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【番外編】芍薬の部屋 アナザーサイド

芍薬の部屋 アナザーサイド(前編)

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 双塚市、と書いて「ふたつつかし」と読むらしい。ずいぶんと語呂が悪い。
 僕にとって縁のない場所だと思っていた、東京に隣接する静かな住宅地。
 人生が順風であったなら、ここに来る機会は生まれなかっただろう。ここに降り立つことは、僕が何かにつまずいてしまったことを意味する。双塚市とはつまり、僕にとって失敗と挫折の象徴だ。

 そんな取り留めのない考えを巡らしているうちに、電車のドアが開く。
 ホームへと足を伸ばしたのは、ほとんど無意識のうちだった。たった今、挫折の象徴と自ら規定したばかりの地に、なんの躊躇いもなく降り立ててしまう自分に嫌気がさした。

 目的地の看板は、駅のホームに立った時から既に確認できていた。
 佐藤不動産。
 三原という、仕事でよく世話になった人物に紹介してもらった会社だ。

 ――便宜を図ってもらうよう伝えておくから、何とか格安の物件が探せるかもしれないぞ。
 その厚意に甘えざるを得なかった。

 一か月ほど前に、あっけなく勤め先の会社が倒産してしまった。
 僕はこの春大学を卒業し、就職したばかりだった。社会人経験僅か三か月で得た貯えなんて、あっという間に消えてしまう。今はもう失業保険だけが頼りの、がけっぷちの状態だった。
 会社の同僚は、この一カ月間で次々と再就職先を決めていった。まだ何の見通しも立っていないのは、僕だけじゃないだろうか。

 駅前の商店街に入ってすぐのところにある五階建ての雑居ビル。佐藤不動産はその一階を占めていた。
 入口正面に立つと、自動ドアが開き、中の様子が窺えた。あまり人気が感じられず、閑散としている。

 店内に入ってみると、外からは見えなかったが、手前の接客用カウンターの端に、若い女が一人座っていた。距離があってはっきりとしないが、二十歳前後くらいだろうか。奇妙なことに、その女は物件を探しているのではなく、弁当を食べている。
 たぶん客ではないと思うが、僕に気づいてこちらを見ても、何の対応もしないことから、ここのスタッフでもないらしい。

「あのー、すみませーん。誰かいませんか」
 とりあえず呼びかけてみた。
 しばらくして、恰幅のいい男が奥にある小さな扉からひょいと出てきた。バタバタとサンダルで床を叩きながら、こちらに近づいてくる。

「やあやあ、お待たせしてすみませんでした。えーっと、ご連絡をいただいた、安森さんですね? 私、社長の佐藤康則と申します。三原さんからお話しは伺っております」
「安森です。この度は、お世話になります」
「いえいえ、お力になれるかどうか――とにかく、まずはおかけください」

 勧められるままに、僕は接客用のカウンター席に座る。佐藤社長は正面に構えた。
「いやー、しっかし毎日毎日暑いですなあ」などとありきたりなセリフを吐き、胸ポケットから取り出した扇子を広げて煽ぎ始める。
「おーい――って、誰もいないのか。すみませんね、この時期でしょう。夏休み取ってる社員多くて、しかも今は昼食時間でもありますしね。もうちょっとしたら、何人か戻ってくるんですが」
「とんでもありません、お忙しい時間にお邪魔してしまって、申し訳ありません」
「いえいえ、何をおっしゃいます。大事なお客さんなんですから。おーい、たまきちゃーん」

 佐藤社長は、カウンターの端で弁当を食べている女を見つけて声をかけた。
「申し訳ないけど、お客さんに麦茶、お願いしてもいいかなあ」
 たまきと呼ばれた女は、ピタッと箸の動きを止めた。
「えーっ、なんで私が――」
「今度何か御馳走するからね、お願い」

 佐藤社長が両手を合わせると、女は不承不承といった体で立ち上がり、奥に消えた。
 やっぱりここの社員ではないらしい。
「いやいや、お見苦しいところをお見せしてしてしまって、ははは」
「いえ、とんでもありません」
 どことなく社長の顔が赤らんでいるように見えた。照れているのか? 何を?

 僕の思考は、社長のコホン、という咳払いで中断された。
「さて、それでは早速本題に入りましょうか」
「あ、よろしくお願いします」
 佐藤社長は分厚いファイルとノートパソコンを用意しながら、話を続けた。

「格安の物件をお探しということですが、間取り、設備、立地などに何かご要望はありますか?」
「いえ、特にありません」
 正直なところ、雨露さえしのげれば文句は言わない、という心境だった。
「本当に、何もなし? どんなところでもオッケー、ですか?」
 ・・・・もちろん風呂付きであるとか、駅から近いとか、条件が良いことに越したことはないが。

 佐藤社長は、こちらの内心を見透かしたように、ニヤッと笑った。
「たとえば、こんな物件があります」
 社長は薄黄色くよれた紙片を差し出した。
「三畳一間、築五十年。駅から徒歩で四十五分、風呂なし、トイレ共用、一番近い銭湯まで徒歩で三十分・・・・これなら、家賃は二万です。安森さんなら特別に勉強させていただいて、一万五千円でいいですよ」

