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「白い彼女」
第六章 ユカ、その二(19~22話)

白い彼女 第22話

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第22話

『今日は例年よりも気温が低い』
 出かける直前に見たテレビの天気予報の通り、玄関のドアを開けた途端、強烈な冷気が体を包みこんできた。
 遅刻しそうだったおれはまだ完全に髪を乾かしていなかったことを少しだけ後悔した。目的地は遠く、おそらくそこでは海風も吹いているんじゃないか――そう考えるだけで気が滅入りそうだった。

 横浜駅でユカ、ケイコ、コウイチと待ち合わせてから、いざ東京ディズニーランドへ。 つい最近まで、修学旅行でしか県外に出たことのなかったユカはもちろん、おれもディズニーランドに行くのは初めてだ。一緒に遊びに行くような友達はいなかったし、そういう場所に興味を持ったこともないような気がする。
 待ち合わせ場所は東海道線のぼりホームの一番前、つまり東京寄りの端だ。明日はクリスマスイヴ、世間はどこもかしこもクリスマスムード。街を歩いていれば必ずクリスマスソングを耳にし、目に映るのはツリーやイルミネーションだらけだ。
 だが、今はまだ朝であるせいか、全体的に静か、というか音が少ない。寒い朝はなかなかベッドから出られないのと同じように、今朝の寒さでまだ世の中が目覚めるのを躊躇しているかのようだ。土曜日ということもあってか、電車も空いていた。もちろん、この静けさがいつまでも続くはずがない。あと一~二時間もすればどこもかしこも人だらけになってしまうだろう。

 待ち合わせ場所のホームに出て、東京方面に歩いていくと、ホームの端にユカがぽつんと立っていた。辺りに目をやったが、他には誰もいない。
 時刻は八時〇四分、四分の遅刻だ。時間通りに来たのはユカだけということか。

 おれが近づいていくと、ユカは眉間に大きな皺を作り、思いっきりガンを飛ばしてきた。
 すぐにおれだと気づき、小さく手を振った。おれも軽く右手を上げ、「うぃっす」と挨拶する。お互いに最近よく見慣れた光景だ。
 そのまま特に会話をするでもなく、黙って残り二人の到着を待つ。待ちながら、少し前にCD屋でばったりユカと会った日を思い出した。あの時、というかあの時までは、おれもユカも無理矢理にでも何か話そうとして、お互い必死で話題を探していた。それから何度か映画を見に行ったりするうちに、それはなくなってしまった。話したいことがあれば話す。特になければ黙っている。それが普通になった。
 ただ、ユカの方はおれが黙っているときに話を切り出すのが苦手なのか、「あの」とか「えっと」という言葉が口癖のようになっている。

「あの・・・・」
 そんなことを考えているときユカがいつもの調子で話しかけてきたので、吹き出しそうになった。ユカが怪訝な顔でこちらを見ているので、なんとか笑いをこらえる。
「二人、遅いね」ユカが腕時計を見ながら言った。
 おれも自分の腕時計を見る。八時十八分。集合時間は八時だ。
「ユキノは何時にココに着いたの?」
「七時四十五分くらいだったと思う」
 ということは、もう三十分以上もここで待っているのか。もう体も冷え切っているだろう。タイミングを計ったかのように、ユカが小さくくしゃみをした。

「どうするよ、まだ待つ?」
 おれはユカに頼まれたからここにいるのであって、もともと乗り気ではない。それにこんな日にディズニーランドに行ったら、クリスマスのイベントなんかもやっているだろうから人、人、人に違いない。きっとものすごく疲れるような予感がしている。
 このまま二人が来ないなら、いっそ中止にしてしまうのも悪くない。というか、その方がおれには喜ばしい。まだ朝も早いし、ユカが望むならこの前の東京見物の続きをやっても構わない。
 ユカは「うーん」と唸って、俯いてしまった。
 今回の〝四人デート〟のきっかけを作ったのはユカだが、行き先や時間を指定したのはケイコ(たぶん)だ。その本人が来ないんだから、ユカが責任を感じる必要はないと思うのだが。

「実はね、もしかしたらね、あの二人来ないのかな、なんてちょっと思ってるの」
「なんで?」
「このまえ、映画見にいくの急にキャンセルしたことがあったでしょ」
 ケイコが電話してきた日のことだ。
「あんまり詳しい事情は聞かなかったんだけど、あの二人、喧嘩したみたいなんだ」
 それで落ち込んで、ユカのところに愚痴をこぼしにきたらしい。ケイコが自分のプライベートな理由だ、と言っていたのはこのことか。
「おとといの夜、念のためにケイコに電話したんだけど、その時はまだ仲直りしてなかったみたいだったし、でも、今日はちゃんと行くからって言ってたし――ちょっとどうしていいか困るよね」

