スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←白い彼女 第29話・前編 →白い彼女 第30話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第29話・前編】へ
  • 【白い彼女 第30話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「白い彼女」
第八章 ケイコ、その二(27~29話)

白い彼女 第29話・後編

 ←白い彼女 第29話・前編 →白い彼女 第30話
第29話・後編

 このままでは風邪を引く、とグズるケイコをなだめて起こし、おれも立ち上がった。すると、見事にその場で転んでしまう。
 ケイコも立とうとしてもなかなか立てない。二人とも完全に正体を失っていた。
「あたしのベッド使っていいよ。あたしは毛布持ってきて、床で寝るから」
 なんとか立ち上がることができたケイコはそう言っておれをベッドに寝かしつけた。

 横になり、目を閉じる。途端に上下感覚が失われ、全身がぐるぐる回転しだす。意識がだんだん遠のいていくのが感じられた。
「電気消すよ」ケイコの声が遥か遠くに聞こえた。何か返事しようと思ったが、口から出たのは、「うー気持ち悪りい・・・・」の一言だけだった。

 ずん、とベッドが振動した。
 目を開けてみると、薄暗いオレンジ色の光の中、どこからか持ってきた毛布を抱えながら、ベッドの端に腰掛けているケイコの姿がぼんやりと見えた。
 どうやら立っていられないらしい。数秒後、上半身がおれのすぐ脇にダイブしてきた。さらに数秒後、ケイコの寝息が聞こえ始めた。

「おい、風邪引くぞ」眠いのを我慢して、ケイコの肩を揺すってみた。
「うーん、もう、ねる」と言ってケイコは動かない。
 仕方ないので、おれのかぶっている毛布を掛けてやる。二人とも体にちゃんと毛布がかかるようにするにはもっと近づいて、さらにベッドからはみ出しているケイコの足をどうにかしなければならない。意識が朦朧としている中悪戦苦闘していると、ようやくケイコが動いてくれた。

 寝返りをうってこちらを向いたと思ったら、そのままおれに抱きついてきた。
 頬が、おれの頬に密着したまま、再びケイコは寝息をたてはじめた。
 触れている頬はすっかり冷え切っていたが、滑らかで柔らかい感触が心地いい。
 おれの視界いっぱいに、ケイコの寝顔があった。

 薄闇の中に見えるケイコは、とても美しく思えた。じっと見つめていると、何かとても貴重なものを発見したような気持ちになってくる。
 その美しいものに、触れてみたい。そんな素直な思いが自分の中に生まれ、自然と手が動きだした。
 髪にそっと触れ、ゆっくりと撫でると、「うん・・・・」と小さな声がケイコの口から漏れた。
 指を髪の中に差し入れ、耳を探り当てる。耳の外郭をなぞる手の動きに反応し、ケイコは寝息をたてたまま強く頬を摺り寄せてきた。
 少し顔を引いて距離をとってみると、ケイコが追いかけてくる。
 鼻と鼻が当たると、少しだけお互いにこすり合わせ、それから唇を探し当てて、キスをする。

 数秒後、離れる。
「ねえ・・・・」
 ケイコが囁いた。目を閉じたままで、とても眠そうな声だった。暗くて表情はよくわからない。
「なんか・・・・やばい。どうしよう」
 そう言いながら、ケイコは再び一瞬だけ唇を合わせた。
「・・・・なにが?」
 おれが訊くと、ぷっとケイコは吹き出した。
「また吐いたら、ごめんね」
 ケイコはもう一度唇を重ねてくる。今度は押し付けるように、強かった。

 おれの手がケイコの首から肩、腰、それから胸へと移動していった。
 唇はケイコの唇を離れ、耳から首筋へと這っていく。
 ケイコは時折小さく声を漏らしながら、おれの求めに呼応して体を動かした。