 こ、これはっ・・・・。
 僕の予想を大きく上回る、いや下回る?――どっちかわからないが、とにかく僕の常識からかけ離れた物件だった。

「ちなみに、これが外観の写真です。先月撮ったものですな」
 朽ち果ててところどころ崩れている、黒い染みだらけの壁、今にも建物を飲みこんでしまいそうに伸び放題になっているツタ、ど素人が見ても一発で傾いているとわかる建物。いつ崩壊しても不思議ではないようなモノが、そこには映っていた。

 写真を見るうち、額から薄っすらと汗がにじみ出てきた。
 これが現実ってやつなのか、これって仕方ないのか、ここに、僕は住むのか――

 突然、がはははと佐藤社長の笑い声が響いた。
「あまり深刻にならないでください。これはあくまで一例としてご紹介しただけです。積極的にお薦めしているわけではありません」
 そんなに絶望的な顔をしていたのだろうか。僕は恥ずかしさを隠すため、ハンカチで何度も額の汗を拭いた。

「ですがね――」と、少々神妙な面持ちで、社長は続けた。
「――世の中に、格安物件なんてそう多く転がってるわけでもないんですよ。単に安いだけの物件を探せば、見つかることもありますが、大抵は今お見せしたようなボロばかりです。それが現実ってもんです」
 僕は黙って頷いた。その通りだと思う。甘えは捨てて、しっかりと現実に向き合わなければならない。

「ですがね――」と、さらに神妙な面持ちで、社長は続けた。
「日頃お世話になっている三原さんからのご紹介です。ここで安森さんに変な物件をお渡しでもしたら、三原さんの面子も丸つぶれになってしまうし、私も男がすたるってもんです。そこで、今回なんとかご用意できそうなのが、これです」
 大仰な仕草で、佐藤社長は新たに紙片を一枚、僕の前に差し出した。

「二ノ塚マンションA棟五〇一。ここでどうでしょう。先ほどお見せした物件とは雲泥の差です。さすがに二万は無理ですが、四万二千――いえ管理費込みで三万八千円でいかがでしょう?」

 魅力的な数値だった。元々、格安と言っても四~五万は覚悟していたのだ。
 興味をそそられ、手を伸ばそうとしたとき、それを邪魔するかのように、麦茶の入ったコップがどん、と大きな音をたてて目の前に置かれた。

「はいどうぞー」
 社長から、たまき、と呼ばれてい女だ。
「あ、どうも・・・・」と小さく礼を言った僕のことはまったく無視し、彼女はカウンターに置かれた物件情報の紙片を拾い上げた。僕がたった今、手に取ろうとしていたやつだ。

「ちょっと! これは――これを薦めてるの? この人に?」
 彼女の問いに、社長は何も言わずに小さく頷き、ニコニコと愛想笑いを浮かべた。
「ふーん・・・・」と、少々意味ありげな相槌を打ちながら、顔を僕の方に向ける。目が合った。無愛想でぶっきらぼうで不機嫌そうだが、間近で見るとなかなかの美人だと気づいた。

「格安物件にはね。格安になるだけの理由があるものよ。それだけは忘れないでね」
 そう言うと彼女は僕に物件情報を手渡し、外の商店街に消えていった。

「あのう・・・・今の女の人は?」
「まあ、あまり気にせんでください。なんというか、住人の苦情とか、トラブルなんかが発生したときに、たまに対応を手伝ってもらっているんですわ。人手の足りないときだけですがね」

 ここの社員ではない、という予想は当たっていた。苦情やトラブル対応の手伝いというのは何だろう。交渉請負人、みたいな仕事なのだろうか。そうだとしても、あの若さで苦情処理やトラブル解決をこなせるというのは、なにがしかの技量が秀でているに違いないだろう。
 もし、今ここで社長が薦めている物件に住んで、苦情を言えば、彼女が相談に来てくれるのだろうか、などと埒もない想像が脳裏を駆け巡った。

 社長が小さく咳払いをして、注意を促す。
「では話を続けましょうか」
 改めて物件情報を眺めた。駅から徒歩二十分、近くにバス停あり。六畳の和室に、ダイニングが十畳くらいある。エアコン付きでしかも角部屋。駅からは少し距離があるが、苦になるほどではない。一人で暮らすには充分すぎる広さだ。

 ふと、紙片の片隅に、気になる文言をみつけた。
「女性のみ入居可」とある。

「あの、これは?」
「あはは、まあ、気にしないで。そのフロアは今、独身女性ばかりが住んでましてね。物騒だから誰かれ構わずお貸しするのを避けているんです。条件付けする代わりに価格を押さえています。まあ、条件と言っても形だけですから、過去に男性にお貸ししたこともありますよ。安森さんは三原さんのご紹介だから信用できるお方と踏んで、お薦めさせていただいております」

