スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←白い彼女 第28話 →白い彼女 第29話・後編
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第28話】へ
  • 【白い彼女 第29話・後編】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「白い彼女」
第八章 ケイコ、その二(27~29話)

白い彼女 第29話・前編

 ←白い彼女 第28話 →白い彼女 第29話・後編
第29話・前編

 夕べの事。
 酔っ払ったケイコは、店を出てすぐに吐いた。仕方ないので、家まで送ることにした。だがおれも百メートルも歩かないうちに吐いてしまった。
 ふらふらになりながら、なんとかケイコの家にたどり着く。道順は全然覚えられなかった。
 ただ、道中は二人とも妙に盛り上がっていて、笑いながらお互いを酔っ払いと罵り、ケイコは「窮屈だ」と言って裸足になったり、おれにおんぶを強要し、おれは地べたに寝転んだり、道端に落ちている空き缶に文句を言ったりしたのをおぼろげに覚えている。
 自分の醜態を思い出すのは、結構苦痛が伴うものだ。

「おお、ケイコの家はマンションなのか」
「なに、マンションで悪い?」
「全然。何階?」
「八階」
 エレベータで昇っていき、部屋の前に着くとケイコが言う。
「上がっていきなよ」
「いや、それはまずくない?」
「でも、帰れんの? もう電車ないよ」
「おれんち隣の駅だし、そのくらいなんとか歩けるっしょ!」
「無理だって、そんな酔っ払いじゃ。うちは平気だよ。少し飲みなおそうよ。実は、今日はまだ話半分だし」

 結局ケイコの部屋に案内された。
 ケイコは冷蔵庫から缶ビールを山ほどもって来た。テーブルはないらしく、床にごろごろ缶を並べた。
 おれとユカは並んで、ベッドの縁を背もたれ代わりに寄りかかって座り、再び乾杯した。

「そういや、なんだっけ、話半分って」
 缶を口にくわえながらおれは訊いた。ケイコも同じように缶をくわえて言った。
「もともと今日はあたしのヤケ酒のはずだったのに、あんたとユカのお祝いになっちゃったでしょ」
「なるほど。で? ヤケ酒っていうのは、コウイチのことか」
「大当たり」
 それから、堰を切ったようにケイコは喋りまくり、同時に喉の渇きを潤すため、空のビール缶を量産した。

 細かいことは忘れてしまったが、要するにコウイチは二股をかけていたらしい。
 それが発覚したのは随分前のことだが、コウイチはケイコに謝り、もう一人の女とは別れる約束をしたので、許すことにしたそうだ。
 だが、いくら待ってもコウイチは別れる気配を見せない。
 ケイコが咎めると「いまもめている」「もうすぐだから」という言い訳が返ってくるだけで、とうとう我慢も限界に達し、今日の四人デートが終わったらきっぱりと別れるつもりだったとのことだ。

「――というわけで、あたしたち、もう終わり」
 話がひと段落ついたのか、はーっとため息をつき、何本目かのビールに取り掛かる。
「で、実際のところ、ちゃんと別れたのか?」
 ケイコは首を左右に振った。
「今日はかなり予定狂ったから、話す機会がなかった」
「それじゃ、コウイチはまだ付き合ってるつもりなんじゃないの?」
「ちょっと前にね、ちゃんと伝えてあるよ。このままならもう別れるって。それで、ずっとコウイチが謝ってくるの待ってたんだけど、何も言ってこなかったし、今日もあのあと何回か連絡したけど、つながんないし・・・・きっと今頃別の女のところにいるんだよ」
「・・・・なんか、怒って帰っちゃったからなあ」
「コウイチは最近すぐ怒るんだ。自分からは何もしないくせにさ。怒りっぽい人、苦手なんだよ。昔はああじゃなかったのに。友達思いのいい奴だと思ってたけど、あいつ口先だけだった」

 ケイコは次第におれに話すというより、独り言のような口調になっていった。考え事をしているようで、こちらから声を掛けるのは憚れる雰囲気をまとっている。
 よく見ると、唇をぎゅっとかみ締めて、涙が溢れそうなのを我慢していた。
 
