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「白い彼女」
第三章 ユカ(9~14話)

白い彼女 第14話・前編

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第14話・前編

 駅前の商店街から一本脇道に入ったところに目立たない看板があり、「CHEZ NOUS」と書いてあった。いかにも古い、小さなビルの二階にその店はあった。どう見てもスナックかバーといった飲み屋風であり、昼間に堂々と高校の制服を着て入るのは不自然に思えた。二階に上がる階段の壁には営業時間と簡単なメニューを書いたボードが吊るしてあり、十四時から十八時はコーヒータイム、夜の営業は二十時から二時とあった。

 細い階段を上り、店に入る。中は四人くらいが座れるテーブルが二つ、あとはカウンター席だけだった。カウンターの奥には酒瓶が何十本も棚に並べられている。店内は薄暗く、壁も天井も全体的に黒っぽい色で統一されている。BGMはジャズかブルーズがいかにも似合いそうな雰囲気なのだが、流れていたのは古いロックのようだった。なんか場違いにうるさい音楽だな、と思ってしまう。
「いらっしゃい」
 マスターらしい男がカウンター越しから声をかけてきた。ボサボサ頭に無精ひげ、真っ赤なTシャツ姿。これもなんか違うような気がする。

 奥のほうでドアが軋んで開く音が聞こえた。どうやらそこはトイレらしく、水が流れる音もする。中からおれと同じ高校の制服を着て、顔はこげ茶色、頭から明るい金色をした長い髪をなびかせた女が出てきた。なんとなくこれも場違いな気がする。
「あ、来たんだ。じゃ、そこ座んなよ」
 ケイコはテーブル席の方を指した。とりあえずコーヒーを頼んでから腰掛ける。

 ケイコもたった今来たところらしく、「あたしもコーヒー」とマスターに注文しながらおれの対面に座った。バッグの中から煙草を取り出し、火をつけ、黙ったまま煙を吐いている。その姿を眺めながら、たしか入学した頃は髪は真っ黒で顔は白かったよな、その頃の方が今より遥かに似合って、キレイだったよな、などとぼんやり考えていた。やがて煙草を灰皿に押し付けながら、ケイコが口を開いた。
「サロンじゃないよ。休みに沖縄行ったら真っ黒になっちゃったのよ」
「あ、そうなの」なんだ、急に。
「せっかくだからいろいろ試してみようかなって。で、調子こいてきんきらにしちゃった。ユカにすっげー笑われたよ」
 誰もそんなこと聞いてないがとりあえず愛想笑いで相手に合わせ、次の言葉を待った。だがまたケイコは黙ってしまった。
「この店よく来るの?」
 仕方ないので、適当に喋った。ケイコは首を軽く振った。
「初めてだよ。ここならウチの生徒こないでしょ。だから」
 なるほど他に客もいないし、密談にはぴったりということか。ケイコは少し可笑しそうに話を続けた。
「マスターがちょっとマニアックだって聞いてたけど、確かにそうかも」
 よくわからないが、おれが場違いだと感じたBGMは、一九七〇年代に流行ったプログレッシヴ・ロックというジャンルらしい。店の名前も、とある有名なプログレバンドの曲の歌詞からとったものだそうだ。その名前もいまひとつ店の雰囲気に合っていないとケイコは説明してくれた。

 無駄話をしたお陰で、ケイコの顔が穏やかになってきた。殆ど話をしたことのない同士、お互い少し緊張していたのだ。

 ユカとケイコは小学校も中学校も同じで知り合ったときからずっと仲が良く、お互いがお互いのことを良く知っているし、なんでも打ち明け、相談してきた親友だそうだ。だからユカはケイコにだけは夏休みに痴漢にあったこと、そこにおれが居合わせたことを話したということだった。
「まず、ユカを助けてくれたことにお礼言うわ。いつもはあたしが護衛してるんだけど、さすがに夏休みは用もないのに学校行ってもねえ。気をつけろって言ったんだけど、いきなり初日に痴漢に出くわすとは、ユカも運のないコだね」

