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「犬の肉球ブログ(連載中)」
【蓮編】 三 パピヨンの憂鬱

犬の肉球ブログ 蓮編三 パピヨンの憂鬱 第四話

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三 パピヨンの憂鬱 第四話


【TOKOさん
 やっと復活されたのですね。しかもブログ名は『犬の肉球』に訂正しましたね。やっとわかっていただけて嬉しいです。私も一生懸命あなたを導こうとした甲斐がありました。これからももっと良いブログ作りに励んでください。応援してます。myna】

【mynaさん
 お久しぶりです。コメントありがとうございます。これからはマメに更新していこうと思ってます。ブログ名を変えるのは実は少し怖かったんですが、思い切ってやってみたら、なんか前よりとてもしっくりきてます。こんなことなら、もっと早くにやるべきでした。あらためてmynaさんに感謝してます。またお気づきの点があれば、何でも言ってください。TOKO】


「何だ? この仲良しコメント」
 蓮は、美沙の携帯に表示されたコメントを読んだ。確かに違和感を感じる。蓮に続いて成美、幸秀と回し読みをしているが、みな似たような感想をもったようだ。

 ――ったく、あのばか。
 誰かがそう呟いたように聞こえた。蓮は周囲を見回すが、一体誰の声だったかわからない。空耳かな、という気もしている。

 パソコンには、同じブログを読んでいる亜衣の様子が映し出されている。
「どうっすか、亜衣さん」読み終わった頃を見計らって、美沙がパソコンのマイクに向かって話しかけた。「ミーナと仲良しってあり得ませんよねー」
 亜衣は黙っている。

「まあ、人生いろいろっすから、神様が逆立ちでもして、奇跡的にセンパイがミーナと仲良しになった、としてもいいっす。でも何すかこれ? 『あなたを導く』とか書かれても、平然と『ブログ名を変えるのに勇気がいる』とか大袈裟に返事してるっす。名前の変更にビビるなんて聞いたことないっす。こんなのいつでも、いくらでも変えられるんだし。センパイの感性からも語彙からも外れてるっす。ご意見願うっす」

 美沙の話にウケたのか、亜衣は少し表情を崩しかけて言った。
「言われてみれば、らしくないな。相当変だ、ということについては同意見だ。だが、たったこれだけの短い文を読んだだけで、別人が書いたと即決するのはどうかな。たまたま何かに影響されて、普段と違う文章が書けたりすることもあるしね」
「その通りっすー。だからね亜衣さん、確認してみたいんす。そのために教えてほしいことがあるっす」
「一体何を?」
「センパイが本物か偽物か確かめる方法っす」
 亜衣は一瞬唖然とし、それから笑いだした。

「亜衣さん、じぶん、真面目っすよ」
「わかってるよ。いきなり難問出されたからちょっと面喰っただけだ」亜衣は少し姿勢を正し、カメラに向かって真っすぐ正面を向いた。
「よし、美沙の要望を確実に叶えられるかどうかは、さすがに自信がない。助言ということで、思いついたことを伝えておくよ。やる、やらないはそっちの判断だ」
「了解っす」

「理屈は簡単だよ、かまをかけて反応を見ればいい。桃子らしければ本物、らしくなければ偽物だ。所在不明で話すこともメールもできないなら、唯一の手掛かりであるこのブログに書き込むしかないな。それでリアクションがあるかどうかは、賭けだ」
「何を書けばいいのかしら」成美はいつの間にか手帳を取り出して、メモしながら聞いている。
「そうだな・・・・本物なら知ってて、偽物なら知らない情報が必要だ。桃子は自分の過去を他人に話そうとしないから、過去の話題――上京前がいい。そうだ、そこにいる蓮くんには申し訳ないが、先ほど話題にも上ったことだし、元彼に登場していただこう」
「え、元彼って連絡つくの?」蓮は少し驚いた。
「ちがう、元彼のふりをしてコメントを書くんだよ。誰が書いてもいい。桃子はご存じの通り、そっち方面にかけては輪をかけてものすごくわかりやすい性格だから、丁度いいだろう。フレンドリーな反応を見せたら、偽物と考えられる」

「あら、じゃあその元彼とはあまりいい思い出がないのね」手帳にペンを走らせながら成美が訊いた。
「簡単に言えば遊ばれて捨てられた。桃子が初対面の男を警戒して距離を取りたがるのは、その時の体験が影響してる。今更あの男が美しい思い出に昇華されることはない」
「へえ、あのコにもそんな過去があるのか。みんないろいろあるんだな」
 幸秀の感慨を受けてさらに亜衣は続けた。

「自分を虚仮にした男をいつか見下してやる、というのがモデル志望の原動力だよ。背伸びして必要以上にプライドを保とうとするのもそのせいだ。だから、蓮くんが桃子の彼氏になったっていうのはちょっと意外だった」
「え、なんで・・・・かな、僕だと何か問題が――」
「いや、君個人がどうこうじゃなくて。男を見下し、見返すためにモデルを目指しているのに、その道半ばで男に惚れてしまうと、彼女の中で矛盾が生まれてしまうらしい。『将来有名になるから、今のうちからスキャンダルはご法度だ』なんて言ってごまかしてたけど、恋愛すると目的を失いそうで怖かったんだと思う。実は一途に尽くして甘えるタイプだからね――すまない、余計なことを話しすぎた」
「いや、少しだけ、桃子さんのことがわかってきたような気がする。ありがとう」
 蓮が頭を下げると、あんたのそういうとこが気に入ったのかもね、と亜衣は付け加えた。

「さて、もういいだろう。いいかげん疲れたからもう寝るよ。美沙も学校だろ。元彼に扮するために必要なことは、後でまとめて『ヒデジロウ』さんのところにメールするよ」
「あ・・・・でも」成美が少し迷いを見せた。
「大丈夫だよ、メールはちゃんと送る。私は嘘は平気でつくけど、約束だけは必ず守るようにしているから」
 そう言い残して、亜衣は落ちた。

「・・・・大丈夫かしら。このまま音沙汰なしだったりして」
 成美はどうもすっきりしない、という顔つきだった。
「初対面だから細かいことはわからんが、最後の方は結構協力的だったじゃないか。よく語ってくれたし。いい方に向かっているように見えたぞ」と幸秀はフォローする。
「そう思いたいけど、結局亜衣ちゃんはチャット以外の連絡先も教えてくれなかったわ」
「あとひと押しっすね」美沙が口を挟んだが、声に力がない。床に転がり、もう半ば以上寝ているようだった。

「ねえ美沙ちゃん、桃子ちゃんの偽物説って実際どうなの? 私、場の勢いで賛同しちゃったけど、本当にあり得ると思う?」
「あいー・・・・本気っす。亜衣さんも、助言くれたってことは、内心では支持してくれたと思うす・・・・やっぱ、亜衣さん必要す、味方にするっす・・・・カレシさんの暴走、恥ずかしくてナイスっす、亜衣さん、呆れて毒気がぬけたっす・・・・」
 そのまま美沙は気を失うように眠りこんでしまった。


(第五話につづく)



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