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「白い彼女」
第三章 ユカ(9~14話)

白い彼女 第14話・後編

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第14話・後編

 ユカが男性恐怖症のような状態になったのは、生まれつきではなく、小学六年生の時の体験が関係しているとのことだった。
 それまではごく普通に、当時の他の同級生と比べてもなんら変わりなく男子と接することができていた。どちらかといえば、積極的に男子と話したり遊んだりする方だったらしい。ユカには五つ年上で仲の良い兄がおり、その分男と接するのに慣れていたのではないか、とケイコは推測している。

 ちなみにケイコは一人っ子だそうだ。しかも両親は離婚し、母親と二人で暮らしていたので、男と話すような機会はなく、中学生になるまで殆ど男子と話をしたことがないそうだ。その境遇はなんとなく自分に似ている気がした。おれも高校にあがるまでは殆ど女と話をしたことがなかった。

 ユカに変化が起きた――正確にはその変化にケイコが気づいたのは、六月。既に五月頃から少しおかしかったらしい。連休が明けてもユカは登校せず、一週間近く休んでいだ。心配になってケイコが家まで様子を見に行くと、ユカは元気だった。「もう大丈夫だから、明日から学校行くよ」と笑っていたそうだ。
 翌日、予告どおりユカは登校し、普通に授業を受けた。ただ、妙に無口になり、他人と話をしたがらなかった。以前は休み時間になると、男女を問わず一緒に騒いでいたし、昼休みには男子に混じってサッカーなどもしていたそうだが、男子が声をかけても無視しているかのように、返事一つしなくなった。

「これは後になって気づいたんだけど――」ケイコはコーヒーのおかわりをマスターに注文し、三本目の煙草に火を点しながら話を続けた。「それから卒業するまで、ユカは一度も学校にスカートを穿いてこなかったのよ」

 急に無愛想になったユカのクラス内での評判は、当然ガタ落ちになり、ユカは孤立していった。六月に入る頃には、友達と呼べるのはケイコと、ケイコと仲のいい数人の女子だけになったそうだ。
 そんな時、ユカが国語と社会のテストで二つとも満点を取るということがあり、答案を返してもらうときに担任(男)から褒められた。
「よくできたね」と、担任は笑顔でユカの頭を撫でようと手を伸ばした。
 その手がユカの頭に触れた途端、ユカは絶叫し、その場にうずくまって泣き出してしまった。それから三日間、ユカは学校を休んだ。このことは学校中で噂になって、教師のセクハラという形で親にも知れ渡り、一時は大変だったらしい。それ以来担任との関係も悪くなったそうだ。

「で、ユカが休んでいる間、あたしは学校帰りに毎日あのコの家に寄ってたんだけど、その時に少しずつ打ち明けてくれたのよ」

 GWの間、ユカの家に叔父が遊びに来ていた。歳は三十半ばくらいで、三月に会社を辞め、その後は職探しもせずにぶらぶらしていたそうだ。ユカの家に来たのは、兄であるユカの父親が呼んだ。二人ともゴルフが好きで、失業中では自前でゴルフをする余裕はないだろうからという、父親の好意だった。連休中、明るいうちはゴルフ、夜は家族と一緒に食事をして、その後は兄弟で飲む毎日。酒がまわると父親は叔父に説教ばかりしていたそうだ。

 ユカはあまりこの叔父とは親しくなかった。特に酔っ払ったとき、よくユカに絡んでくるのが嫌だったらしい。「かわいいねえ」を連発しながら頭を撫でたり肩に触ったり、酌をさせられたりするらしい。あまりしつこく絡むときは、ユカの兄が間に入って助けてくれた。今回は父親が失業中の叔父に毎晩説教をするせいか、悪酔いすることが多かった。酒を飲み始め、三十分もすると叔父は酔ってくる。ユカは兄の勧めもあり、できるだけ叔父が酔っ払う前に、二階の自分の部屋に行くようにしていた。

 叔父の滞在期間の最終日はゴルフに行かなかった。夕方には出発する、ということなので、家で昼食をとり、そのまま父親と叔父は酒を飲み始めた。ユカの兄は友達と約束があり、朝から不在。母親は近所のスーパーにつまみを買いに出かけた。事件はその時起きた。

 ユカは自分の部屋で音楽を聴いていた。そこへ突然顔を真っ赤にした叔父が入って来て、ユカに抱きついた。ユカは必死に抵抗したそうだが、腕力でかなうはずがない。父親に助けを求めたいが、怖くて声が出なかった。叔父の腕に噛み付き、振りほどいたところでようやく叫んだが、父親が上がってくる気配はなかった。噛み付かれた叔父は逆上し、ユカの頬を二~三発殴り、ベッドに押し倒した。叔父はユカの上に馬乗りになり、力任せに服を引きちぎった。

「・・・・」
 おれは半身を乗り出してケイコの話に聞き入っていた。ケイコはそんなおれをいぶかしげに眺め、話を止めた。
 はっと我に返り、気持ちを落ち着かせようと、すっかり冷めたコーヒーを口に含んだ。ごくっという自分の喉の音が、ケイコにもわかるのではないかと思えるほど、やけに大きく聞こえた。小学生が犯される。それも自分の親戚に。確かにそれは普通の体験ではないことはおれでも理解できた。ケイコは黙ったままこちらを見ている。この沈黙に耐え切れなくなり、何か言葉を探した。

