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蓋 (四)

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(四)

 この猛暑に、よりによってキムチ鍋とはいい趣味をしている。
 事と次第によっては体調不良でも訴えて帰ってもらおうかと思ったが、彼の風変わりなセンスに内心感謝した。臭いが強いことも、好都合だった。

「真夏はクーラーでがんがん冷やした部屋で鍋、が最高ですよね」
 湯気と辛みで顔中どころか首回りまで汗だくになりながら、彼は勢いよくキムチ鍋を頬張り、ビールで流し込んでいく。
 私も怪しまれないように、調子を合わせて鍋をつついた。
 少々辛いが、正直なところかなりの美味だった。喉が渇き、ビールが進む。
 やがて酔いがまわり、気分もだいぶ弛緩してきた。

「ところで先輩」
 彼も若い食欲を満足させたのか、のんびりした口調になっていた。
「何かしら?」
 答えながら、心の準備を始める。いよいよ本題、今日彼がここにきた理由が明らかになるかもしれない。それにしては今一つ緊張感に欠けるように見えるのが気がかりだった。
 やはり、私が微かに期待していた内容とは違うのだろうか。

「この部屋って、ちょっと変わってますよね。あちこち壁が凹んでたり、黒っぽい染みがあったりで」
「えっ?」
 言われて、初めて気づいた。

 改めて見渡すと彼の言う通り、壁は穴だらけ、染みだらけだった。
 これはあの時、逆上して我を失った私が暴れて殴ったり物を投げたりして出来たもののはずだ。
 つまり、あの時から今までずっと壁はこの状態だったのに、私はそのことを気にとめないどころか、全く認識していなかった。たった今指摘されるまで、見えていなかったのだ。
 なんということだろう。
 私はやはりまだ、どこか壊れたままなのか。

 しかし、今はそんな絶望に身を浸している場合ではない。
 彼に見られてしまった。
 壁の穴や凹みはどうでもいい。問題は「黒っぽい染み」だ。
 あれは、血だ。
 時間も経ち、かなり変色してほとんど真っ黒だが、彼は気づいているだろうか。

「良ければ今度、直しますよ。デコボコ均したり、壁紙貼ったり。実は好きなんです、そういうの」
「あ、ありがとう・・・・なんかすごいね。料理得意で、壁も直せたり」
「へへ、何でも自分でできないと気が済まないタチなんですよ」
 得意げに笑って見せる彼に、今のところ不審な点はなさそうだ。
 あまり用心深くなってもかえって怪しまれてしまうこともある。むしろこちらから積極的に話しかけて、別の事に注意を向けさせる時間を増やした方が得策だろう。
「あ、もうビール切れてるでしょ。今冷蔵庫から取ってくるね」
 私は立ちあがって、台所に向かった。

 冷蔵庫を開けると、彼が買ってきた大きなスイカが目に入った。触ってみると、もういい塩梅に冷えていそうだ。
「ねえ、スイカどうする? 食べる?」
 声をかけると、居間の方から彼の声が返ってきた。
「お、いいっすね。でもスイカは最終ラウンドでしょう。僕はまだまだいけるんで、第二ラウンドに移っていいですか?」
 まだ食べるのか、と内心苦笑してしまう。でも、久しぶりに楽しい気分だった。
 ずっと、きっとこんな情景に憧れていたのだ。あの時も、きっと。

「いいけど、第二ラウンドって、次は何を食べるつもりなの?」
「鍋のシメ、と言ったら雑炊で決まりです! キムチ雑炊、かなりいけますよ」
「あはは、それ美味しそう。私もひと、くち・・・・くらい、な・・・・ら?」
 何かが引っ掛かる。
 瞬間、強烈な警報が脳内で鳴り響いた。

(見られてはならない)
(見られたら終わりだ)

「ま、待って! 雑炊って、どうやって――」
 叫びながら、居間へ駆け戻った。
 もう遅かった。
 目の前にはただ、私を絶望へと追い落とす光景があるだけだった。

 テレビの前に置いてある物――その蓋に具えられた、滑らかな曲線を描く取っ手に、彼は既に手をかけていた。
 さっきの壁同様、蓋の取っ手には、今まで私には見えていなかった黒い染み――変色した血のりが付着していた。

(全て終わりだ!)

