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「白い彼女」
第九章 白い彼女(30~34話)

白い彼女 第30話

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第九章 白い彼女
第30話

「イサムはいつもバッドタイミングだね~」
「わ!」
 いつの間にか「彼女」がベッドに腰掛けている。
 一瞬、ここがどこだかわからなかった。

 何もない部屋、いつもの白い部屋だ。長い間、別の所に居たような感覚に襲われる。
 自分の手足を見る。確かに今のおれだ。いつものベッドで、彼女と並ぶように座っている。おれは今、二十六歳で間違いないよな?

「うん。だってさっきまでユカちゃんとケイコちゃんと一緒だったでしょ。いつまで経っても起きないから、もう起きないかと思ったよ」
「起きないって、おれ、寝てたのか?」
「でもコウイチが現れたから、逃げてきちゃったでしょ。ひゃははははは」
「この、少しは人の話を聞――」
 改めて「彼女」を見る。

 幼く、美しい、黒髪の少女。ついさっきまで見えていた映像と大きく重なる。おれの横で無防備に眠っていたケイコ。
 でもこの少女は明らかに実物のケイコではない。おれの望むものが現れるというこの部屋で、「彼女」の容姿もまた、おれが無意識に望んでケイコに似せたのだろうか。

「お前、姿が見えるようになったんだな」
「私は変わらないよ。イサムが戻ってきただけ」
 相も変らぬ意味不明さ。だが、彼女を見ていると自然に生まれてくるこの安堵感は一体何だろう。声だけで、姿が見えなくなっていた「彼女」がこうして再び見えるようになったからだろうか。
 いや、違う。それもあるかもしれないが、それだけではない。

 記憶の復元が止っていた。
 記憶が脈絡なく、津波が押し寄せてくるように蘇ってきた。
 あの自分ではどうしようもない状況が今はなくなっている。この平穏な気分は、思い出すことへの不安から開放されたからだ。

「ちがうよ。イサムは思い出したよ。全部」
「なんだって? でも、全然思い出せないぞ」
「思い出したところから逃げたから。でも逃げた先でコウイチが出てきてまた逃げた」
 逃げた。おれは、逃げた?
 何から? 『思い出したところ』って?
 つまり、思い出して、後悔したってことか?
「無理無理。なに考えても、思い出そうとしても、ここでは何も出てこないし」
 彼女は嫌味は言うが嘘は言わない。今までの経験からは、そう思える。
 その彼女の言った通り、何も思い出せなくなっていた。

 失われていた、この部屋にくる直前の記憶。
 それを思い出したいと願ったら次々と記憶が目覚め始めた。それと同時に、思い出すことへの戸惑い、不安と抵抗感も膨れていった。
 そういうことは覚えている。少しずつ思い出していた、ということは覚えているのだが、一体何を思い出したのか、肝心の記憶の中身そのものが無くなっている。
 彼女はおれが、全て思い出したあと逃げた、と言った。
「・・・・おれは一体、何を思い出したんだ」

「イサムっていつもそう」腰掛けていたベッドから立ち上がり、呆れたように彼女は言った。
「なにが?」
 少しムッとして、反射的に声が出た。彼女は確かに嘘は言わないらしいが、言葉が足りない。おれがいつもイラつくのは、彼女の言っていることの意味や内容を全て把握できないからだ。
 どんなに問いただしても、詳しく説明してくれるかどうかは彼女しだいで、大抵の場合は何も教えてくれない。だが、今回は違った。
「イサムは無い物強請りばっか」
「なんだよ、それ」
「自分で願っておきながら、いざとなると逃げてばっか。自分で願って思い出したのにそこから逃げて、自分で逃げたくせにまた思い出したがってる」
「そういうこと言われても・・・・気になるものはしょうがないし、記憶が部分的にないっていうのは結構不安なんだよ」
「また思い出しても、逃げるくせに。もうこれ以上逃げるところないよ。ここから逃げたくても、もう無理。もう逃げたくないなら、ここでおとなしくしてなさいね」
「ちょっと待てよ」
 どうもそこまで腰抜け、みたいに言われるとさすがに不愉快になる。
「だって腰抜けじゃん」彼女はおれの心を読んだのか、間髪いれずに反応した。

「そんなに逃げ回ってるか、おれ」
「だからここにいるんでしょ」
「それがわからない。もっと順序だてて説明してくれないか。一体おれがいつ、どこからどうやって逃げた? どうして逃げるとここにいることになる?」
「イサムが望んだんでしょ。逃げることも、忘れることも。だから忘れてここにいるのに、私が教えるわけないでしょ」
「どうして教えられない?」
「私はイサムの願いをかなえるためにいる。教えることは願いに反する」
「今は、教えてくれることを望んでいるじゃないか」
「・・・・」
 彼女は黙ってしまった。少し困惑しているような表情はとても珍しい。
「どうなんだ。願いをかなえてくれるんだろう?」
「・・・・思い出してもまた、逃げるくせに。忘れたがるくせに」
「どうしてそう言い切れるんだ」
「だって、もう何回も同じこと繰り返してるじゃない」
「なんだって?」
 一瞬、彼女の言っていることが理解できなかった。

