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「白い彼女」
第二章 天の声(6~8話)

白い彼女 第8話

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第8話

 全身が微かに震えているのがわかる。
 落ち着け。とにかく落ち着くんだ。冷静に考えれば思い出せるかもしれない。

 深呼吸をし、目を閉じて自分の記憶を意識する。漠然と何かを思い出そうとしても、集中力が散漫になってしまいそうだ。まず、ここに来る直前、おれはどこにいて、何をしていたか、それをゆっくり思い出してみよう。

 現時点からゆっくりと、できるだけ詳しく記憶の時間を遡っていく。
 ついさっきの彼女との会話、その前の音楽、手の不思議な感触。さらに時間を逆行させていく。途中、ジョン太郎の登場で少し動揺したが、何とか通過することができた。そして度々聞こえてくる天井方向からの声。声だと判明したのは何度目からだったか。確かに聞こえ始めた頃は、ただの物音のようだった。その後どうやら声らしいと気づき、しかも声は複数であり、おそらく誰かと誰かの会話のようなものが聞こえてくる、というところまで判明している。ただ、その内容については一度も聞き取れたことがない。お陰でこのところ気にしなくなっていたが、つい先ごろ驚くような展開になった。音楽だ。いつもの声ではなかったが、かなりはっきりと聞こえた。ということは、この部屋の上には誰かがいるということだ。しかも流れてきたのはおれの好きな曲。それほど国内でメジャーとは言えない筈の曲が、偶然かかるだろうか。むしろおれに聞かせるために流した、と考える方がしっくりくる。
 
 上からの声にはもっと気を配るべきだったのかもしれない。誰かがおれに何かを伝えようとしている、そう考えるのは飛躍しすぎだろうか。
 声も音楽も、上から聞こえてくる「音」だ。部屋から出られないおれと、謎の少女、そして始めから部屋にあるもの、彼女が持ってくるもの。全てが閉ざされたここで、その音だけが唯一「外」のものだ。その「音」によって、おれはここではない「外」があることを意識できる。そして、彼女はその「音」を嫌っている。彼女はおれを「外」に行かせたくないのだろう。つまり今のおれの状況は、彼女によってどこかに監禁されている可能性が高い。ただ、それだけでは身の回りで起きる不思議な現象について説明できない。

 ようやく彼女と初対面の場面にたどり着く。思い出すとその時のイライラまでリアルに蘇ってくる。気分が悪くなる。つくづく気にくわない奴だと再認識しつつ、そこはさっさと通過して、肝心の、この部屋で目覚める前に記憶をまき戻していく。

 暗転した。思考が空振りするような感覚。
 時間軸を遡ってここまで来たが、その軸自体が途切れてなくなっている。この先進むだけの手がかりが見つからない。これが記憶を無くすということなのだろうか。
 上も下も右も左もない茫漠とした空間で、自分の意識がだだ漏れのようにこぼれ広がり、薄くなっていく。辺りと同化するように染み込んでいく。暗い大きな穴に落ちているとも、逆に上昇しているともとれるような不安定な感覚に襲われ、自分がどこにいるのか、どこからが自分で、どこまでが自分か、座標を失ってしまいそうになる。焦った。急に戻りたくなった。このままでは現在に戻れないような気がした。だが、戻り方がわからなかった。もう冷静さなんてどこかに吹っ飛んでしまっている。とにかく何か戻るための手がかりを、と必死になると、これまで整然と並んでいた時間という記憶が列を乱し始めた。次第に混沌と、脈絡なく現れ始める断片的な映像と音声。しかしそれら全てがこの部屋での記憶ばかりだ。


 ――じゃあ・・・・。ここはどこ? おれはベッドに寝てたけど、何がどうなっているのか 教えてくれないか――
 ――あのなあ、何か喋ろって言ったのきみでしょう。なんで何も答えないの?――
 記憶の中のおれの言葉。

 ――どうでもいい質問ばっかりだから――
 ――自分で考えればわかるだろ――
 記憶の中の彼女の返答。

 ――今日は何月何日なんだ?――
 ――知らない――
 ――何で知らないの? カレンダーとかないの?――
 ――イサムが知らないから知らない。カレンダーもない――


 カレンダー。
 その言葉が頭をよぎった瞬間、何かが微かに光ったような気がした。眼球の裏側あたりで形にならないものがちらついている。そう、日付について気になることがあったような気がする。カレンダーのイメージだ。今年のカレンダー。
 理由はわからないが、カレンダーが重要な手がかりかもしれない、そう思える。とにかく思い出せるだけのカレンダーの記憶を探す。
 
 とりあえずの目標を見出せたお陰か、随分落ち着いてきた。そのまま根気強く思い出せるだけのカレンダーを思い出しているうちに、さっき感じた微かな光とともに現れた一つのカレンダーがあった。ああ、これだ。直感的にこれが探していたものだと思えた。何の飾りっ気もない、ただ日付だけが大きなマスの中に並び、いろいろ書き込めるスペースだけは確保してある、職場の壁なんかによく掛かっていそうなデザインだ。よく見ると下の隅に「清水運送株式会社」と書いてある。よく出入りの業者が年末になると持ってくるやつだな。たしかこの会社は「しみず」ではなく「きよみず」と読むのが正しかったっけ。