「ここにあったんですね。見つからなくて探しちゃいましたよ。それにしても、結構大きいですね、これ。さっき買ったスイカくらい入っちゃいそうですね」
「お、お願い。そ、それは」
「それに、随分重いですね。ズシっとくる」
「だめ!」
「え?」
「だめ、だめ――開けないで」
「ああ――気にしないでください。少しくらい汚れてても気にしませんから、じゃあ、ちょっとお借りしますね、この炊飯器」
 彼は躊躇うことなく、蓋を開けた。

「いやぁぁぁぁぁ――――っ!」
「お・・・・お、オェェェェェェェ――――ッ!」
 容器の中から舞い上がる緑やら黒やらの毒々しい粉末と、鼻はおろか命の危険さえ感じさせる異臭がたちまちのうちに充満し、この部屋は阿鼻叫喚の地獄へと変貌した。

 呼吸が困難になった私は立つこともままならず、その場に倒れ込んだ。
 粉末をもろに顔面に浴び、視界を塞がれた彼は大量の涙を流しながら、誤って炊飯器の中に手を突っ込んで、何か柔らかくて糸を引くものを掴み上げてしまい、恐慌状態に陥った。

(これが終わりの風景だ)

 何処からか、声が聞こえてきた。

(彼はもう二度と、ここには来てくれないだろう)

 薄れゆく意識の中で、しかし私はしかと己が心に刻み込んだ。
 炊いたご飯を入れたまま、半年以上炊飯器を放置してはならない。
 万が一放置してしまったら、恐れてはいけない。勇気を振り絞れ。見て見ぬふりだけは、絶対にやってはいけない。
 それが、今味わっている恐怖を回避するための教訓だ。


(了)


※『蓋』の最終回でした。お読みいただきありがとうございました。


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~ Comment ~

なんと~

そう来ましたか(笑)
この主人公の壊れた性格は、絶対なんかヤバいことしてる風にしか見えなかったけどw
でも、鍋の中に本当に死体とか入っていても、そこでENDにはならないし。
とってもたのしい短編でした。
結論から言うと・・・。
事件は起こしていなくても、この主人公は、ちょっとどこかに修行に行った方が良さそうです(笑)

Re: なんと~

lime さん

お読みいただきありがとうございます。
変な方向に舵を切ってしまい、申し訳ありませんでした^^
生ごみ放置とか、さらに虫が湧くとかはなにげにかなりの恐怖なので、そういうネタを扱ってみたいという思いもあって、今回書いてみました。似たようなテーマは他にもあるので、またそのうち書いてみるかもしれません^^

短編ということもあり、インパクトを求めて主人公の壊れっぷりを強く押し出そうとしすぎた感があるかもしれません。
きっと主人公も反省して、今頃は自分探しの旅にでも出かけているのではないかと思いますw
今度はちゃんと怖いモノにも挑戦してみたいと思いますので、どうかよろしくお願いいたします。

おぉ~

す、炊飯器だったのか!
いや、これ、すごい面白かったです。十分に怖かったし。
何となく、冷蔵庫の奥とかに開けてはいけない瓶とか残っていたりすることがあるような、そんな気が……引っ越しをしばしばしていた時は、最終的に排除されたけれど、引っ越しをすることが無くなった今、ちょっとドキドキ。あ、この間冷蔵庫を買い替えたから、掃除したし、うん、大丈夫……なんて、ちょっと自分に確認しちゃいましたよ。
この異質な物体がそこにあることについて、主人公の精神状態がちゃんと不自然でなく理由づけされていて、あぁ、なるほど~と思える部分もあって、その上でこのラスト! いやいや、あり得そうで怖いってのが……いや、怖いのか、ちょっと笑えるのか……そのあたりもまた微妙で良かったです(^^)
新人君、もしかしたら、「この人を放っておけない」と思ったかも。

Re: おぉ~

大海彩洋 さん

お読みいただきありがとうございます。
炊飯器でした><……一人暮らしの炊飯器としては大きすぎますが(笑)、主人公は炊事が全くダメなので、よく分からなくて買ってしまったということになっております^^
私の家でもたまに、「賞味期限、2年前じゃん!」という瓶やレトルトが発掘されるときがあり、「どうしよう」ってすごく困ったりしますww
その意味でというか、広い意味での「日常に潜む恐怖」ということで書いてみましたが、面白いとおっしゃっていただき、とても嬉しく思います。怖そうで怖くない、という感じになっていればいいのですが。
新人君は確かに面倒見のよさそうな人ですね。実際今後どうなるんんだろうと、少し考え込んでしまいました^^

このぐらいのサイズ(字数)の短編は結構楽しく書けたので、また近いうちに挑戦しようと思います。
今後もよろしくお願いいたします。

NoTitle

投票したですよ~~~~(^^)

Re: NoTitle

ポール・ブリッツ さん

ありがとうございます^^
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