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芍薬の部屋(連載中)

芍薬の部屋 話の五 憑依(後編・2)

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     *

「ほら、これでいいでしょ?」
 数分後、ぶっきらぼうな態度で珠希は、送信済みのメールを表示させた携帯を健吾に見せた。内容は、ノインを半日ほど借りる、ちゃんと無事に帰すから心配しないように。
 あっさりし過ぎな気もしたが、そこは父と娘だし、敢えて口を挟むことでもないだろう。
 健吾は黙って頷いた。

 ちなみに、康則叔父は夏季休暇による海外旅行も終わり、三日ほど前から通常勤務に戻っているとのことだった。
 文句の一つも言ってやりたかったが、
「今は我慢して。あなたにはこの部屋にいてほしいの」
 なんて珠希に言われてしまい、不覚にも鼓動が波打ってしまった。
 それに叔父に文句を言う前にやるべきことがあることも、また確かだ。

「では、ここから本題ね。あまり時間がないわ」
 珠希は瑞奈の正面に座り、二人の間に子猫のノインを座らせた。ほとんど動かず、まるでぬいぐるみのようにも見えるノインには「置く」と表現した方がしっくりくる。

「さあ瑞奈ちゃん、やってみせて」
「ふぇ? 何を、ですか?」
 瑞奈はわけがわからず、首を傾けた。
「何をって――わかるでしょ? 別にあなたの遊び相手としてノインを連れてきたんじゃないわよ」
「え、ちがうんですか? うう、なんかちょっと残念ですぅ」
 瑞奈は本気でしょんぼりしていた。その証拠に、部屋が少し涼しくなった。
 肩と首をがっくりと落とす珠希。

「・・・・瑞奈ちゃん、今までの話聞いてたでしょ?」
「はいっ。えっと――珠希さんがノインちゃんを盗んできたのを、健吾さんに叱られてました」
「はう!」珠希は床につっぷした。
 思わず健吾も噴き出しそうになると、わざとらしくも強烈な咳払いで睨まれてしまった。

「相変わらずね、瑞奈ちゃん。さすがだわ」
 珠希は不敵な笑みを浮かべながら起き上がった。
「でもこんなことでは怯まないわ! 話を続けるわね。ていうか、要するに合体よ合体! 昔やったように、このノインと合体してみせて」
「えええっ」
「そんなに驚くことはないでしょう。私が猫を持ってきたのは、つまりはそういうことだって、分かるでしょ」
「それは――でも急にやれって言われても、どうしたらいいのか」
「もしかして、その時のことをあまり覚えてない?」
「はい・・・・すみません。一度きりでしたし、偶然だったし・・・・」
「ふーむ。そりゃそうよね。やっぱり簡単にはいかないか――ま、とりあえずやってみましょう。当時の状況を再現しながら、ね」

 珠希は立ちあがり、瑞奈の腕の長さや座高を丁寧に測り始めた。困惑し、グズグズしている瑞奈とは対照的に、体のあちこちを触る珠希はいかにも楽しそうだ。
「やっぱり瑞奈ちゃん、すごいわ。この感触、たまらないわあ」
「あ、あのー。たまきしゃん、ちょっとこわいです」
「我慢しなさい、これも合体のため、あなたーのためなのよー」
 目をギラギラさせて、鼻歌交じりにそんなことを言っても、微塵ほどの説得力もない。
「はにう、そこは、くすぐったいでしゅ」
「ふははは、そうかそうか、ここがくすぐったいのか、ほれほれ!」
「ら、てゃまぎしゃん、やめれぇ――」

 間違いなく本来の目的から大きく逸脱していると確信した健吾は、先ほどの珠希を真似るように、わざとらしくも強烈な咳払いを数回繰り返した。
「はっ」と我に返り、頬を赤らめた珠希は、少しだけ面白かった。

「よし。これでよしっ」
 何ごともなかったように平静を装いながら、珠希はノインを抱え、瑞奈から少し距離を置いて座った。
「今ノインは瑞奈ちゃん、あなたが両腕を思いっきり伸ばして跳びついても、ギリギリ届かない位置にいるわ――」

 珠希は右手の人差指を瑞奈に向け、くいくいっと二回ほど折り曲げた。
「――さあ、跳び込んでいらっしゃい。あの時みたいに!」
 ものすごく安直に見えるが、これが当時の再現ということらしい。

 だが、瑞奈は動かなかった。
 珠希だけが空回りしているような、微妙な空気感が部屋の中に充満していく。

「ど、どうしたの? 早く!」
「無理です」数秒の沈黙の後、瑞奈は頭を掻きながら口を開いた。
「あの時は咄嗟のことだったからやっちゃいましたけど、こうして改めてやれって言われても……。それに、ギリギリ届かないって聞いちゃったし、さすがにこれでは・・・・」
 健吾は笑いを堪えるのに必死になっていた。確かに予め「届かない」と説明してしまっては元も子もないだろう。
 珠希は耳まで真っ赤になった。

