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蓋 (三)

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(三)

 驚いたことに、こんな私でも身の回りの変化というものは起きるらしい。
 止まっているようでも、時間は勝手に流れていく。いつもと同じ風景を眺めているつもりでも、昨日見たのと今日見たそれとは、似て非なるもの。物事は動くことをやめず、その流れに身を任せていれば、なるように落ち着いていくものらしい。

 正月以来、様子がおかしいと職場では訝しむ視線に晒されていたが、そんな環境に私自身が馴染んでしまった。それが幸いしたのか、周囲の態度も幾分か柔らかくなった。
 かと言って積極的に近づいてくる者もいなかったが、むしろそれが気楽で居心地が良かった。
 一人の例外を除いては。

「先輩、先輩」
 と毎朝連呼しながら近づいてくる新人君。研修期間を終えて、つい先ごろ私の下についた。
 要領がよく、なんでもそつなくこなすので、手がかからない。
 少々口数が多いが、それを欠点と感じるのは私くらいなものだろう。極端にやかましいわけではない。

「先輩、もうすぐお盆休みですけど、どこか旅行とか行かれるんですか?」
 持ち前の人懐っこい笑顔で、ぐいぐい迫るように訊いてくる。
 彼には無視すると少し拗ねるような所があるので、私は仕方なく、最低限の返事だけはするようにしている。
「別に、私、出不精だし」
「えー、じゃあ、他に何かご予定みたいなものはあるんですか?」
「特には・・・・のんびり過ごすだけよ」
「そうなんですかあ。じゃあ、僕と同じですね」
 友だちが多そうな彼にしては意外な台詞だったが、それを詮索する気にもならないので、「ふーん、そうなの」と相槌だけ打っておいた。

「じゃあ先輩、お願いがあるんですけど」
 まだ話が終わらないのかと、若干の苛立ちを覚えながら、私は彼の顔を見据えた。
「何? 仕事のこと?」
「いえ、違います。お盆休みに、先輩のウチに遊びに行っていいですか?」
「・・・・は?」
 一体、私は何を言われたのだろうか。
「先輩んちで、一緒に夕飯しませんか?」
「い、いや、ちょっと何なの、いきなり」
 これは、どういう意味だろう。

     *

 怒涛の展開で、押しに押し切られて、本当に彼がこの部屋に来ることになってしまった。
 一緒に夕飯をと言われたときは、一瞬で心が冷えた。二度と料理などするものかと決めていた。だが、
「僕が作りますから。得意なんですよー」
 という言葉が続き、断るタイミングを失ってしまった。

 ただ無邪気に懐いているだけなのか、暇つぶしなのか、何か相談事でもあるのか、からかわれているのか、それとも本気なのか。
 彼の真意はわからない。それでも私自身、この思いがけない状況を少し楽しいと感じ始めていることは確かだった。

 もうじき彼がやってくる時間だ。料理も必要な食材も、全て彼任せになっている。
 とりあえずやるべきことは、部屋の掃除くらいしかない。
 台所の調理器具は全て揃っているはずだ。
 日課であった探し物も概ね済んでおり、八月に入ってからは一度もやっていなかった。

(それでいいのか)

 一通り片付けをして、居間で一息ついていると、また何処からか声が聞こえ始めた。

(そのままでいいのか)

 無意識のうちに、視線はテレビの前に置かれた物に向けられる。

(もうすぐやってくるぞ)
(見られてもいいのか)
(それはだめだ)
(見られてはいけない。見せてはいけない)

 不意に、激しく頭が痛み出した。細い針を頭蓋に何十本も突き立て、頭皮ごと引っ掻きまわされるような、鋭さと痒みを併せ持ったような得体の知れない感触に全身が粟立ち、脂汗が吹き出した。
 なぜ、こんなにも恐怖するのか。
 なぜ、危険を感じているのか。
 一体何を警戒しているのか。
 これは一体何だというのか。
 この蓋を開けるとどうなるというのか。

(見せたら終わりだ!)

 目の前で火花が飛び散ったかのように、全てが真っ白に跳ぶ。
 そして、ゆっくりと視界が色を取り戻すにつれ、忘れ去られていたビジョンが鮮明に、脳裏に甦ってくる。
 あの日、あの時、あの忌々しい出来事の記憶とともに。

(そうなのだ、私はやってしまったのだ)
(もう手遅れだ)
(なぜもっと早く手を打たなかったのか)
(もう取り返しがつかない)
(見てはいけない。見せてはいけない)
(全てが終わってしまう)
(せめて、今だけは)

 手が、自らの意志とは無関係に、勝手に伸びていく。
 その指先が蓋に触れようとした刹那――。
 部屋にチャイムが鳴り響いた。
 彼が、やってきた。

「先輩、お待たせしました。近所のスーパーで、スイカの安売りしてたんで買っちゃいました。ほら、大きいでしょう。僕の顔くらいありますよ」


(つづく)


※第三話でした。少々体調崩し気味なのですが、本作は投稿するだけなのでなんとかなっています。久しぶりに毎週更新すると、すごくハイスピードな気がします^^
次回が最終回となります。たぶん、予定通り来週中に載せることができると思いますので、よろしくお願いいたします。



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~ Comment ~

NoTitle

うーーん、ホラーと捉えていいんですよね?
その容器の中に入ってるものは何なのか、想像すると怖いです・・・。
この後輩の子は、大丈夫なのかな。
病んでる女は怖いです><
次回で最終回なんですね。
ぶるる・・・。

Re: NoTitle

lime さん

コメントありがとうございます。
はい、「広義のホラー」の範疇のつもりで書いております^^
一応、日常に潜む恐怖ということを念頭においていますが、全然怖くないです。いや、ある意味では怖いかも?(笑)。
元々は一本の短編だったのを、中身が四つに分かれていたので分割して連載しましたが、まとめて載せた方がわかりやすかったかもしれません。
ともあれ、次回が最後になります(来週予定)。容器について今は何も言えませんが、お付き合いいただければ幸いです。
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