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「白い彼女」
第五章 ハルミ(17~18話)

白い彼女 第17話

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第五章 ハルミ
第17話

 席に着くと、丁度正面の壁に大きなカレンダーが掛かっている。お陰で日付を度忘れしてしまうこともないし、スケジュールの調整などをするときはそのカレンダーを眺めていれば考えがよく整理されるので重宝している。欲を言えば、もう少し気の利いたデザインにして欲しいものだ。清水運送が毎年持ってくるカレンダーは、ただでかくて数字が並んでいるだけで、何の色気もない。機能性重視と言えばそうなのかもしれないが、きれいな写真とか、絵が載っている方が見る度に気持ちが和んだり気分転換できたりして、かえって仕事の能率が上がると思うのに。

 おととい夕食をとりながらあいつに話してみたら、鼻で笑われてしまった。
「そういうのは自分の部屋にでも掛けときなさい。カレンダーの絵を見る度にリフレッシュなんて聞いた事がないわよ。仮にすごくセンスのいいカレンダーをあそこに掛けたとしても、三日もすれば何も感じなくなるわ。今のやつは確かに殺風景だけど、仕事をする上では便利よ。大きいから遠くからでも見えるし、書き込むスペースも広いし」

 そう言っておれの提案を却下した人物は、今カレンダーの前に立っている。
 手を伸ばして二月の頁をびりびりと切り取っている。月初めの朝には必ず見られる光景だ。誰が指示したわけでもないが、あいつは毎月率先してカレンダーをめくる。たぶん好きなのだろう。
 そしてその後のあいつの行動も決まっている。切り取って不要になった頁を小さく折りたたみ、折り目に沿ってハサミで切って自分のメモ用紙にするのだ。
 おれの予想通り、今日もあいつはまるで定められた使命の忠実な遂行者のように、先月と全く同じ手順で動いた。あいつの席はおれの正面なので、机の上で紙を折る音、じょきじょきとハサミで切る音がよく聞こえてくる。

「ミズノさーん」
 なんとなく冷やかしたくなって、声をかけた。だが何の反応もない。メモ用紙作りに夢中になっているのだろうか。
「ミズノさーん」
 再度呼んでも無反応。まさか気づいてないってことはないはずだ。こいつ、無視してるのか?
「ヤマウチさーん」
 小声で、今度は旧姓で呼んでみたら、ぴくっと形のいい眉が動いた。
 聞こえているのは確かだ。しかしこちらを向きもしないし、返事もしない。やっぱりしかとしてる。朝っぱらから不愉快になった。

「ハルミさーん」
 わざと大きめの声で、名前を呼ぶ。ハルミは鋭くおれを睨みつけ、「ちょっと待った」とでも言うように、左手を突き出しておれの言葉を遮った。そして素早く一枚の紙切れを差し出した。たった今ハサミで作ったメモ用紙のようだった。

 その紙片には、殴り書きの読みにくい文字で、こう記してあった。
『みんなにバレたくさい』
 ハルミはそのまま何も言わず、無表情でメモ作りの作業を再開した。
 その小さな紙に書かれたメッセージを眺めながら、事の重大さに気が遠くなった。

     *

 ミズノハルミと深い仲になってまだ二ヶ月と少ししか経っていない。入社以来、二人でチームを組んで仕事をこなしてきたので、知り合ってからの期間は四年目になろうとしている。おれより四つ上の彼女は先輩として、新人だったおれに仕事の仕方や考え方を一から教えてくれた。

 即断、即決、即応。ハルミの素早い行動力は周囲から一目置かれている。相手が誰であろうと決して臆せず、情に流されることもなく、理路整然と自らの意見を押し通す姿は、一部の後輩女性社員の憧れとなり、多くの同僚と年配の男性社員からは「できれば近づきたくない理論武装女」と噂されている。特に部長は社内でも有数の慎重派、悪く言えば優柔不断な人物で、ハルミが大の苦手だ。できれば遠ざけたいのだろうが、能力としては優秀なので手放すのも惜しいらしい。
 直接ハルミと話をするのが億劫な部長は、しょっちゅうおれに伝言係をさせている。通常、新入社員は二年で配置転換があるのに、おれだけ未だに異動辞令がもらえないのは、どうやらおれとハルミのコンビは息が合う、と判断した部長の「配慮」らしい。

 きっかけは去年の四月に開かれた花見だった。
 ハルミは宴会、飲み会の類とカラオケが大嫌いで、その付き合いの悪さが余計に他者との距離を作る原因にもなっている。おれも以前はハルミと仕事上の都合で食事をすることはあっても、一緒に酒を飲んだことは一度もなかった。
 だが花見は会社主催のいわば公式行事であり、原則として全社員出席するように、とのお達しが社長名で出されていた。ウチは総勢五十名程度の会社で、社長は全社員の名前と顔を覚えるのが趣味のような人なので、無断で欠席すればすぐにバレてしまう。