「全部思い出して、後悔して、逃げて、忘れて。そして私にまた思い出したいって願って、だから思い出させるとまた後悔して、逃げて、忘れて。それでもまた思い出したいって願う。一体何回同じことやれば気が済むの?」
 もう何度も思い出しては忘れることを繰り返してるっていうのか? 自分にはそんな自覚は全くない。
「あたりまえだよ。忘れてるんだから」
「・・・・今まで、何回繰り返したんだ?」
「何回も。十や二十じゃない」

 彼女は嘘は言わない、その確信が恨めしく思える。
 何度も同じことをやって、毎回同じ結果になる。しかもその結果に毎回不満を覚える。傍から見れば何と間抜けに映ることだろう。それはなんとなく理解できる。でも、毎回忘れているおれにとっては全てが一回目だから、仕方ないという気もする。
「そう。だから諦めたら? ここで嫌なことは忘れたまま、満足するの。私はここでイサムとずっと一緒にいてもいいよ」
「ありがとう」自然とそんな言葉が出てきた。

 何回も何十回も彼女はおれの我儘を聞いてくれた。色々と文句や嫌味を伴ったとしても、最終的にはおれの言うことに従ってくれていたのだ。
 何の意図があってそうしてくれるのかはわからないが、感謝には値するだろう。そんな彼女の「一緒にいてもいい」という台詞はとても魅力的に聞こえるが、どうしても今の状況に満足するという気にはなれない。
 自分自身に失われている記憶がある、という認識があり、しかも思い出すことが可能だと知っている以上、思い出さずにはいられない。
 それは興味とか好奇心というより、もっと根本的な、本能と呼べるような自己の衝動だ。自分自身の内から沸き起こってくるものでありながら、自分でコントロールできないままに自分が支配される、そういう勢いと流れを持った力のようなものだ。

 彼女は以前おれに言ったことがある。「本当に欲しいものを持ってくる」と。もしかしたらこれこそが、おれが本当に欲しているものかもしれない。もしそうであれば、何度繰り返そうと、彼女にお願いしていいはずだ。
 結果がいつも同じでも、無意味ではないはずだ。

「またお願いしたら、思い出せるんだろ?」
「また逃げるだけだよ」
「そうだとしても、お願いしたらできるんだろう?」
 それに、必ず結果が同じとは言い切れないだろう。彼女は退屈かもしれないけど、何十、何百と繰り返せば、偶然結果が変わることだってあるかもしれない。
「できるけど、やりたくない」
 珍しく抵抗してみせる彼女。そっぽを向いてしまって、顔を見ることができない。おれはベッドから立ち上がり、彼女の正面に回りこんだ。それでも彼女はおれを見ようとしない。

「おれは本当に望んでいる。そうおれ自身確信している。なんでやりたくないんだ?」
「もう最後だって――」
「何が?」
「もう最後にするからって言って、イサムは思い出して、逃げてここに来た。だからもうやりたくない。もう逃げるところもないし」
「どういうことだ? たとえまた逃げちゃったとしても、その『思い出すところ』から『ここ』に戻ってくるだけだろう。いままでそれを繰り返してきたんだろ」
「違うよ」
「何がどう違うんだ?」
「毎回逃げてくるところは少しずつ違う。ここにはイサムは初めて来た」

 改めて部屋の中を見回した。すこしくすんだ白に統一された床、壁、天井。それにベッドと、開かない扉に風景のない窓。いつもと全く同じにしか見えない。
「そう。同じに見える。でも、違うところもある。ここではイサムがいつも気にしていたあの声は絶対に聞こえない」

 あの声。上の方から聞こえた声。
 これは覚えている。誰かの話し声。時には音楽。右手に変な感触を味わったこともある。
 気になって仕方が無かったはずなのに、今ではそれほど興味は湧いてこないし、重要だという気もしない。あの声の正体について手がかりを得たような気もするのだが、それが何であったか、もう思い出せない。思い出せないことに気がついても、まあいいか、程度の感想が思考の片隅にちらつくだけだった。

 全く関心がない、と言えば嘘になる。
 確信があった。あの声を追っても正体にはたどり着けない。
 答えは消えてしまっているおれの記憶の中にある。あの声は何なのか、誰なのか、思い出せば全て判明することを、おれは知っている。 

「あの声の主を思い出せないのも、おれが逃げたせいか?」
 彼女は頷いた。その動作が、おれの確信に誤りがないことを教えてくれる。
「あれは外の声。あれを聞くとイサムは思い出してしまう。聞こえる声が鮮明になるほど、覚醒に近づく。だから、聞こえないくらい深いところにきた」
「深いところ、か」
「そう」
「では、あの『声』が聞こえるところは、浅いところ、というわけか」
「そう」

 ここまで聞いて、ある疑問が浮かんできた。以前にも考えたことだが、彼女に尋ねたことはなかった。
「これは・・・・夢、か? おれは長い間夢を見ているのか?」
 彼女はしばらく黙ったままだったが、やがて口を開いた。
「似ているけど、夢とは違う。ここはイサムの全て。今、イサムはここにしかいない」

(第31話につづく)




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