 ついに見つけた。この部屋以外の記憶だ。

 カレンダーは三月の頁だった。ここに来る直前は三月だった、ということだろうか。すると、目の前に一人の女が現れ、おれとカレンダーの間に立ちふさがった。後ろ姿なので、顔はわからない。女としては背が高い方だろうか。髪は短めで茶色がかっている。少しだけ染めているのかもしれない。首から下はベージュのスーツで、いかにもOLといった風体だ。その女はカレンダーの頁の端を摘み、びりびりと音をたてて切り取った。新たに四月の頁が登場する。

 目の前の女は切り取った三月分の頁を捨てる様子はなく、丁寧に二つ、四つ、八つと折り畳んだ。次にハサミを取り出し、折り目に沿って切り取り始めた。小さく切ってメモ用紙か何かにするらしい。

 そういえばそういうの好きな奴いたよな。誰だっけ? 
 よく見るとこの女の後ろ姿、見覚えがあるような気がする。
 ていうか、よく知っている人のような気がする。
 少しドキドキしてきた。できれば顔を見たい。こっち向いてくれないかな。
 女はカレンダーを小さく切り終わると、それらを束ね、きっちりと角を揃えた。そして、ゆっくりと後ろを振り向いた。
 顔は見えなかった。

 今までに経験したことのないような痛みが突如としておれの頭の中で暴れだした。まるで脳みその中に大きな鉄球があって、それを金槌で力いっぱい打ち付けるような、硬質で断続的な痛みだ。痛みが走る度に眼球が圧迫され、目から血が吹き出そうになる。


「がああああああっ!」
 気がつくとおれはいつもの部屋で叫んでいた。
 全身汗まみれで、息も荒い。だが不思議と頭痛は嘘のように無くなっていた。

 すぐ横にはいつもの「彼女」が相変わらず静かに立っている。おれの様子に気づいているのかいないのか、両手を後ろ手にして、宙を見つめている。

 あれは一体何だったのだろう。もう少しであの女の顔が見られたのに。いや一瞬見えたような気もする。あの女はこちらを向いた。見えた、と思った瞬間に頭痛がして、視界が強力なフラッシュのように真っ白に光った。どんな顔をしていたのか思い出せない。黒い、影のような印象しか残っていない。

 それともう一つ、カレンダー。あの女が三月分の頁を破ってメモ用に小さく切った。カレンダーをめくるのは、月が替わった時だ。つまり、あれは四月一日の場面ということになるのだろうか。

 四月一日。確かにあれは四月一日の出来事で間違いないと思える。四月一日という日付に何か引っかかりのようなものを感じる。何か、特別なことがあったような気もする――また頭が疼いてきた――くそ、思い出そうとすると痛くなるのか。

 いま記憶の中で体験したことを彼女に話すか、迷った。彼女はこの部屋におれを閉じ込めている。この部屋以外の記憶を歓迎するようには思えない。また一方で、彼女は既におれのことは何でも知っていて、ひょっとすると今の体験についても詳しく説明してくれるかもしれない、という期待もある。彼女は言った。おれの欲しいものを持ってくる。おれの記憶から。でもおれにはそれが何なのか未だに思い浮かばない。もしかしたら今思い出せない記憶の中に、本当に欲しいものとやらが存在するとしたら、そして、その記憶とさっきの体験に何らかの関係があるとしたら――
「ねえ、何もないの?」
 とうとう彼女が痺れを切らして口を開いた。

 どうする? 話すか?
「そろそろじゃないかな」
 そろそろ? 何が?

 もしかしたらおれが何か思い出しかけていることに気づいている?
 いや、そんな単純な相手じゃない。さっきのことはとりあえず黙っておいて、もう少し考えてから判断しても遅くないだろう。
「イサム~?」
 とにかく疲れた。もうそろそろ休みたい。
「お~い」
 うるさい。
「聞こえてんの?」
 少し静かにして欲しいんだけど。
「イ・サ・ム~」
「あ~もううるさいよ!」
「何もないの?」
 ・・・・。ここで「ない」と答えると彼女は去ってしまう。もうちょっと考え事もしていたい。
「CD。あとプレーヤー」
 何でもよかったが、例のアルバムを持ってきてもらうことにした。あの曲が聞こえたことがきっかで、何かが思い出せそうになったんだ。それをBGMに休むのもいいだろう。
 リクエストすると、彼女は明らかに不快な眼差しをこちらに向けてから、取りに行った。やはりあの曲というか、上からの声におれが興味を持つのが気に入らないみたいだ。それでも持ってきてくれるのは不思議と言えば不思議だ。今まで断わられたリクエストは沢山あるのに。

 CDをセットして曲を流し、ベッドに体を横たえて聴く。こうしていると、ここもまんざらでもない。
 それにしてもあの女は誰だったのだろう。
 おれの知っている人物のはずだ。少なくとも会ったことがなければ、記憶に出てくることはない。というより、かなりよく知っている人だ。根拠はないが、そう考えた方が自分自身が納得するというか、自然な感じがする。このアルバムの曲が聞こえた時、ユカの顔が浮かんだが、あの女がユカではなかったことには確信が持てる。

 ああそうか、やっと分かった。
 このアルバムを聞いて、どうしてユカの顔が浮かんだのか。
 ユカが貸してくれたんだっけ。


 曲を聴きながらとりとめもなく考えをめぐらしていると、また上の方から例の「声」が聞こえてきた。
 何か、とても懐かしいような、不思議な気がした。
 彼女は黙って部屋から出て行こうとしていた。
 おれは薄れる視界と意識のなかで、誰かに会いたいと思った。

(第二章終了・次回(9話)から第三章)


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