「えーっと、あの・・・・ず、随分と詳しいな。結構すごい話なのに」
 ケイコは四本目の煙草を吸い出した。こいつヘビースモーカーか。
「最初からそんなに細かく話してくれたわけじゃないよ。初めは叔父さんに襲われた、くらいしか、ユカ言わなかったし。今までに何度か聞いて、それで詳しくなったの」
「で、それ以来男が怖くなったと。トラウマってやつかな?」
「トラウマかどうか知らないけど、それが原因だろうね。GW明けから様子がおかしくなったんだし。セクハラ疑惑の担任も若い奴だったし、その叔父さんと歳が近いから思い出しちゃったんじゃないかって」

 原因はわかった。でもおれの興味は結果の方に向いていた。そのあと、ユカがどうなったのか。もしかしたらここでケイコは話しを終わらせるつもりかもしれない。確かに何故ユカは男が怖いのかは伝わった。つまりケイコとしては目的を達したということだ。でも先が聞きたい。そうお願いしたらケイコは怒るだろうか。

「何か質問は?」
 ケイコが訊いてきた。特に質問がなければこれでこの話題は終わり、ということだろう。ケイコにしてみれば、親友のプライバシーを、しかもかなりディープな部分を話すのはあまり気が進まないのだろう。おれは一方でそう思いながら、他方では必死になって質問を捜していた。

 一つだけ質問が頭に浮かんできた。これを訊いてみて、相手の反応が悪ければもう打ち切ろうと心に決め、おれは恐る恐る口を開いた。
「ちょっと気になることがあるんだけど。そのー、その時、お父さん、何で上がってこなかったの?」
 話の通りだと、ユカは一度は叫んだ。普通は助けるだろう。まさか父親公認ってことはないだろうし。
「ああ、ユカの父親はね、一階で酔いつぶれてたらしいよ。まったくだらしない」
 ケイコは特に怒るでもなく、平然と回答した。質問を続けることにした。
「てことは、その時、アレなの? ユキノは」
「アレって?」
「つまり、その叔父さんに・・・・」
「やられたかって?」
 露骨に確認してくるケイコに少し圧倒されつつ、小さく頷いた。
「やられてないよ。寸前で助かったの」
 なんだ。ちょっとがっかりした。だがケイコの「やられてない」の一言で、微かにこの場の空気が軽くなったような気がした。実際やられていたら、ケイコはおれにこんな話はしなかったに違いない。

「ただね、あまり詳しくないのよ。この先。さすがにユカもその時叔父さんがユカに何をどうしたか、細かいところまでは教えてくれないしね。おおまかなところでは、ユカは叔父さんに乗っかられて、服をビリビリにされて、ほとんど裸だったみたい。その時ユカはスカート穿いててさ、お陰であっという間に剥ぎ取られたって言ってた――だからそれ以来スカート穿かなくなったんだけど――それで、間一髪ってところで」
「ところで?」
「運よくタカシさんが帰ってきて、助けた」
「タカシさん?」
「ユカの兄貴。間もなく母親も買い物から帰って来て、どうやら大変な騒ぎになったらしいね。父親は叩き起こされて、話を聞いてすごく怒ったらしいけど、面目丸つぶれ。でも当の叔父さんは『酔っ払っていたから何も覚えていない』だって。信じられる?」
 ケイコは急に不機嫌になった。でもそれはユカの叔父さんに対してだ。だからおれは特に気にならなかった。

 それ以来、ユカの家族とその叔父さんとの関係はほぼ断絶。ユカは男――特に年上の男が怖くなった。でも、ユカの兄貴とおれだけは例外ってことだ。
「でさ、その後がまた苦労したのよ」
 ケイコが話を続けた。さっきまでとは違い神妙さが欠け、こちらに身を乗り出すように顔をぬっと突き出した。ちょっと嫌な予感がしたが、今さら止めることもできないので、続きを聞くことにした。嫌な予感は半分当たっていた。いくつか大切と思える部分もあったが、大部分はケイコの愚痴だった。

     *

 事情を打ち明けられて、この先自分がユカを守ろう、とケイコは決心したそうだ。だが、中学生になってその難しさを実感した。まず制服がスカートで、ユカはそれだけでかなりのストレスだったらしい。また男女を問わず、年齢的にどうしても異性への関心が強くなる時期なので、男と接する機会は小学生時代より格段に多くなる。ここでただ男を避けるだけでは孤立するだけで、実際そうなった。それに四六時中ユカにくっついていられる訳でもない。幸い一年の時は同じクラスだったが、この先はわからない。

 そこでケイコは考えた。ただ男から逃げているだけではだめだ。
「それで、特訓したのよ。二人で男に慣れる特訓」

 ケイコは嫌がるユカを無理矢理連れまわし、わざと男子(ケイコなりに、安全と判断した)との会話の輪に入れたり、休日は繁華街や満員電車といった人ごみを狙って出かけたりした。その甲斐あって、今では一人でも何とか電車に乗れるし、女友達と一緒なら男と話をしたりもできるようになったそうだ。

