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「白い彼女」
第七章 ケイコ(23~26話)

白い彼女 第25話

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第25話

「でも、正直なところ、イワイくん驚いたでしょう。私って厄介な女なんだ、実は」
 少し落ち着きを取り戻したのか、やや神妙な口調でユカが言った。
 それは、かなり微妙な台詞に思えた。おれがユカの過去の事情を知っていることを悟られないように話すには、言葉を慎重に選ばなければならない。
 そういう意味では確かに厄介というか、面倒な女という点は同意できる。

「まあ、いきなりだったし、ちょっとな。あれだろ、朝、風邪気味だって言ってたし、現に今熱出してるし、ほら、電車にも酔ったし――そういうのがたまたま重なったんだろ。きっとケイコ達が遅いから、体冷え切っちゃって悪くなったんだよ」
「すんませんねえ。でもそれ当たってるね。ごめんねユカ」
 ケイコもおれに調子を合わせてくる。きわどい会話になりつつあることに気づいてくれている。

「そうだね。確かに寒かったし――ケイコ今度何かおごってね――でもそれだけじゃないの」ユカは話を続けようとする。
「そうそう。風邪と乗り物酔いと、あと一つで、トリプルパンチ」ケイコがユカを遮るように口を挿む。ここはケイコに合わせるのが賢明だろう。
「あと、ひとつって?」コーヒーカップを口に運びながらおれは訊いた。
「女の事情ってやつよ」
 飲みかけたコーヒーを吹き出しそうになった。
「もう、やめてよケイコ!」ユカはユデダコのようになって布団の中に隠れた。
 ケイコは高笑いしている。どうやら本当らしい。でも、そんなこと言われるとおれもリアクションの取りようがない。黙ってコーヒーを飲むしかないじゃないか。

 だが、これで話は逸れた。なかなかやるじゃないか。ここはケイコの機転に感謝しよう。
「さて、あたしはちょっと買い物に行ってくるわ」と言ってケイコが立ち上がる。
「買い物?」おれの声と、布団から顔を出したユカの声がハモってしまった。
「風邪薬と、痛み止め、それに食材。おなか空いたでしょ? なんか作ってあげるよ」
「ほんとに?」ユカは急に喜びだした。確かに腹は空いてきた。時計を見ると午後一時を少し過ぎたところだった。
「おれも行くよ。荷物多くなるだろ?」
「いいよ。あんたはユカの看病してなさい。ユカ、チャリ借りるね」
 ケイコはさっさと出て行った。

 ユカは「行ってらっしゃーい」と見送ったあとおれに向かって、「ケイコはすんごい料理上手なの。楽しみー」と言って喜んでいる。
「・・・・でも、お前病人だから、お前だけお粥とかかもよ」
「がーん」ユカはうなだれてみせた。どうやらお互いに変な緊張感は抜けたみたいだ。

「でも、ケイコってまめなんだな。そういうふうに見えないけどな」
「ケイコの家はお母さんと二人暮らしなの。お母さんは老人ホームで働いててね、夜勤とかもあって大変みたいだから、家事はほとんどケイコがやってるの」
「なるほど、いろいろあるんだな。人は見かけによらないってわけか」
「ねえ、イワイくん」
「なに?」
「私ね、今日吐いたのは、三つじゃなくて、四つ重なったからなんだ。たぶん」
「四つ・・・・」
 しまった。急に話題が元に戻ってしまった。ユカは大真面目な顔で、おれの目を見ている。

「風邪と、乗り物酔いと、その・・・・アレと、もう一つ。あの時、もともと吐きそうなの我慢してたところに、コウイチくんが来たから――」
「コウイチが何かしたんだ?」おれはできるだけ何も知らない振りをするしかない。

 ユカは黙ってしまった。張り詰めた空気が部屋中に満たされていく。
 ユカは迷っているようだ。このまま次の言葉を待つよりは、強引にでも何か別の話題にもっていった方が無難だと思ったが、こんなときに限って何も頭に浮かんでこない。
 こうなったら、いっそトイレにでも立つか、という結論に至り、足に力を入れたところで、ユカが話し始めてしまった。
「イワイくん、実は私のこと、いろいろ知ってるでしょう?」
「ゆ・・・・ユキノのことって?」
「いいよ、隠さなくて。おととい電話したとき、ケイコに詰め寄ったの。そしたらケイコ、イワイくんに私の昔のこと話しちゃったって、白状した」
 おのれケイコ、おれには固く口止めしておいて、自分はあっさりゲロかよ!
 さては買い物に行ったのも、雲行きが怪しくなったんで逃げたな。一瞬でも感謝したおれがバカだった。