「つまりこの条件が、格安の理由ということですか?」
「概ねその通りです。もちろん他にも、えー、駅からちょっと距離があるのと、建物が古いこともあります。築十九年ですが、中はキレイです。女性もたくさん住んでいるくらいですから」
「実は少し傾いている、とかありませんか?」
「ないない、そりゃあ基礎は立派な工事で」
「別のフロアに、おっかない人たちがいるとか」
「ございませんとも、保証しますよ」
「・・・・わかりました」
 この好条件では、断る理由がない。もともと他に選択肢があるわけでもないので、僕はその場で手続きをし、鍵を受けとった。

     *

 佐藤不動産を後にして、僕は早速『二ノ塚マンション』に向かうことにした。
 引っ越すにあたって、下見くらいは必要だろう。

「本来ならばちゃんとご案内すべきなんですが、実はこの後すぐに商工会の会合がありまして、これがまた厄介なことに、私は議長を務めなければならんのです」

 佐藤社長のあれは、半分以上は方便だろう。それはそれで構わない。
 夕方まで待てば、別の社員が戻るので車で案内させるとも言っていたが、さっさと動けば、徒歩でももっと早く戻ってこられる。
 社長に簡単な地図を書いてもらって、出発した。

 ほとんど道なりだから、まず迷うことはない、と社長は言っており、どうやらその通りらしいのだが、気がつくと、いつの間にか道が登り坂になっている。
『二ノ塚マンション』は、二ノ塚と呼ばれる小さな丘の斜面に建っているらしい。確認しそこなったが、坂の勾配の具合も、価格に反映されている可能性がある。
 とにかく、坂道が続いているということは、かなり近づいているのだろう。

 案の定、それはすぐに現れた。
 五階建ての少しくすんだ白い建物が三つ、並んでいた。左の建物から順に、壁面にA、B、Cと書かれている。
 僕の部屋は「A棟五〇一」だから、左の建物の最上階ということになる。

 これもうっかり確認するのを忘れていたが、中に入ってまずエレベータが目に入ったことに安堵した。猛暑の中二十分以上歩き、既に全身汗まみれだった。このうえ階段しかなかったらどうしようかと思った。

 エレベータに乗り、五階のボタンを押す。途中止まることなく、すんなりと着いた。
 降りて廊下を見渡すと、一番手前にある部屋が五〇一号室だった。廊下の奥を見ると、同じようなドアが合計で四つある。一番奥の部屋が五〇四号室ということだろう。

 受け取った鍵を差し込んで、ぐいっとひねる。
 がちゃりという金属音とともに解錠され、ドアはすんなりと開いた。

 ものすごい暑さだった。日当たりの良い角部屋で窓を閉め切っていればこうなる。エアコンは必須だろう。
 換気の意味も兼ねて、ドアは開けっぱなしにしたまま、中に入ることにした。

 靴を脱ぐため玄関でしゃがんだとき、何かが視界の端で動いたような気がした。
 顔をあげると、特に何もない。視線の先には、玄関から奥へと続くダイニングの床と窓があった。窓の外に鳥でも飛んでいたのだろう。

 玄関を抜けると、正面に一人暮らしでは少々広すぎるダイニング。右側にコンロなど、台所がある。左側手前にはトイレや風呂。

 うん?
 何か、かすかだが、少し変なにおいがするような気がする。

 奥へ進んでいると、後ろの方で物音がした。
 振り返ると、開けっぱなしにしているドアの前を、何かが横切るようなような気配があった。ここの住人が通り過ぎて行ったのだろうか。

 ダイニングの左側奥の壁に引き戸がある。見取り図によると、ここが六畳の畳部屋のはずだ。
 手をかけて、ゆっくりと開ける。
 途端に、むせかえるような甘い香りが流れ込んできた。

 さっきから感じていたにおいは、これだ。熱気と混ざって、たちまち部屋全体がねっとりした空気に包まれるような不快感に襲われる。
「こ、これはたまらん!」
 清掃時に使った洗剤とか消毒剤といった薬品のにおいが残っているのだろう。手近にあった窓を全開した。

 それから改めて、六畳間に足を踏み入れた。
 角部屋の角にあたるのが、この部屋だ。引き戸のある出入り口の正面と、右手にそれぞれ窓がある。左手には押入れがあった。

 ここで妙なことに気づいた。
 一枚だけ、畳の色が違う。
 五枚は青々とした新しいものだが、押入れの前の一枚だけが、長く使い古したような褪せたものだった。どういうケチり方をしてるんだか。

 角部屋は明るくていいが、やっぱりカーテンか何かが必要そうだ。そんなことを思いながら、窓に手を伸ばす。

 窓に映った自分の姿の背後に、別の何かが映ったような気がした。振り返ると何もない。押入れの襖のシミがそう見えたのだろうか。
 窓を開けて空気を入れ換え、思い切り深呼吸した。

(つづく)


※現在、本作用のカテゴリーをひとつ立てておりますが、後日、本編が完結した際に結合する予定です。


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