「電車はね、今でもかなり嫌みたいなの。最も苦手なオヤジ連中に囲まれたり、ビッタリくっついたりするからね。あたしもできるだけ一緒にいるようにしてるけど、お互いの生活もあるからいつもってわけにはいかなくなってきてる。でも、最近ユカはユカなりに頑張ってるんだよ。あたしに頼らないように。ユカだけ部活に入ったのも一人で頑張ろうとしてるからだし」
「でも、一人で電車乗ってる時のユキノってスキだらけだよな。いつも音楽聴いて、目つむってるだろ。あれはちょっとよくないな」
「へえ、よく見てるねえ」ケイコが微笑む。
「べ、別に。でも、痴漢にあったときもそうだったし」
「まだまだ怖いんだよ。だから音楽聴いて気を紛らわしてるの。これでもかなり良くなったんだよ」

 大体の事情は呑み込めた。ケイコもほっとした表情で一息ついている。時計を見るともう六時を過ぎていた。窓がないので時間の感覚が麻痺しているようだ。
 確かこの店のコーヒータイムは六時までだった気がするが、マスターにはおれたちに帰って欲しそうなそぶりは全く感じられない。ひたすらマニアックな曲に聴き入っている。とは言っても、そろそろ店を出ないと迷惑だろう。話を終わらせるために、最後の質問をすることにした。
「なんでおれにユキノのことを話したの? それと、おれにどうしてほしいの?」
 ケイコはこの質問については予想していたらしく、即座に切り返してきた。
「イワイには知っていて欲しかったの。それで、できればいろいろイワイの方から話しかけてやってくんない? ユカの特訓のために。ただ、イワイがユカの秘密を知ってることは黙っててほしいんだけど」
「別に構わないけど、なんかちょっと重いなあ、そういう裏事情知っちゃうと。意識しちゃいそうだな」
「あたしもかなり迷ったんだ。でも理由話さないと受けてくれないでしょ。イワイがユカのことを好きだったら話は別だけど」
 一瞬どきっとした。コウイチの顔が頭を過る。ケイコも探るようにこちらを見つめている。おれがユカのことをどう想ってるかについてはケイコも興味があるらしい。しかし、彼女はそれ以上詮索はしなかった。

「イワイがユカのこと、特に好きじゃなくても、嫌いでなければ友達になってほしいって思ってる。要するに、そのお願いのために今日会ってもらったの」
「友達ねえ。向こうはどうなの」
「ユカはよくイワイの話するよ。兄貴以外の男の話題は初めて。あたしそれが嬉しくって。電車でも学校でも、あのコ無意識にイワイを探してる時がある。それで一回だけイワイのこと好きなのかって訊いてみたこともあるけど、知りたい?」
「微妙だな。ケイコにまかす」
 初めて目の前の女に向かって「ケイコ」と呼んだ。微かな緊張を感じ、「ケイコ」と喋っているときだけ、妙に自分の声が遠くに感じられた。

「『よくわからない』って。ただ、最近イワイと話す機会がないのが残念だとか、もしかしたら無視されてるかも、とかいう心配はしてたね」
「しかとなんてしてないよ、ただ、あれだよ、あれがちょっと気になって――」
「あんたとユカができてるって噂かな?」
「そう、それ。まったくの噂だけど、ユキノの方で嫌がってるんじゃないかと――」
「別に気にしてないみたい。それに最近は聞かなくなったし」
 それはその噂を真実と勘違いしてるコウイチ達が気を遣っているからなんだけど。

「本人同士が気にしなければ問題ないんじゃない? 普通に友達やってれば、そのうち噂なんか消えちゃうよ。本当に付き合ってもあたしは全然構わないけどね。変に意識して、過敏に反応したり焦ったりすると、かえってまわりが面白がって騒ぐのよ。それにこれ以上変な噂がでないようにあたし達も努力するし」
「あたし〝達〟?」
「あたしとコウイチ」
「コウイチが?」
「あたしがコウイチに例の噂の対策について相談をした時、一度イワイと会って話してみればってアドバイスしてくれたの。あ、ユカの詳しい事情はコウイチは知らないから」
 おれと話したいってケイコから持ちかけたんじゃないのか。
「この店もコウイチが教えてくたんだ。イワイはちょっと怒りっぽいけど、話が通じる奴だから大丈夫だし、結構脈もあるかもしれないって――」
「ちょっと待った。ケイコとコウイチって・・・・」
「付き合ってるよ。知らなかったの?」
 今日一番の驚きだった。コウイチのやつ、おれにはケイコのこと「金さん」って呼んでたくせに。

 僅かに怒りが生まれた。コウイチにはめられた、と感じたのか? それともケイコとのことを隠していたからか? 自分でも理由がわからない。わからないまま、ケイコとの「密談」は終了した。結局店を出たのは七時頃だった。

(第三章終了・次回(15話)から第四章)




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