「て、手強いわね。でもまだよ、まだ終わらないわ! こうなったら、奥の手を使ってやる。この際仕方ないわ――そこの外野、集中できないから静かに!」
 半ば八つ当たりのように健吾を怒鳴り散らしてから、珠希は改めて瑞奈と向き直った。

 そして、抱えていたノインを床に降ろし、前足部分を持ち上げた。
 ちょうど、後ろ足二本だけで立っているような姿勢にさせられたノイン。その格好は、招き猫を思わせる。

 そのまま珠希はノインの前足を、瑞奈に差し伸べるように前後に動かした。
「みずなちゃーん。ノインちゃんですにゃー。いらっしゃーい」

 ごぎゅっ、と瑞奈の喉の辺りが大きな音をたてた。
 突然、部屋の中が寒くなった。
 驚いて一瞬周囲を見回し、再び視線を戻した健吾の前には、絶叫と共にノインに向かってダイブしている瑞奈の姿があった。

 珠希の計算通り、伸ばされた瑞奈の両手は僅かにノインに届かない。そのまま勢い余って倒れ込む上半身、そして音もなく首が外れ――。
 その後は何がどうなったか、よく分からなかった。瑞奈の首が転がりノインにぶつかりそうになったとき、視界がぐにゃりと歪んだような気がした。

「やったわ、どうやら成功みたいね」
 興奮気味な珠希の声。
 彼女の目の前にいるノイン。その背中に、ちょこんと瑞奈の首がくっついていた。
 丸くて太っているとはいえ、子猫サイズであるノインの背には大きすぎる瑞奈の首、床を引きずる長い髪――そのアンバランスさは、角度によっては首から獣の足が生えているようにも見える。

「こ、こ、これは――」
 無意識に出てしまった声に誘われるように、乱れた髪の隙間から覗く瑞奈と、その下のノイン、四つの瞳が健吾に向けられた。

「ぬぅぎゃああああ――――――――!」
 ――やばい、やばすぎる。首がもげるのには多少は慣れてきたという思いもあったが、これは次元が違う!
「く、くっくっ、くびがくびが、ねこ、ねねねこのくびのあしぃぃぃ――――がふぉっ!」
「落ち着け、バカ! 瑞奈ちゃん傷ついちゃうでしょ!」
 珠希に思い切り背中を叩かれて、強制的に黙らされた。

 ――以前にもこんなことがあったなあ。なんか懐かしいなあ。
 息の詰まる中、健吾の思考は現実逃避気味だった。

     *

「合体かあ、なるほどね。確かにこの形はそういう表現が合ってるわね」
 珠希が好奇心丸出しで『瑞奈+ノイン』のあちこちを触っている。
 瑞奈は少し居心地が悪いのか恥ずかしいのか、困ったような顔をしているが、ノインは相変わらずじっとしたまま動かない。どうやら合体したからといって、ノインを操ったりはできないらしい。

 健吾の呼吸が整い、なんとか思考が冷静に戻るまでの間に、珠希によって瑞奈の髪はきれいに直された。それによって多少は不気味さが後退してくれたことは何よりもありがたかった。

「合体っていうのは、その、よくあることなの?」
 とにかくこの状況に早く馴染むためには、何でもいいから説明が必要だと思った。珠希もその辺りは承知しているようで、健吾の質問を面倒くさがるそぶりは見せない。

「『合体』という表現は瑞奈ちゃんのオリジナルね。一般的には――と言っていいのかわからないけど――これは『憑依』だと思うわ」
「憑依って、いわゆる『取り憑く』ってこと?」
「そうそう」

 自分から説明を求めておきながら、健吾は半分後悔し始めた。猫に幽霊、とくれば「化け猫」という言葉がどうしても浮かんできてしまう。
「そんなに青ざめなくてもいいわよ。ほら、見た目はともかく、ノインの様子におかしなところはないでしょ」
 ちらっと確認してみると、ノインはちょうどのんびりと欠伸をしているところだった。

「うん、確かに普通だ――憑依ってもっと、何て言うか、憑いた相手に良くない影響を及ぼすイメージだったから」
「そういうことも珍しくないわよ」
「う、やっぱりそうなの?」

「憑依は、取り憑く相手に対して何らかの強い思いを抱いていないと難しいらしいのよ。それが恨みや妬みといった類のものであれば、相手に悪い影響が出るわね。そしてそういう強い思い――つまり執着――は、得てして負の感情からの方が生まれやすいってことね。だから憑依は生前に縁のあった人や動物、物に起きやすいの」
「ああ、それはなんとなく理解できそうな気がする」