     *

 ・・・・・・・・。
 ケイコに抱きしめられている感触が引き金となって、一気に夕べのことを全部思い出してしまった。
 おれが背中に手を回そうとすると、咄嗟にケイコは離れた。
「ごめんね。これでもう忘れるから」
「おれ、いま思い出したとこ・・・・」
「またすぐに忘れなさい。いい?」
「そう簡単に言われてもなあ」
 ケイコはおれを睨みつけた。反射的に怯んでしまうが、どうしても訊きたいことがあった。
「・・・・ケイコは、それでいいのかよ。いいなら、忘れるよ」
「だって、それしか思いつかないもの」
 ケイコはそっぽを向き、立ち上がって食器の片づけを始めた。

 忘れる必要なんてどこにもない。
 ある考えが湧き出てくる。それは間違っているのだろうか、いけないことなのだろうか。自分がいいかげんだということだろうか。おれにはよくわからない。
 ただ、今自分の中で生まれている感情は確かに存在している。その感情はおれ自身を加速させる。このままでいいのか、このままではだめだ、胸のあたりに不定形の塊がうごめき、ひとつの言葉を発した。
 離れたくない。

 ユカには黙っていればいい。
 こんなことがなくてもユカとはどうせ長続きしない。

 おれとユカは、おれとケイコのようにはなれない。ユカは、たぶん怖くてセックスができないだろう。おれは長い間、それに耐えることができそうにない。夕べケイコと初めてしてみて、そういう気がする。
 しかし、もう一方で別の思考が自分の衝動を押さえ込みにかかる。
 きっとケイコは承知しないだろう。

 ケイコはユカを守りたいと思うあまり、ユカを傷つけることを極端に恐れている。
 ここは、ケイコの考えに従うしかない。結局はこの結論に至ってしまう。
 今自分を押し流そうとしている感情は、何とか自分で仕舞い込むしかない。それがケイコの望むことなら、そうするしかない。
「・・・・わかった。でも、ここを出るまでは、覚えてていいんだろ?」
 ケイコは頷いた後、吹き出した。

「なんだよ、いきなり」
「いーえ。ただの思い出し笑い。いまのうちだって思ったら、いろいろ頭に浮かんできた」
「例えば?」
 ケイコは片づけを中断し、正面の椅子に腰掛けた。
 そのまましばらくおれの顔を眺めていたが、結局なにも教えてくれないまま、タイムアップを告げた。
「そろそろ行こう。駅まで送るよ」

 ケイコの家を出たら忘れる。そしてたった今、ドアを開けてマンションの廊下に出た。もうおれとケイコの間には、何もないということになった。不満も未練もあるが、承知してしまった。だから、夕べのことはこれで終わるはずだった。
 しかし、事態は急変した。エレベーターを待っているときだった。

「あ、ちょっと」
 ケイコがバッグからティッシュを取り出し、おれの左側の顎の付け根あたりを拭こうとする。驚いておれはのけぞってしまった。
「じっとしてて。あんた、顔洗ってないでしょ」
「なんだよ、なんか付いてんのか?」
「リップの痕。これで電車乗ったら、まわりにバレバレだよ」

 ケイコはおれの首を拭いた。だが乾いたままのティッシュではなかなか落ちないらしく、ケイコはさらにもう一枚取り出して、舌で濡らした。
「よく見えないから、ちょっとしゃがんで」
 言われたとおりにすると、ケイコは思いっきり顔を近づけて、丁寧に拭き取り始めた。
 丁度そのとき、エレベーターが八階に止り、ちーん、とベルが鳴った。

 おれはしゃがんだまま、ケイコはおれの首筋を覗き込む姿勢のまま、自然と顔をエレベーターに向ける。それとほぼ同時にドアが開く。
 中から、コウイチが出てきた。
 彼の手には、赤と緑で綺麗にラッピングされたクリスマスプレゼントが握られていた。

(第八章終了・次回(30話)より第九章)




にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 
お気に召しましたら、ぽちっとしていただけると励みになります

関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第29話・前編】へ
  • 【白い彼女 第30話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【白い彼女 第29話・前編】へ
  • 【白い彼女 第30話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。