スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←白い彼女 第19話・後編 →白い彼女 第21話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第19話・後編】へ
  • 【白い彼女 第21話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「白い彼女」
第六章 ユカ、その二(19~22話)

白い彼女 第20話

 ←白い彼女 第19話・後編 →白い彼女 第21話
第20話

 ユカとの初デートは、それから一週間と経たないうちに実現した。
 自分で誘っておきながら、具体的なプランは何も持っていなかったが、翌朝、いつもの電車の中でユカが「東京に行きたい。もしくは映画が見たい。できれば朝早くから行動して、両方したい」と早速提案してきた。
「お好きなように」と返答すると、日曜日に東京で映画を見ることに決まってしまった。もたもたしていると期末試験が近づいてくる。
 一方、四人で遊びに行く、という計画はケイコが仕切ることになったが、どうやら冬休みに実行するらしい。クリスマスにでも合わせるつもりだろうか。

「なんでわざわざ東京で映画なの?」
「映画を見るのは、もともと映画が好きだから。東京はね、実は今まで一回も行ったことがなかったから行ってみたい」
「まじ? 行ったことないの? すぐじゃん」
 東京なんて目と鼻の先だ。京急でもJRでも一時間とかからずに着く。
「うーん、何だか、たまたま機会がなかったって感じ」
「映画は何を見たいの?」
「わかんない。いつも気が向いたときに映画館行って、その時上映してる中から面白そうなの選んで見るの。だから今まで見た映画のジャンルとか、全然脈絡ないよ。渋谷とか新宿とか行けば映画館も多そうだから、きっと面白いの見つかるよ」

 不思議な光景だ。おれが無理矢理デートするように仕向けたのに、ユカは嫌がるどころか、自ら進んでプランを立てている。全部仕切ってくれるのは楽でいいが、昨日のような優越感は味わえない。
 ふと、車内のいたるところから視線を感じた。見回すと周囲の通勤中サラリーマン達がじろじろとおれ達を見ている。隣ではいつもより大きめの声でユカが話を続けている。電車の中、二人して大声でデートの打ち合わせをしていたことに気づいた。
 慌てて話を打ち切る。詳しいことはまた今度。ユカもどうやら辺りの視線に気づいたようで、照れ笑いをしながら黙った。

「じゃあ、これ」ユカは一枚の紙切れを差し出した。見ると何も書かれていない。ユカの手にも同じ紙が一枚握られている。
「連絡先。学校だともっと話できないし、日曜日って三日後だから――」
 そう言ってユカは紙に電話とポケベルの番号を書き始めた。
 おれも同じように自分の手元の紙に書く。おれはポケベルなんか持ってないし、最近登場したPHSとやらも当然持ってないので電話番号だけだ。
「持ってても私はあんまり役に立ってないな。鳴らしてくれるのケイコと家族くらいだし、ケイコは最近全然連絡くれないし。持ってても鳴らないとかえって寂しいかも」
 ユカが言った。何だ? おれをフォローしたつもりか?

 お互いの連絡先を交換した。おれは紙に電話番号を書いただけだったが、ユカがくれた紙には電話とポケベルの番号の他に、左上に「Y・Yのれんらくさき」と添えてあった。
 ユカはおれが渡したメモを眺めて言った。
「イワイくんて〝イワイ・イサム〟くんだよね?」
「そうだけど」
「じゃあ、イニシャルにすると〝I・I〟だね。私は〝ユキノ・ユカ〟だから〝Y・Y〟。なんだか、ちょっと似てるよね」
 ユカが嬉しそうに言う。
「それがどうかしたのかよ」
「ううん、別に何でもない――そうだ、わかんなくならないように書いとこ」
 ユカはおれの電話番号のすぐ上に、おれのイニシャルを片仮名で〝アイ・アイ〟と書き加えた。
「ほら、こうやって書くと、なんだかお猿さんみたいで可愛くない?」
「どこが!」
 周囲の視線がさっきより鋭くなったような気がした。全く調子狂う。きっとこういう日を厄日っていうに違いない。

     *

 あっという間に日曜日が来て、早朝から出かけるハメになった。
 よく晴れていたが、十一月中旬の朝は既にかなり寒く、それに加えて風も強かった。今日は映画だけじゃなくて、東京巡りも兼ねているから長時間外を歩き回るだろうと思い、少し厚着をして出かけた。
 金沢文庫駅で待ち合わせをして、京浜急行で品川へ向かう。
 スカートを穿かない、というケイコの話は本当だった。初めて見るユカの私服はジーンズ姿だった。

