からだ。

 断じて趣味でやったのではない。
 悪戯しようと思ったわけでもない。
 きっと、存在が希薄なのだ――と健吾は思う。

 初めて出くわしたときのインパクトは強烈だったし、期せずして始まった共同生活も、怖いやら緊張するやらで気が気でなかった。
 しかし、瑞奈は幽霊ではあっても悪霊ではないらしく、無害でわがままも言わないため、一緒にいることにはすぐに慣れてしまった。恐怖や緊張が和らぐとともに、「つい、瑞奈のことを忘れてしまう」という現象が起き始めた。

 勿論、目の前にいればすごく気になるが、そうでない場合、ふとしたことで何かに気を取られると忘れてしまう。
 一連の『全裸事件』も、タオルやシャンプーを取りに行く、しかも全身びしょ濡れなので急いでいた、ということに気を取られているうちに、六畳間に瑞奈がいることをすっかり失念してしまったことが原因なのだろう。

 あれだけはっきりと見えて、しかもその気になれば触れることもできるが、肉体を持たない瑞奈は本来この世のものではなく、ひどく曖昧な存在なのではないか。
「知った気になるな」と珠希には釘を刺されているが、そう解釈しないと健吾は落ち着かない。
 自分は決して珠希の言うところの「変態エロイトコ」ではないのだから。


 とりあえずこの一週間で、瑞奈とはそれなりに親しくなった。
 初日の夜はひどく戸惑ったのを覚えている。レンタルDVDや珠希の不用意な変態エロ発言のお陰で、瑞奈もかなり健吾を警戒していた。
 それに加えて幽霊だし、怖いし、女の子だし、プライバシーもあるだろうし――などと考え、夜は六畳間の戸を閉めたほうがいいか、と提案したら、瑞奈は黙って頷いた。

 なので、実際に戸を閉めてからダイニングに布団を敷いて寝ていると、しばらくして部屋の中がどんどん寒くなってきた。
 不審に思い、六畳間の戸を開けて中を覗いてみると――。

 瑞奈が、声を殺して泣いていた。
「ど、どうしたの? お腹でも痛いの?」
 瑞奈は首を振り、嗚咽を漏らしながら小声で言った。

「こ・・・・こあい」
「は?」
「ひとりは、こあいよお」
 以後、戸は常に全開で固定されることとなった。

 お陰で瑞奈が泣くことはなくなったが、部屋の明かりを消すと、闇の中、瑞奈の姿が白くぼんやりと浮かび上がることを知り、健吾の方が「こあいよー」と言いたくなった。

 戸を開けっぱなしにしたことで、分かったことがある。
 瑞奈は、幽霊であっても眠るらしい。
 夜中にこっそりと様子を見ると、座ったままで、首を前後にカクカク揺らしたり――これがまた、首がもげそうで気が気でない――たまに「むにゃむにゃ」と口を動かしている。夢を見ることもあるのだろうか。

 瑞奈の様子を観察することは健吾の役割なのだが、どうも解決に繋がらないようなことばかりに詳しくなっていくようだった。

     *

 無事シャワーを浴び、着替えも済ませて浴室から戻ると、六畳間では瑞奈が相変わらずお菓子を食べていた。
 特にやることもないので、健吾はダイニングに腰を下ろし、テレビをつけて見るともなしに眺めていた。

「うーん、おいし」
 時折、瑞奈の声が聞こえる。
「コアラの町、おいしーなー」
 ぶつぶつ独り言をつぶやいている。
「次はなにたべよーかなー」
 最近、彼女のつぶやきがエスカレートしている気がする。

 なんとなく、分かる。退屈なのだ。
 話しかけてほしいのだろう。

 こんな時、健吾は瑞奈の相手をすることもあれば、無視することもある。
「瑞奈と親しくなるのは構わないが、必要以上に入れ込むな」という珠希の注意が気になっていた。その理由までは教えてもらっていない。
 瑞奈にとって良くないのか、健吾にとってなのかも分からない。

 今の生活に慣れてしまっていること自体、自分は既に瑞奈に入れ込みつつあるのではないか、という懸念がある。
 幽霊に入れ込む、という状況を別の言葉で表現すると、もしかしたら「取り憑かれている」ということになるのかもしれない。

 しかし、これまでのところ、はっきりとした実害はない。むしろ彼女がチョコで興奮して部屋が涼しくなるのは、エアコンいらずで便利なくらいだ。
 次第に、瑞奈に話しかけないのは少しいじわるだとか、自分に甲斐性がないからかもしれない、みたいなある種の罪悪感まで生じるようになっていた。

(つづく)




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