「手・・・・出してくれる?」
 言われるままに、おれは右手を差し出した。ユカはゆっくりと布団の中から両手を出して、おれの手を握る。
「ほら、やっぱり平気。どうしてかわからないけど、私、イワイくんは大丈夫なんだ」
「そう・・・・らしいね」初めて知った。ユカの手はとても温かくて、柔らかいと。
「ありがとう」と言ってユカは手を離した。
「ごめんね」ユカの目には涙が浮かんできた。
「な、何が?」
「ケイコにお願いされてたの、私知らなかったから――調子に乗ってイワイくんのこと、あちこち引っ張りまわしちゃった。ごめんね、大変だったでしょう」
「いや、別に大変っていうことは・・・・」
「でも、もう無理しなくていいから。今日は例外だったけど、イワイくんのお陰で随分良くなったんだ。いい訓練になりました。今までありがとう」
 ユカはそう言って、布団の中に隠れてしまった。

「お、おいちょっと待った。自分が喋るだけ喋って、終わりかよ」
 すると、布団の中から鼻をすする音とともに「聞こえてる」と声がした。顔は出てこない。
「はいこれ」と言って、布団の端を掴んでいるユカの手を、ティッシュの箱で軽くとんとん、と二回たたいた。ユカは手探りで箱を掴み、布団の中に引き込んだ。やがて鼻をかむ音が豪快に鳴り響く。
 その音が少しだけ緊張感をほぐしてくれる。

「お前は、それでいいのかよ。そうだ、水族館に行きたいって言ってたろ、もう行かなくていいのか?」
 おれは布団に向かって話す。すると布団が返事をする。
「・・・・行きたい」
「だったら行けばいいじゃないか」
「でも、もうこれ以上迷惑かけられない」
「迷惑じゃないっての。お前覚えてないの?」
「・・・・なにを?」
「初めに誘ったの、おれじゃん」
「・・・・そうだけど」
「そういうことだよ」
「そういうことって?」
「ああ、つまりだな――って、いいかげん顔出してくんない? すごくやりにくいんだけど」

 ゆっくりと布団が動き、ユカの顔の上半分だけが姿を現した。
 目は真っ赤に充血して、目じりから耳の方に向かって涙が流れた痕がくっきりと残っている。
「えっとだな、つまり、あれだ。誘ったのは、おれの意思」
「意思?」
「そう、意思。ケイコに誘えって頼まれたわけじゃない。だから、迷惑じゃない」
「ホントに?」
「お前はどうなんだよ」
「私?」
「いろいろ裏事情知っちゃって、もう嫌になったか?」
「そんな・・・・ことない。私は、イワイくんと一緒にいたい」
「だったら、それでいいじゃないか」
「一緒にいてもいいの?」
「ああ、いいよ」
 ユカの目にまた大量の涙が溢れてきた。だが、目の形はカマボコの断面ように変化していた。

「あの・・・・ひとつ訓練に協力してほしいことがあるんだけど」
 そう言ってユカは、隠れていた顔の下半分を布団から出した。鼻が赤い。
 おれが顔を近づけると、さすがに怖いらしく、布団の端を握っている手に力が入っている。
「やめとこうか?」
 おれが訊くと、ユカは首を振って「がんばる」と言ってくれた。

 できるだけゆっくり、優しくユカの唇に触れる。
 初めは小刻みに震えていたのが、次第に治まってくる感触が伝わってきた。
 その弱々しさと柔らかさは、二人が新しい段階にひとつ進んだと同時に、これまで安住していた場所が崩れ去ったことを、おれに教えてくれた。

 だんだんだん、と階段を駆け上がってくる音が聞こえ、慌てて顔を離す。気がつくとユカの顔は汗びっしょりだった。
 ユカは少し照れながら、「すぐに慣れるから、また協力してね」と言って笑った。

 ケイコがスーパーやコンビニの袋をいくつも抱えて入ってくるなり、驚いてユカに駆け寄った。
「どうしたの。汗だくになっちゃって。熱がまた上がったのかな? あ、イワイ、すまないけど、ちょっと部屋から出て。着替えるから」

(第26話につづく)

※年内の連載はここまでです。次回の掲載は来年になります。
 来年もよろしくお願いします。





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