 今日一日の行動はユカに一任している。車内でユカが希望を披露した。映画は午後にして、まずは観光したいみたいだ。
「原宿か渋谷には行ってみたいな。あ、でもそれは後の方でいいや。買い物しちゃうかもしれないし。えっとね、とりあえずあの迷路みたいな地下鉄に乗ってみたい。それで、東京タワーと、浅草の観音様と、お台場と、皇居、できれば国会議事堂も見てみたいし、都庁も捨てがたい――」
 ・・・・朝っぱらから頭痛がしそうだ。
「何か・・・・はとバスツアーか修学旅行みたいだな」と呟くと、ユカは頬を膨らませてムクレてしまった。
「だって、行ってみたいところ考えたら、こうなっちゃったんだもん。じゃあイワイくんだったら、どこ行きたい?」
「目黒寄生虫館、あと江戸東京博物館とか」
「それも面白そうだね」
 ユカの両瞳がキラキラ輝きだした。頼むから本気にしないでくれ。

 ユカご希望の場所を全て巡るのは時間的に無理だと伝えると、ユカはバッグから『観光ガイド』を取り出し、移動ルートの検討を始めた。いつの間にそんなものを。
 国会議事堂と皇居は割と近くだから、まずは議事堂方面を目指すことになった。二人とも地下鉄には慣れていないので、駅名が頼りだ。品川駅に着くと山手線に乗り換え、東京駅から地下鉄丸の内線で国会議事堂前を目指す。

 地下鉄に限ったことではないが、駅のホームにあるゴミ箱は全て使えなくなっている。ユカはそれをまじまじと見つめていた。
「地下鉄のホームでああなっているのを直に見ると、結構リアリティあるね。大変だったんだなってこと、少し伝わってくるような気がする」
 さっきまではしゃぎまくっていたのが嘘のように、ユカの表情が硬くなった。普段と同じ、おとなしくて大人っぽい、静かなたたずまいだ。
 おれも同じような感想を持った。ほんの八ヵ月ほど前、東京の地下鉄に毒がまかれ、多くの人の命が奪われた。それ以来、都内とその近辺の駅のゴミ箱は全て塞がれた。
 地下鉄駅構内は外の風景もなく、どこも同じような作りなので、慣れないとどの駅も同じに見えてしまう。その分、事件現場を想像しやすい。今見えている光景とそんなに変わらないようなところでそれは起きたのだろう。
「・・・・私、理不尽な暴力って許せないんだ。無差別殺人なんて最低。一番やっちゃいけないことだよ」とユカは呟くように言った。いつか聞いたケイコの話を思い出す。ユカもまた過去に親戚から理不尽な暴力を受けた。
「議事堂に向かうと、現場の近くを通ることになるけど、いいの?」
「うん、平気」
 ユカは柔らかく微笑んで見せ、ホームに入ってきた地下鉄に乗り込むと、元のハイテンションを取り戻した。
 それからは、ユカ自身が検討したプランに基づき移動を繰り返す。その小さな体のどこにそんな力が、と思えるほどの強行スケジュールで、結局ユカが希望した場所のうち、原宿以外の全てを巡った。
 最後にたどり着いたのは渋谷。辺りはとっくに暗くなっていた。ここで買い物をしたかったらしいが、まだ映画が残っているので諦めることにしてくれた。おれは本心から嬉しかった。映画なら座れる。殆ど休憩なしに歩き続けてくたくたになっていた。

 駅前のハチ公を嬉しそうにベタベタ触って喜んだ後、映画探しが始まった。ユカは『ぴあ』を取り出して、渋谷で上映中の映画をチェックする。
 数分後、ユカが選んだのは『静かな生活』という映画だった。あと十五分位で始まるらしく、丁度いいそうだ。
「この映画は原作読んだことあるんだ。前からちょっと興味あった」
「原作って、小説?」
 ユカは登下校時によく本も読んでいたから、おれなんかよりはるかに読書量が多いことは容易に想像できた。
「うん、大江健三郎。何か読んだことある?」
「あったら訊かないよ。大江健三郎って面白いの?」
「知らない?」
「知らん。でも聞いたことがあるような気もする名前だな。有名なヒト?」
「去年ノーベル賞とったよ」
「まじすか」ちょっと恥ずかしかった。