 何とかして欠席したいハルミは、わざと取引先との打ち合わせを花見とブッキングするように設定したらしいが、直前になって先方の担当者が急病で倒れてしまい、打ち合わせは延期となってしまった。口実を失ったハルミは渋々顔で出席することになった。
 花見会場は会社の近所にある神社に隣接する公園。ここでは四月になると宴会用に桜の下に机と椅子を並べてくれるので、周囲の会社から重宝がられている。

 普段から仕事以外の付き合いを嫌っていたお陰で、宴会が始まってもハルミの周りは静かだった。自然と所在ない彼女の相手はおれが務めることになる。
 初めのうちは仕事の打ち合わせのような会話だった。別におれもそういう会話で不満はない。他にハルミと共有できる話題なんて思い当たらなかった。だが、徐々にハルミの様子が変になっていった。

 どうやら酒に弱いらしく、たちまち目が据わり、顔は赤く、もっと正確には赤黒く変色した。いつも背筋をぴんと伸ばして冷静沈着な先輩が、ふにゃふにゃになってにこにこしだしたのには、正直驚いた。おれが率直に「飲むと雰囲気が丸くなりますね」と感想を伝えると、赤い顔をさらに赤くして、俯いてしまった。その何とも初心な反応に、再び驚いた。

 さてはこの人、男から女として褒められることに慣れていないな――そう思ったおれは、面白半分にハルミを褒めまくった。彼女はその度に照れをごまかすためか、次々と酒を飲む。「年上をからかうな」と口にはするが、機嫌が良いことは一目瞭然だった。

     *

 ちょっと調子に乗りすぎたかな、と思ったときには既に遅かった。花見がお開きになるころにはハルミは机に突っ伏して動かなくなってしまった。他の社員はさっさと二次会に向かってしまい、おれが介抱する羽目になった。まあ、自分でやったことだし、仕方ないと諦めて、動かないハルミを何とか起こしてタクシーでも捕まえることにした。

 嫌がるハルミをなだめて、立たせるのに十分くらい要しただろうか。ようやく起き上がり、一安心したと思ったら、十メートルも歩かないうちに吐いてしまった。まだ辺りには宴会を続けている他の会社の方々が大勢いる状態で、これはなかなか恥ずかしい光景だ。おれもハルミと調子を合わせてかなり飲んでいたので、つられてこっちも戻しそうな気分になった。
「あ、だめ、また吐きそう」
 とんでもないことを言い出すハルミを強引に近くの公衆トイレに押し込んだ。

 しばらく待っていると、少し落ち着いた様子でハルミは出てきたが、近くで見るとたいそう顔色が悪い。タクシーで帰りましょうと提案したが、ハルミは「まだ乗り物はダメっぽい」と言って断わった。
 少し罪悪感もあったし、おれは彼女の休憩に付き合うことにした。公園のはずれにあるベンチが空いていたので、二人で腰掛けた。そこは周囲に桜の木も生えていないせいか、人気はなかった。遠くではまだ宴会で盛り上がっているどこかの社員の声が聞こえる。
 お互い黙ったまま時間が過ぎていった。何か話しかけた方がいいのかとも思うが、ハルミは隣で気分悪そうにしてるし、かえって迷惑そうな気がした。

「へたくそ」
 遠くの宴会から聞こえてくるハンディカラオケを聞きながら時間をつぶす。そのうち、そのカラオケのスピーカーから、お開きの言葉が聞こえてきた。あの会社の人たちもお帰りだ。このあとは二次会かな。これでここはかなり静かになるだろう。何の気なしに腕時計を見たら、十一時を過ぎていた。

 そろそろ帰った方がいいんじゃないか、と隣に視線を向けると、ハルミは座ったまま眠ってしまっていた。
「先輩、風邪引きますよ。もう帰りましょう」
 声をかけても反応がない。それどころか、少しずつ上体が傾きだし、最後にはおれに寄り添うように、肩に頭を乗っけてきた。酔っているせいか、寝息が大きい。
 僅かに鼓動が波打つ。短めだが真っ直ぐでさらさらの髪が数本、時折そよぐ風に乗っておれの顔に当たった。

 もうしばらく、このまま、でもいいかな。
 いや、いかんいかん。ここでどうにかなる相手ではないし、先輩だし、そんなこと、これまで考えたこともないし。だいだいこういう真面目な人は後々面倒くさそうだ。
 気を取り直して、ハルミを起こそうと、声をかけながら彼女の肩を揺すった。
「うーん・・・・」
 ハルミは唸るだけで一向に起きる気配はない。

 試しに頭を軽く撫でてみた。困ったことに、ハルミは余計にこちらに擦り寄ってきた。寝ぼけておれを誰かと勘違いしてるみたいだ。完全に無防備で甘えきっている。
 再び頭を撫でながら、そっと唇をハルミの唇に重ねてみた。ハルミは抵抗もせず、腕をおれの首に回してきた。おれは舌でハルミの唇をゆっくりと押し開け、彼女の舌先に触れてみた。彼女の舌は嫌がらなかった。
 すこしだけ、先程のゲロの味がした。

(第18話につづく)
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