 見た目のイメージと違い、随分落ち着いた話し方をするな、と思った。少々威圧的だがどこかユカの話し方に近いものがあるような気がした。ユカも大人っぽいと言われることがあるが、ケイコはさらに上、可愛い妹が心配でしょうがないお姉さんといった感じだ。
「それから、これは想像だけど、あんたこの件のことを、今まで誰にも喋ってないでしょう?」
 おれは黙って頷いた。痴漢をぶん殴ったとか、警察に突き出したとか、そういう具体的なアクションを起こしていれば武勇伝として誰かに話したかもしれない。だがこのケースではおれはあまりにも中途半端な役割しか演じておらず、とても他人に自慢できるとは思えなかった。
「それにも感謝する。あんたが言いふらしてたら、ユカは傷ついたかもしれないから」
「えっと・・・・」さっきから少しだけわからないところがあった。ケイコがユカを護衛するとか、他人に言ったら傷つくとか。ケイコはおれの言葉を遮って続けた。
「このまえ、あたしとユカが電車に乗っているとき、あんたも乗ってきて、ユカがあんたに手を振ったことがあったんだけど、覚えてる? あんたも軽く右手で挨拶返したけど」
 あんた、あんたと妙に繰り返す奴だな。
「一応。そしたら〝金さん〟がユキノを茶化したのも覚えてる」
「ちょっと、〝金さん〟って呼ばないでよ。気にしてるんだから」
「おれは〝あんた〟と呼ばれるのが気に入らないな」
 しばしの沈黙。さっきから向こうのペースで話が進んでいるのをどうにかしたかったので、わざと嫌味を言ってみた。少しは効果があったようだ。

「悪かったわ。ごめんなさい。癖になってるの。じゃあ〝イワイ君〟でいい?」
「〝くん〟はどっちでもいいよ。タメなんだし。こっちは〝トオヤマさん〟でいいのかな」
「あたしも〝さん〟はどうでもいい。ケイコって呼ばれるのが一番慣れてるけど」
「じゃあケイコにしようかな」
「どうぞ。でも〝ケイコさん〟はちょっと勘弁かな」
 もっと空気が緊迫するかと思ったが、ケイコは平然としている。
「ごめん。話しの腰を折って」
「いや全然。かえって話しやすくなったと思う」
 意外とさっぱりした性格みたいだ。こいつは信用できそうな奴だな、と判断した。

「どこまで話したっけ――と、ユカが手を振って挨拶したとこね。あれがね、とても珍しいの、ユカとしては。あたしが冷やかしたら困ったというか、照れたというか、それもびっくりものね。それで、あのあとユカを追求したら、痴漢のことを打ち明けてくれて、イワイとユカの妙な噂の原因がはっきりしたってわけだけど――」
「あの、ちょっと待った。どういうこと? 何が珍しいの?」

 ケイコは少し返答に迷ったようだが、やがてこう言った。
「ユカはね、男が怖いの。しかもかなり重症。だからユカの方から率先して挨拶するなんて、ちょっとありえない」

 男が怖い。怖いってどういうことだろう。ちょっとおれには想像できないことだった。そりゃあ、怖い男はいるだろうけど、男が全部怖いわけではないだろう。「嫌い」ならどうにか想像はできそうだが。
「痴漢にあった後、ユカどうだった? 怯えてたでしょ」
「うん。びーびー泣いてた」
「どう思った?」
「おれは女じゃないから気持ちがわからないのかもしれないけど、ちょっと大袈裟かなって」
「他には?」
「本人にも言ったよ。嫌なら『痴漢だー』って叫べって。相手はサラリーマンみたいだったし、世間体もあるから効き目はあるだろ。抵抗しないとつけあがるよ。まあ、あの場合は痴漢に手首を掴まれちゃったみたいだし、しょうがないとは思うけど」
 ケイコは「だよね」と相槌をうちつつも「でも、それはあたしでも結構勇気いるのよ」と付け加えた。そういうものか。

