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「白い彼女」
第五章 ハルミ(17~18話)

白い彼女 第18話

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第18話

「今日も許可もらったから、好きな曲をかけるわね」
 女の声が聞こえる。流れ出すあの曲。前にも聴いた事がある、あのアルバム。そして、この音楽が鳴るときは、大抵誰かがおれの右手を優しく握り締める。
 いや、誰か、ではない。もうわかっている。手を握っているのは声の主だ。その声は、ハルミと同じ声だ。そう思うと、この小さく柔らかい、そして少し冷たい感触は、ハルミのもの以外ではありえないという気になってくる。だが、なぜハルミがそこにいるのか、なぜ姿を見せないのか、そこに不自然さを感じてしまう。おれの記憶はまだその理由にたどり着いていない。

 矢継ぎ早に、暗闇に次々と花火がぱっぱっと開くように記憶が呼び起こされていく。少しずつ、確実に。しかしそれらはひどく断片的で順序もばらばらなので、なかなか記憶の全体像が見えてこない。
 これからおれは一体何を思い出すのだろうか、そう考える時間的な余裕のあることが、かえって不安を増大させる。どうせなら全ての記憶を一度に思い出したほうが楽かもしれない。
 今、こうして曲を聴いている最中にも蘇ってくる記憶がある。自分の部屋、自分の職場、友達とのたわいもない会話、通勤電車の中、カードの暗証番号、近所の定食屋、行きつけの飲み屋・・・・。

 まだ全てを思い出せてはいない。だが、このまま放っておいてもやがては全てを思い出せるだろう。そう確信できる。そしておれはそれに戸惑い、またどこかで恐れてもいる。 予感がするのだ。まだ知らない記憶の中に、たどり着きたくないものがある。思い出したくないものがある。もしかしたら、それを思い出したくないから、今おれはここにいるような気がする。

「だったら、もうやめる?」
 突然「彼女」の声が聞こえた。瞬時にして音楽も右手の感触も奪われてしまった。完全な静寂の中、しかしどこを探しても姿は見えない。
「おい、どこにいるんだ」
 返事はない。
「お願いだから出てきてくれよ」
 何の反応もない。
「・・・・もうやめるって、どういうことだ」
 どこに向かって話したらいいかもわからなかった。
「なあ、いるんだろ?」
 彼女はこの部屋に来ている。そういう気配のようなものだけは感じ取れる。姿が見えないのは、彼女の仕業なのか、それともおれに見えてないだけなのか。
「それはねえ、見えてないの」
 すぐ横で声がした。いつも彼女が立っている場所辺りだ。おれは躊躇することなく、そこに顔を向ける。見えないが、そこに彼女は今いる。
 もう二度と彼女には会えないかもしれないと思っていた。改めて彼女は不思議だ、とつくづく思う。彼女の発言はおれを不安にさせ、時には不愉快にさせる。だがその存在は、おれを安堵させる。

「なんだイサム、心細いの?」
 笑いを含んだ声がおれの思考にかぶさってくる。またこいつ、心を読みやがった。一気に不快感が頭上にまで駆け上がってくる。
「うるさいな。何ですぐに返事しないんだよ」
「だって今来たんだもん」
「今来たってどういうことだ」と訊いたところでどうせ詳しくは説明してくれないだろうが。
「だったら訊くなよ」と彼女。
 ・・・・。やっぱりむかつく。
「勝手に心を読むな」
「了解」
 絶対に口先だけだ。
「・・・・で、さっきのは、何だ?」
「さっきの?」
「『もうやめる?』って言ったろ」
「そのまんま。ここにいたいなら、もうやめる?」

 ここにいたいか、いたくないか。その答えは自分にもわからない。ただ、記憶の一部が消えていることがとても不安だった。だから思い出そうとした。しかし、いざ思い出し始めると、「このまま全て思い出してしまって本当にいいのか」という疑問が湧いてくる。