 全然困らない。そういう事情であればなおさらここでいつまでも待っているのはばかばかしいというものだ。でも責任感の強いユカは、ぱぱっと思考を切り替えて即行動に移すのには抵抗があるだろう。そこで、ユカも一応は納得できるような対応策を提案することにした。
「とりあえず八時半まで待って、それで来なければやめようよ」再び腕時計を見ると、もう針は八時二十分を指している。
「やめてどうするの?」
「ユキノはディズニーランド、行きたいか?」
「・・・・どっちでもいい」
「行きたいなら、さっさと出発する。嫌ならここで解散するか、どっか別の所に行ってもいいし。とにかくここでぼーっとしてても寒いだけだし、三十分待てば充分でしょ」
 ユカは少し考え込んでから「そうだね」と答えた。もともとユカも今回の企画には乗り気ではなかったはずだ。ただ自分からは止めると言い出せないだけだ。であればおれが導けばいい。
「ディズニーも行ってみたい気もするけど、寒いし、遠いし、今日は特に混んでるだろうし、また今度でもいいかな」
 腕時計を見ながら独り言のように、だがおれにもはっきりと聞こえるようにユカが言った。

「どうする? このあいだお流れになった、映画でも見に――」
「時間もいっぱいあるし、水族館に行ってみたい。品川か、八景島あたりで」
 おれが言い終える前にユカの提案がかぶさってきた。その両目は大きく開いておれを真っ直ぐ見つめ、きらきらと輝いている。こいつ、とっくにそのつもりだったんじゃないのか。
 なぜ水族館に? と訊くと「なんとなく前から行きたかった」と答えただけだったが、別段断わる理由もないので、「いいよ」と告げると、まん丸に開いた両の目が、カマボコの断面のような形に変わった。小さな口は両端をちょっとだけ吊り上げ、白い息が漏れる奥から、やはり白い歯が僅かに覗いた。

 こうなると、ケイコとコウイチが間に合うよりも、このまま来ないで欲しいという気持ちが強くなってしまう。刻限まであと数分だが、それがとても待ち遠しくなる。ユカも同じような気持ちなのか、それとも寒いのか、おれの周囲をちょこちょこ動き回り始めた。

 八時三十分になった。二人は来ない。
「じゃ、行きますか。どこの水族館がいい?」おれが尋ねると、迷わずにユカが言う。
「八景島シーパラダイス」
「東京に行きたいって言うかと思ったよ」
「イルカショーやってるかもしれないから」
 二人で並んで歩きだした。八景島なら、京浜急行に乗り換えなければならない。
 歩きながらユカがまたくしゃみをした。大丈夫か、と声をかけると、「ちょっと風邪気味かも。でも平気だから」と言って笑った。

 ホームの階段にたどり着き、二~三歩降り始めたところで、聞き慣れない電子音が聞こえた。それは、すぐ隣を歩いているユカのコートのポケットから鳴っているようだった。
 ユカは立ち止まり、戸惑った表情でおれを見たが、おれは何も言わなかった。
 ため息を一つついて、ゆっくりとポケベルを取り出す。
「・・・・やっぱりケイコだ。あと十五分で着くって」
「そうか」
 おれは集合場所に引き返そうと、一八〇度ターンしてホームに上がった。だが、ユカは降りかけた階段で立ち止まったままだった。

「どうしたんだよ」とユカの背中に声をかける。
「なんでもない」と言って、ユカはポケベルをしまいながら後をついてきた。一瞬だけ下唇を噛み、小さく鼻をすする。

「やっぱりあの二人は無視して行っちゃうか、水族館」
 と言えばよかったのだろうか。でもこれから二人が来るなら仕方ないじゃないか。ユカとケイコは親友だし、勝手にいなくなって後でとやかく言われるのは御免だ。
 ユカは何も言わずに集合場所であるホームの端に向かって歩いていく。そう、もし嫌ならユカが言えばいい。もともとおれは頼まれてここにいるんだから。

 再びホームの端で、二人でケイコとコウイチを待つ。お互い何も話さない。先程とは違って、空気が重く感じられる。
 しばらくして、ケイコとコウイチが揃って現れた。時刻はとっくに九時をまわっていた。

(第六章終了・次回(23話)から第七章)




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