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「白い彼女」
第四章 天の声、その二(15~16話)

白い彼女 第15話

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第四章 天の声、その二
第15話

「ねえねえイサム」
 下の方から声がする。視線を落とすと、ベッドに腰掛けているおれの股間から「彼女」の顔が生えているように見えた。
「いつまで思い出ししてるの?」
 彼女はそのままごそごそとベッドの下から抜け出し、目の前に立ち上がった。気がつくとユカの姿がどこにもない。
「せっかく呼んだのに、イサムが話さないからいなくなっちゃったよ」
「あ、そう」

「彼女」を見た。どこまでが記憶で、どこからが現実か。十年前を思い出しているという感覚ではなかった。
 右手を見た。汗が滲んでいる。唾を飲み込む。唇が乾いている。ケイコとの会話で緊張したからだ。たった今実際におれはケイコと話をしたのではないか。

 だがここはいつもの部屋で、目の前にはいつもの「彼女」が立っている。たぶんこれが現実だ。だが、この非現実的な現実は一体何だ? もしかしてこれも現実ではないのか?
 では、現実はどこにある?

「彼女」を見た。彼女はいつもと変わらない。だが、何かが引っかかった。今まで気づかなかったが、もしかしたらおれはこいつのことを知っているのかもしれない。
 たった今彼女が見せてくれた記憶の断片に引きずられて、彼女に関する記憶が少しだけ顔を出した。記憶と現実の狭間に漂っているような感覚のままで彼女を見ていると、おぼろげではあるが同じ顔が自分の頭の奥底、ほんの一角に摺られているのを見つけることができた。それはこの部屋で初めて彼女と出合った時より遥か以前のものであることも確かだ。

 彼女もおれを見ている。目が合い、見つめあう。彼女は微かに微笑んだ。
「何見てんの?」
 その微笑み。思い出した。やはりこいつ似ている。
「ねえ、ユカはもういいの? また呼ぶ?」
 ユカは別の機会に呼んでもらうことにしよう。今は彼女のことが気になる。
「呼ばないの?」
 こいつ、おれの心を読めるって言ったはずなのに訊いてくる。
「もういいなら行くね」
「待った」
 今まで、何度か彼女の正体について尋ねたことがあるが、全く答えてくれなかった。だが、今回は別の方法を思いついた。
「質問があるんだけど」
「な~に?」
「お前の髪、金髪にできる?」
「・・・・」
「できる?」
「・・・・できるよ」
「やってみて」
「いま?」
「いま」
 彼女は不機嫌そうに俯いたが、拒否しなかった。
 しばらく俯いたままじっとしていたが、おれが瞬きした瞬間に髪の色が鮮やかな金色に変化した。顔を上げるように促すと、彼女はゆっくりとこちらを向いた。

 予想通りだった。その顔はケイコによく似ていた。おれの知っているケイコの顔より随分と幼いが、同一人物と言って差し支えない。
 彼女はすぐに黒髪に戻してしまった。しかし一度ケイコだと思い込んでしまうと、もうケイコにしか見えない。それに、不思議なことに、いまの黒髪で幼いケイコの容姿のほうが自分の記憶と妙に合致するように思えた。

「お前、ケイコなのか?」
「・・・・」彼女は答えない。
「答えてくれたっていいだろう」
「違うよ」
「じゃあ、どうしてケイコと同じ顔なんだ」
「イサムのせい」
「いい加減にしろ!」
 もう、そういう答えはうんざりだ。いつもこいつは「イサムが望んだから」「イサムが聞かなかったから」ばっかりだ。
「だってそうなんだもん」
「おれのせいだっていうのか」
「そう」
「おれが望んだとでもいうのか」
「そう」
「そんな覚えはない。いつ望んだ? どうして望んだ? だいたい望んだらその通りになるってこと自体おかしいじゃないか。一体ここはどこだ? 何がどうなってる?」
「イサムってそればっかり」
「お前が教えてくれないからだろ!」
「だって教えられないんだもん」
「教えられないっていうのは、知っているけど教えることができないって意味か?」
「そう」
「その理由は?」
「私はイサムの知っていることしか知らないから」
「答えになってない。おれは教えてくれない理由を訊いてるんだ」
「私はイサムの知っていることしか知らない。だからイサムが訊きたいことの答えをイサムが知っていることを知っている。でもそのことにイサムが気づいていないから教えることができない」

 おれの望むものを持ってきてくれる彼女のことだから、自分の容姿を自由に変えることもできることについてはそれほどの驚きはない。問題は何故ケイコなのか、だ。ずっとユカのことを考えていて、話したいと思ってユカを出してもらった。ユカとのことを思い出しているうちにケイコのことも思い出したが、それはもののついで、のようなものではないか。それほどおれにとって重要な人物とは思えないケイコの顔をなぜおれが望んだというのか。彼女は言った。知っているけど気づいていないと。
「ユカはイサムがケイコのことばっかり思い出してるからいなくなっちゃった。また呼んであげるけど、今度はちゃんとユカのこと思い出してね。それとも次はケイコを呼んでくる?」
 確かにケイコと会ったことを思い出していたが、その時の話題はユカじゃないか。ユカの過去を初めて知ったときの記憶だ。ユカのことを思い出せば、当然出てくる記憶じゃないか。

「今日はよく考えるね。やっぱりそろそろだ」
「そろそろ?」
 そろそろなんだというのだ。何か起きるのか?
「そう」
 こいつ、おれの心を読んでいる。
「また、もうすぐ聞こえてくるよ」彼女は上のほうを指差しながら言った。