「まあ、憑かれる側の素質とか、憑く側の力といった要素もあって、一概には言えないのだけれど、瑞奈ちゃんの場合は恨みとかは無関係な『猫大好き』感情だし、ノインとは初対面だし、まず問題はないはずよ。安心した?」
「とりあえずは。でも、単に猫が好きだからって、こうもあっけなく『合体』できちゃうとは――」
 憑依って、実は簡単なんだね――そう健吾は続けようとした。
 ところが、珠希は意外な言葉を被せてきた。
「瑞奈ちゃんの力は凄いわねえ」
「は? それってどういう?」
「こんなに強力なのは初めてよ。ほんと、やばい霊じゃなくてほっとした」
 背筋に冷たいものが走った。

「そんなに強い・・・・の?」
「もちろん! 四六時中姿を現すし、しかも触れるなんて凄すぎるわ。憑依なんてきっと朝飯前ね」
 冷たいものが、背筋からはみ出して全身に広がっていった。
「あのー、そのう」
 驚きのあまりうまく声がでない。池の鯉のように口をぱくぱくさせているうちに、
「ただね・・・・」
 と、急に伏し目がちになり、シビアなトーンで続きを話し始める珠希。

 声にならない叫びで健吾は訴えた。
 ――そういう変化は暗い予感ばかり掻きたてるので心臓に悪すぎます。

「力が強いということは、それに見合うだけの強い『思い』を残しているということね。その肝心なところを忘れちゃっているわけだけど、思い出したとき瑞奈ちゃんがどうなるか・・・・辛い記憶でなければいいのだけど、楽しい記憶だけでここまでの力は――」
 珠希は急に口を噤んだ。
「・・・・ノイン?」

 その声につられ、健吾はゆっくりと視線を移した。
 ノインが不可解な動きをしている。

 険しい顔つきで、仰向けになって全身をよじりくねらせ、背中を床に擦りつけている。
 これまでほとんど動かなかった分、それは大暴れと言ってもいいくらいのギャップを感じた。

「ううあう、ぐう」
 瑞奈の唸り声が聞こえる。

「た、たま・・・・き、しゃん・・・・」
 慌てて珠希がノインを持ち上げた。
 背中にくっついていた瑞奈の顔は擦り傷だらけになっていた。

「瑞奈ちゃん、大丈夫?」
「め、目が回りますぅ。顔もヒリヒリしますぅ。」
「ごめんなさい。何も起きないと思っていたのは間違いだったようね」

 珠希は爪を立てるようにして、ノインの背中、瑞奈の首回りの辺りを強く掻き始めた。
 途端に、ノインはいつもの無表情に戻った。目を細め、喉を鳴らしている。

「瑞奈ちゃんとくっついたところが、かゆいみたい。あははっ」
 若干複雑な成分が混じりながらも、珠希はにこっと微笑んだ。
 これほどリアクションに困る場面を知らず、健吾は絶句したまま固まっていた。

「さて、時間を取り過ぎたわね。もうあまり余裕がないわ。急ぎましょう」
 珠希は時計を確認すると、途端に急かすような口調になった。
「で、これからどうするの?」
 立ちあがりながら、健吾が尋ねる。

 今度こそ満面の笑みで、珠希は答えた。
「合体に成功したんだから、外に出なくちゃ」
「行き先は?」
「瑞奈ちゃんの手掛かりがありそうな場所を見つけたのよ。さあ、出発しましょう」


(次話につづく)



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~ Comment ~

進みましたね!

かなりの進展。珠希ちゃんの行動力には感動致します(*^_^*)
猫は迷惑だけれど、確かに猫にもいろいろいて、このノインちゃん、いい味出しています。こんな猫いるいる、と思いながら拝読しました。
そうですよね、確かにこんな強力な霊である瑞奈ちゃん、何か強い想いを残しているのですよね。それが何かとても気になります。
解決編、楽しみです。それにしても、この3人(+1匹)、本当にお笑いトリオみたいで面白い~
どんな真実が待っているのかしら。楽しみに次を待ちたいです(*^_^*)

Re: 進みましたね!

大海彩洋 さん

コメントありがとうございます。
ホントにもう、更新が遅くてすみません。
そろそろ次の回を掲載するつもりの時期が過ぎたのですが、まだ半分ちょっとくらいしか書けていなかったりして><
「掲載はちゃんと書き溜めてから!」が、今作の教訓です^^

猫と合体する幽霊というのは、今回の幽霊のイメージとしてかなり早い段階で固まっていましたが、なかなか登場できなくて難儀しました。難儀したわりにはあまり重要ではなくて(無意味ではないです)、ノインちゃんもこの後活躍しないんですけど、その辺りが少々残念に思っています。
ともあれ、一応は終盤に向けて動き始めています。
そうですね、「解決編」といえば、そうなるのでしょうかw
少々強引に、しかもあまり盛り上がることなく終わらせる感じになってしまいますが、どうかよろしくお願いいたします。
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