 映画館の中は思ったより空いていた。どこでも好きなところに座れる。画面を見やすい場所はだいたい場内の真ん中付近だろうとあたりをつけ、席を取ろうとすると、ユカは「もっと前がいい」と言って、移動を続けた。おれは後をついていく。前へ前へ、一体どこまで、と思っていたら、最前列の席にたどり着いた。
「いつもこんな前で見てんの?」
「うん」ユカは平然と答えた。
 こんな前では画面が視界に入りきらないし、首も疲れるじゃないか。と、おれが思っているのを読み取ったように、ユカは続けた。
「私、近眼なんだ。遠いと良く見えないの。字幕も見えないから、映画はいつも邦画専門」
「メガネとかコンタクトはしないの?」
「メガネは一応持っているけど、嫌いなの。コンタクトはちょっと怖くて。こう、目にレンズをはめるシーンを想像するだけでびびっちゃう。でも最近はさすがに不便になってきたから、どうしようかなって思っているけど」
「よく、それで部活やっていられるな」
 ユカはおれと同じバドミントン部。視力が悪いとかなり難しいんじゃないか?
「だから、私ってヘッポコでしょ。遠近感はないし、シャトルなんて白く滲んだ塊にしか見えないもいん」
「じゃあ、メガネかけてやれば一気に強くなるんだ?」
「だといいけどね、やったことないからわかんない」
「あ、だからなのか」普段からよく見かけるユカ独特の表情を思い出した。
「何が?」
「こう――」おれは自分の左右の眉の間に右手の中指をつきたてて、大きな皺を作って見せた。ユカはそれを見て笑い出した。
「やっぱりやっちゃってる?」
「しょっちゅう。なんかメンチきってるみたいだなっていつも思ってるよ」
「見えないと皺よっちゃうの。やばいね、癖になってるみたい。ケイコにも『目つき悪いから直せ』ってよく言われてる。やっぱり直した方がいいかな?」
「映画見るときくらいメガネかければいいのに」
「今日は忘れてきちゃった。それに人前でかけるの嫌なんだ」
「なんで?」
「笑えるから」

 そんなやりとりをしているうちに、上映時間になり、場内が暗くなる。スクリーンには、まずお決まりの近日公開、次回上映作品の予告などが映し出される。
 隣に座っているユカの横顔は、スクリーンからの反射光をうけて、ときにはっきりと、ときにぼんやりと見える。眉間には深く大きな皺が刻まれていた。その横顔にメガネをかけた姿を想像してみたが、うまくいかなかった。
 本編が始まって間もなく、おれは眠ってしまったらしい。とにかく今日は歩き続けて疲れていたし、外の寒さに比べてこの映画館はあまりにも暖かかった。場内の程よい暗さの中で現れた睡魔に、一度も抵抗することなく降参してしまった。


 目覚めるとまだ映画は続いていたが、ストーリーも登場人物も誰が誰だかわからなくなっていた。
 横に視線を移すと、ユカはじっと、眉間の皺もそのままに映画に集中していた。
 ストーリーはどうやら終盤らしい。ヒロインらしき女の子が、男に襲われそうになっているところだった。

 ・・・・こんなシーンを見て、ユカは大丈夫なのか?
 再びユカを見たが、その表情に変化はなく、集中しきっているように感じられた。
 おれも前に向き直って映画に集中することにした。目に入ってくる映像と、話に聞いたユカの過去が自分の中で混ざってしまい、まるで目の前で襲われてるヒロインがユカに見えてしまう。

 もう一度ユカを見る。ユカに変化はない。
 変化はおれの体に現れた。まさか、こんな時に。いや、さっきまで寝てただろ、おれ。だからこれはそのせいに違いない。毎朝起こる生理現象と同じものだ。そう言い聞かせても、血流が次々とへその下に集まっていった。こうなるともう足でも組んでごまかすしかない。ゆっくりと右足を左足の上にもってくると、隣のユカが驚いたように一回だけぴくっと震えた。

 映画ではヒロインは兄に助けられたが、これもユカの体験と似ている気がする。どうしても見たくなってしまい、またまたユカを見た。ユカの表情に変化を見つけることはできなかったが、ユカがおれの視線に気づいて、一瞬目が合ってしまった。慌ててスクリーンに視線を戻す。
 もうユカを見ることができなくなってしまったが、かえって余計にユカが気になってしまう。なんとか映画に集中しようしたが、できなかった。へその下は、映画が終わるまで充血しっぱなしだった。

 結局映画の内容は全然わからないまま終わってしまい、映画館を後にした。
 ユカがおれの居眠りに気づいていないはずはないが、何も言わずニコニコしていた。
 このあと二人で夕飯を食べたときも、ユカは映画の話題を出さなかった。おれに気を遣っているのか、それとも話題にしたくないのか、おれには判断できない。ただ、一言だけこう言った。
「今日はちょっとハードだったね。観光と映画の二本立ては、無理しすぎだったみたい」
 それについては全く同感だった。

 それから冬休みまでの間、おれとユカは何度か一緒に映画を見に行った。東京ではなくもっと近所で。見る映画は必ず邦画、席は一番前。ユカがメガネを持ってくることは一度もなかった。

(第21話につづく)
今回もちょっと長かったですね><



にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 
お気に召しましたら、ぽちっとしていただけると励みになります

関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第19話・後編】へ
  • 【白い彼女 第21話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【白い彼女 第19話・後編】へ
  • 【白い彼女 第21話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。