 それに「イサムが望んだから」という、何度も聞いた彼女の言葉。
 おれは、何かを忘れたかったのではないか、そして、どうやってかはわからないが、それを実行した。何故忘れたかったのか、その理由も一緒に忘れてしまった。そして今おれはここにいる。
 もしそうなら、全部おれが望んだことではないのか。もしそうなら、これ以上思い出さなくても、いや、思い出すべきではないのかもしれない。

 ちょっと待て。そんな考えは全くの見当違い、錯覚かもしれない。忘れたい、なんて望みは初めからなく、なにか予期せぬ出来事によって偶然忘れてしまったのだとしたら。事実、おれは心底思い出したい、と願った。それは、今のこの状況が、おれの望んでいるものとは違うからではないのか。

 真実を知る方法は一つだけだ。それは思い出すことだ。そんなことはわかっている。
 だから今、現に思い出しつつある。しかし、思い出すことが増えるにつれて、どうしようもなく不安になってくる。「思い出したあとの自分」の姿が見えないからだ。
 全て思い出したら、おれはどうにかなるのだろうか。何も変わらないかもしれない。どん底に落ちるかもしれない。不安が消えて、ほっとするかもしれない。後悔に打ちのめされるかもしれない。彼女の「もうやめる?」という言葉を耳にした時、確かにおれの中の何かが揺らいだ。

「こうしているうちにもどんどん思い出してるんだ。すごい勢いで。おれが望めば、止めることもできるのか?」
「それは、わからない。でも私がここにいることはできる」
「でも姿が見えないよ」
「イサムが望めば、見えるようになる」
「どうするんだ?」
「深いところに行くの」
 深いところって、どこだ?
「もう行くね」
「ちょっと、深いところってなんだよ」
 返事はなかった。いなくなったのだろうか。
「わかった。望むよ。お前の姿が見たいんだ」
 だが、何も目の前に現れなかった。



 再び天井から音楽が聞こえてくる。右手に握られている感触が蘇る。
 さっきからこの部屋は声だけ、音だけ、感触だけ。何一つ姿を現さない。
 本当に聞こえているのか、感じているのか、それとも、もしかしたら全て気のせいなのか。何一つはっきりとしないひどい曖昧さが自分から確信を奪い去っていく。

 こうなったら、こちらから天井に向かって声をかけてみよう。今まで試したことがなかった。もしかしたらおれの声が届くかもしれない。何か呼びかけに応じてくれるかもしれない。
「なあ、ハルミ。聞こえてるか? お前、ハルミだろ? 一体何がどうなってる? ここがどこだか教えてよ」
 変化はない。ただ、音楽が聞こえるだけで、ハルミの声は聞こえてこない。
「そこにいるんだろ? なんで降りてこないんだよ」

「どうですか?」
 ハルミではなく、男の声がした。いつも聞こえる男の声だ。この声が誰のものであるかは、いくら考えても見当がつかない。
「はあ、特に変わったことはないです」
 ハルミの声が男に返事をした。
「おい、ハルミ」
 そいつじゃなくて、おれに返事をしてくれ。
 右手の感触が消える。ハルミが手を離した。
「もう・・・・は、この・・・・続ける・・・・す」
「正直な・・・・、・・・・は、・・・・ないのですか?」
 二人が話している。その声が、伸びきったテープを汚れたデッキで再生するように、こもっていく。小さく、遠くなって聞き取れなくなっていく。
「ちょっと待ってくれ。ハルミ、応えてくれよ。そっちの男の人でもいいんだ」
 どちらもおれの声に気づいた様子はないまま、ついに声は音楽とともに全く聞こえなくなってしまった。

 次第に周りが暗くなり、冷気が舞い降りてくる。意識が薄くなっていく。
 また、これだ。まるでおれを邪魔しているみたいだ。
 くそ、なんでいつもこうなんだ。
「だって、望むって言ったじゃない」
「彼女」の声が聞こえたような気がした。だが、すぐに何もわからなくなった。

(第五章終了・次回(19話)から第六章)




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