「で、男が怖いユカの場合は、もっと何倍も勇気がいるのよ。でもユカはそんなに強い子じゃない。外見もおとなしそうな雰囲気だから、狙われやすいタイプなんだよね」
 確かに狙われやすいタイプかもな。どちらかといえば背は低い方だし、色白だし、手足も細い。本人は必死だっただろうが、泣きそうな顔で抵抗しても相手を喜ばすだけだ。

 不意にあのときの光景が蘇り、ユカを眺めながら勃起していた自分を思い出してしまった。気がつくと今も半勃ち状態になっている。ケイコに気づかれないよう、慌てて足を組んだ。それが不自然にならないよう、できるだけ真剣な顔を作っていろいろ考え込んでいる風を装った。

 ケイコは一旦黙って、こちらの様子を見ている。一瞬ひやりとしたが、別におれが欲情しかけたことに気づいているのではないらしい。さっき、ケイコはユカを護衛している、と言った。毎日痴漢からユカを守っているということだ。もし気づいていたら、この場は即解散だろう。おれがあの光景を思い出しながら何度かヌイたことがあることを知ったら、ぶん殴られるかもしれないな。

 ケイコはおれを観察しながら、何か考えている、というより悩んでいるように見えた。おそらく、この先話を続けていいか迷っているのだろう。話はこれから本題に入る、というところだ。その前に、おれが信用できる人間かどうか値踏みしているのだ。だが、ここで話が打ち切りになるのは気分が悪いだろう。おれとしては。

「質問。男が怖い、とか挨拶するの珍しい、とか言ってたけど、普段学校で男と話してるじゃん。部活でも結構気楽に誰とでも話しているように見えるけど」
 ぴくっとケイコの細くて薄い眉毛が動いた。少し困ったような表情で、煙草を取り出し、火をつけると深呼吸するように大きく煙を吐いた。おれはもろに煙を浴びてしまい、むせ返った。「ま、いっか」と小さく呟いて、ケイコは話を再開した。

「まあね。一応男でも同年代とか、自分より年下だとちょっとはマシね。でも、明日からよくユカのこと見てみなよ。ユカは男と一対一で話すことは絶対にないよ。何人かで集まって話したり騒いだりするときも、女が自分一人だけって状態は絶対に作らない。必ず誰か女の友達と一緒のはずよ。自分一人だけではできないのよ。だから夏休みにイワイと毎日二人で登校したのがすごい珍しい、というか不思議。しかも痴漢の時はユカの方からイワイの手握って電車から脱出したんでしょ。緊急事態だったとしても、あのユカが男の体に自分から触るなんてちょっとありえない」
 そんな細かいことまで報告しているのか、と妙なことで感心してしまった。

「どう? ここまでの状況はだいたい飲み込めた?」
 少しは理解できてきた。だが、そんな話をおれに聞かせて、何をさせようっていうんだ。肝心なことはまだ全然わからないぞ。
「ユキノはおれに限っては怖くないってことでしょ。要するにおれに男を感じないってことかな」
 にわかにケイコの表情が険しくなった。
「まじめな話をしてんだから、茶化すんじゃないの!」
「す、すみません」

 ケイコの怒った表情は予想を超えて迫力があった。しかし思わず謝ってしまったのは、怖いとか、圧倒されたとかではなくて、申し訳ないという気持ちが素直に生まれたからだった。ケイコは真剣にユカのことを心配している。そのことがはっきりと伝わってきた。ケイコはずっと前から、何年も何年もユカのことを心配して、守ってきたんだろう。きっとユカを守るためにケイコは強い女になったんだ。ちょっと威圧的な態度が鼻につくけど、根は優しい、いい奴にちがいない。

 ケイコは気を取り直して話を続けた。「ここから先は他言無用。あたしも他人に話すのは初めてだからね」と念を押しながら。

(第14話・後編につづく)



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