 おれの視線に気づいて、ごまかすようにビールをあおり、笑顔を作った。変に力のこもった不自然さが痛々しく感じられた。
「あんたはいいよね。ぱっとしないけど、穏やかで、人の話も聞いてくれるし」
「そんなこと、初めて言われた」
「コウイチも――そう、あんたと初めて話をする前に、『イワイってどんな奴?』ってコウイチに聞いたんだ――彼はあんたのことを、悪人ではないけど、気が小さくて、怒りっぽいって言ってたよ。でもね、今まであんたが怒ったところを見たことも、ユカから聞いたこともないんだ」
 そう言われれば、と自分でも驚いた。

 内心イラつくことはしょっちゅうだが、外に向かって感情を露にしたということは最近では思いつかない。
 すぐ怒る、自制心がないと周囲からよく言われ、実際自分も些細なことですぐカッとなる性分だということには気づいていた。その場では気持ちが昂ってどうしようもなく暴走して、後で後悔する、そんなことの繰り返しが、自分にとって当たり前の日常だった。
 それがどうしたことだろう。ユカと出会ってから変わったのだろうか。
 ユカと友達になってほしいとケイコに頼まれた。
 男に対して過剰なまでに恐怖心を抱くユカ。そのはかなさと繊細さは、ひとつ扱いを間違えると粉々になってしまいそうで、初めは内心びくびくしていた。
 そう、おれが感情をぶつけるには、あまりにも弱すぎる存在。

「・・・・それはケイコのお陰だよ。たぶん」
「なにが、あたしのお陰なの?」
「おれは、ケイコに言われたから、ユカと知り合って、付き合うようになったんだ」
「そういう言い方も可能ではあるね」
「あのとき、引き受けたのは相手がユカだから、ではなく、頼んだのがケイコだから、だったと思う」
「またまた。おだてても何もでないよ。ここにあるビールだけ」
「お前、威圧感あるけど、優しいよな。ユカのこと、必死に助けようとしてるのがよくわかったんだ。だから、力になってやろうって気持ちになったんだと思う」
「なんかねえ、もう習慣になってるのよね。ユカのこと。何故かほっとけない。昔、小学生の頃、傷ついたユカを見て『このコはこれからどうなるんだろう』って思ったよ。そうしたら、いつの間にかユカを見守るのがライフワークみたいになっちゃった」
「その割には、おれにユカを押し付けて自分だけ遊びまくってたような・・・・」
 ケイコは笑いながらおれの肩をぽんぽんとたたいた。
「息抜きしたかったんだよ。ちょっと疲れてたんだ。あんたを信用した結果だから許して。それに――」
「わかってるよ。ユカだっていつまでもケイコに頼りっきりじゃいけないもんな」
「うん」と言って、ユカは金髪たなびく頭を、おれの肩に預けてきた。

「お、おい――」おれが戸惑っていると、ケイコは「眠くなってきた」と言って、からかうように余計に擦り寄ってきた。
 その声は涙声に変わっている。今日はよく涙とゲロを目にする。
「もっと早く、イワイとこういう話をすれば良かった。今まで誰にも話せなかったから。話したら、なんだかほっとした」
「それはおれも思うよ。おれも結構不安なときあったんだよ」
「コウイチにも話せなかったし・・・・でもそういうのが、案外別れる原因なのかなあ・・・・」
 それについては、おれは何も答えられない。黙ってビールを飲むしかない。ケイコの頭が肩から落ちないようにしながら飲むのに少しだけ苦労した。

「あたし、失敗した・・・・」
 ケイコの重心がおれの方に傾く。完全に上体を預けるように寄りかかってきた。
 見ると、瞼も半分閉じている。そろそろ限界らしい。
「先に、イワイとあたしで・・・・それから・・・・ユカと三人で仲良くすればよかった。ユカが・・・・羨ましい。なんでも話せる人が、そばに居て・・・・ユカだけ・・・・幸せになるの・・・・あたし・・・・ゆ・・・・」
 ケイコはそのまま眠りだした。

(第29話・後編につづく)

※29話は、できれば一気に掲載したい内容だったのですが、長いのでやむなく分割しました。
 切りの良い箇所がなく、かなり強引に中断してます。後編も早めに掲載いたします。





にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 
お気に召しましたら、ぽちっとしていただけると励みになります

関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第28話】へ
  • 【白い彼女 第29話・後編】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【白い彼女 第28話】へ
  • 【白い彼女 第29話・後編】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。