 いつもは上の方から声が聞こえると不機嫌になるのに、いまの彼女はどちらかというと暗い、沈んだ表情だった。
「でもそろそろっていうのは、アレがそろそろ聞こえてくるっていうそろそろのことじゃない」
「では、何がそろそろなんだ?」
 彼女の顔がみるみる嫌な笑顔に変化していく。同時におれの中に嫌な予感が膨らんでいく。
「イサムはここが好き?」
 突然の質問に、息が詰まるような苦しさを覚えた。
 考えたことがなかった。好きか嫌いかなんて。
 変な場所だとは思っている。何もない部屋。おれと彼女しかいない部屋。食事もしない、トイレも行かない。窓の外は何もない。外に出ることもできない。外の手がかりは例の上からの声や音楽だけ。それだって聞こえてるってだけで何喋ってるかわからないし、具体的に外の様子が伺えるという類のものではない。ただ外がある――その実感が味わえるだけだ。

 彼女はおれをこの部屋に閉じ込めている。すくなくともおれはそう推理している。
 では、彼女を憎いと思っているか? いやな奴だとは何回も思った。
 彼女はおれが望むものを持ってきてくれる。ありえないことだが、ここでは既にあたりまえのことだ。そのことは、そう、便利だな、と思う。

 ここが好きだ、と答えたらどうなる? ここが嫌いだ、と答えたら、ここから出してくれるのだろうか。もし、ここから出たら、外はどうなっている?

 そうだ。おれにはこの部屋に来る直前の記憶がない。ずっと昔のことはびっくりするくらい細かく思い出せるのに、最近のことはさっぱりだ。これはおれ自身が記憶喪失かなにかの状態なのか、それとも彼女の仕業なのか――
「答えないの?」彼女はにやりにやりと微笑みながら催促している。
 答える。好きか嫌いか。どうしても決心がつかない。答えようとすると不安でたまらなくなる。そんな約束をしたわけではないが、答えによってはここから出られるかもしれない。でも、その外がわからない。外に出てしまって、本当にいいのか? おれには今の外につながる記憶がないのに。

 好きかと訊かれれば、好きではない。でも居心地が悪い、とも思わない。むしろいいと思う。
 嫌いかと訊かれれば、わからない。
 彼女はおれをここに閉じ込めている。では、そんな彼女を恨んでいるか?
 おれは一度でもここから抜け出そうとか、逃げ出そうとしたことがあるか? いや、考えたこともないじゃないか。

「ここにいれば、イサムはこのまま。でもイサムはここが心地いい。だからここにいてもかまわないよ」
 彼女は小さく呟いた。いままでに聞いたことがないような、やさしい声だった。
 ここにいてもいいのならそうしようか。彼女はずっとここにいてくれるのだろうか。いなくなったりしないのだろうか。
「私はずっとここにいるよ」
 その言葉が、とても深くて大きな安堵感を運んできてくれるようだった。こんな何の不安もない、何の恐怖もないところが他にあるだろうか。一言、「ここが好きだ」と言えば、いつまでもこの穏やかな時間がつづくのか。
 そうだ、言ってしまえばいい。外のことなんて何もわからないじゃないか。考えると不安になるだけじゃないか。
 息を吸って、心の準備を整える。彼女を見つめ、口を開いた時――

 ちりっ。
 何かが鳴った。目の奥で微かに何かがちらついている。
 目を閉じてみた。暗闇のなかで、とても小さい光が不規則に点いたり消えたりしている光景が見えた。その光はなんとなく人の姿をしている。その誰かがおれに向かって何かを訴えているような気配がする。

 ゆっくりと目を開け、再び彼女を見た。何だかさっきまでのやさしい彼女ではなく、ケイコにそっくりの怪しい奴に戻ってしまったように感じられた。
「どうしたの?」
 声は同じようにとてもやさしい。だが、たちまちおれの頭の中はいつもの疑問でいっぱいになった。
 お前は誰だ。ここはどこだ。そしてここに来る前おれは何をしていた。どうしてここにいる。こんなに、何もかもわからない状況で、正体不明のガキと一緒にいていいのか。
 外のことを考えると不安になる。でも、それはおれに記憶がないからだ。思い出せればきっと不安も感じなくなるに違いない。問題は思い出せないってことであって、外そのものではない。

「やっぱり思い出したいの?」
 また心を読んだのだろうか。彼女は質問を変えてきた。笑顔は消え、また暗い表情に戻っている。おれは黙って頷いた。
「思い出さないのは、イサムがそうしたいから。思い出してないからイサムはこのままでいられる。それでも思い出したいの?」
「思い出させたくないような言い方だな」
 彼女は頷いた。驚いた。こんなに素直に答えてくれるなんて。
「でも、思い出さなきゃいけないような気がするんだよ。お前に頼めば、思い出させてくれるのか?」
 彼女は首を振った。そして小声で「やりたくない」と付け加えた。できるけどしない、ということだろう。だが、不思議と怒る気にはならなかった。
「どうしてやりたくないの? おれが望むことはやってくれるんじゃないの?」
「私はここにいたいから。でも、そろそろだし、イサムが望むならやりたくないけど、やる」
 そういう言い方をされると頼みにくいじゃないか。

 思い出したらやはりここから出られるということだろうか。また迷い始めている自分に少し飽きてきた。まあ、ゆっくり考えてから結論出してもいいだろう。それより、また彼女の口から出てきた「そろそろ」が気になる。もともとは「そろそろ」が話題だったはずだ。
「その、そろそろっていうのは、何がそろそろなの?」
 この問いについては何も答えてくれない。
 答えるかわりに、彼女は全く別の言葉を発した。
「・・・・ハ・ル・ミ」
 その言葉を聞いた途端、全ての思考が停止してしまった。

(第16話につづく)




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