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「白い彼女」
第九章 白い彼女(30~34話)

白い彼女 第31話

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第31話

「帰って・・・・」
 ユカの声が聞こえる。
 気がつくと、いつの間にかユカがベッドに。上半身は起き上がって、カーディガンを羽織っている。おれのベッドになぜユカが?

「私が連れてきた」
 背後から「彼女」の声がした。振り返ると、両手を後ろに組んで、微かに微笑む彼女がいた。
「おい、なんでユカがいる?」
「さっき逃げてきたでしょ。だから続き」
「ちょっと待て。ユカのことは十年も前のことだ。失っている記憶とは違う。おれはこんなこと望んでないぞ」
「前にユカを出したときも、何もしてないじゃん。怖いからでしょ」
「そんなことはない――っていうより、望んでないんだってば」
 彼女はおれの言葉を無視して、以前ユカを呼んでもらった時と同じように、ベッドの下に隠れてしまった。
 この部屋にはおれとユカだけになった。一体どうしろっていうんだ。

 ユカは俯いたまま、微動だにしない。あの日と同じ、青い花柄のパジャマが目に痛い。
 あの時、まともにユカの顔を見ることができなかったせいか、その分青い花柄が強力に脳裏に焼きついてしまい、しばらくの間その映像から逃れることができなかった。

「私ね――」
 ユカはゆっくりと話し始めた。まるで台本を棒読みするような平坦な話し方だが、その言葉には、はっきりとした意思か決意のようなものが込められているのを感じる。
「――聞いちゃったの。だから、今日はもう帰って・・・・」
「聞いたって、何を」
 無意識のうちに、あの時と同じことをおれは喋っていた。
 ユカは唇をかみ締め、全身が微かに震えだす。やがて、大きな雫が両の目からぽとぽとと、数個落ちて腹のあたりまで掛かっている毛布に染みを作った。
「夕べ、ここにコウイチくんが来て、全部話していったの」
 腰が砕けて座り込みそうになるのを必死に耐えた。
 コウイチがばらした。ケイコはコウイチにおれ達のことを喋ってしまったのか?

     *

 ケイコの部屋に泊まった翌日、帰ろうとしたときに、ケイコを訪ねてやって来たコウイチと偶然出会ってしまった。
 部屋を出て、エレベーターを待っている時だったし、おれは前の日と同じ服を着ていたわけで、状況は一目瞭然だったに違いない。しかも、コウイチに見られたとき、ケイコはおれをしゃがませて、首筋にあった汚れを拭き取っている最中だった。いちゃついているように見えたかもしれない。いや、間違いなくそう見えただろう。

 口を半開きにして、呆然としているコウイチに、おれは何も言わなかった。
 実は何か言わなくては、どうにかしてごまかさなくては、と思っていたのだが、頭が真っ白で何も考えられなくなってしまった。どうにかして外見だけは冷静にしようと勤めるのが精一杯だった。
 だが、おれも、ケイコも、コウイチも一言も喋らない「間」が生じてしまったことで、結局はコウイチにおれとケイコの間で起きたことを悟らせてしまった。

 その場はケイコが仕切った。とりあえずおれを帰らせて、コウイチを部屋に連れていく。
 おれは本当に帰ってしまっていいのか迷った。ケイコ一人で大丈夫だろうか、喧嘩になったりしないだろうか。

 ・・・・そもそもケイコはコウイチにどう説明するつもりだろうか。
 事実をありのままに話すのか、嘘をつくのか、それとも尤もらしい理由を造り出して言いくるめるのだろうか。ケイコの気持ちがわからないことが不安でたまらない。
 一緒に話をした方がいいのでは、そう思わなくもないが、三人で話す場面を想像すると、尻込みしてしまう。
 困惑と不機嫌で重苦しくなった空気、下手なことは言えない緊張感・・・・。実際後ろ暗いのはこちらの方だし、問い詰められればアウトだ。コウイチだって二股かけてただろう、と反論すれば、修羅場と化すことは明白だ。

 結論としては、やはりケイコの希望通りここは帰ることにしたほうが良さそうだと判断した。なによりケイコがそう望んでいるんだし、ケイコなりに何か考えがあるのだろう。おれが口を挿んでかえって話がややこしくなったりしても困る。ここはケイコの顔を立てるのが賢明だと思う。
 エレベーターに乗り、ドアが閉まるまでの間、二人の後姿を眺めた。
 コウイチの手にはクリスマスプレゼントらしい包みが握られている。もう別れる、とケイコは言っていた。別れる相手にプレゼントなんて普通あげない。
 もしかしたら、コウイチは仲直りのためにやってきたのだろうか。もしそうなら、ケイコはどうするつもりだろう。そんなことを考えているうちに二人の姿が閉まるドアで遮られた。同時に考え事も途切れてしまった。
 明日はユカの家に見舞いに行くことになっている。そのときに詳しいことは聞けるだろう。

     *

 結果は最低だった。どうやらケイコは失敗したらしい。
 それとも、初めからコウイチには正直に全て話すつもりだったのだろうか。だとしても、コウイチのリアクションは想定から遥かに外れたに違いない。
 コウイチは一体何を、いや、なんてことをしてくれたんだ。
 おれへの仕返しのつもりか、ただやけくそなのか。ユカにおれとケイコが寝たことをばらしたということは、奴はケイコとは別れたんだろう。
 でも普通、ユカにちくるだろうか。とにかくおれには理解しがたい行動だった。男だけでつるんでいる時の、あの陽気で余裕たっぷりの雰囲気からはひとかけらも想像できなかった。

 昨日ユカが電話してきたときは、風邪引きで鼻声である以外はいつものユカだった。たぶんコウイチがユカを訪れたのはその後だ。だからこんな状況は全く予想していなかった。何の心構えも準備もしていない分、さらに最悪を極められた気分だ。

「あ、あのさ、コウイチが何を言ったのか知らないけど・・・・」
 全て知ってしまっている相手に今さら何を言っても取り繕えないはずなのに、何かを言おうとしている。
 酔った勢いでやってしまいました、なんて言い訳にもならないだろうに。
「イワイくんには、感謝してる。いままで仲良くしてくれて。おとといは夢見させてくれたし・・・・」
「だったらさ、すこしはなしを――」
「・・・・もういい。もう、会いたくない」
 取り付く島もない。よほど気が動転しているのか。とにかく少し冷静になってもらわないと。

 おれは今後もユカとは付き合っていくつもりだった。そのつもりがなければここにはこない。ケイコにもそう約束した。二人であの夜のことは忘れようと。だからなんとかしなければならないんだ。
「私、みんな失くしてしまった。ケイコは私からイワイくんを、イワイくんは私からケイコを、奪った」
 その言葉を聞いて、急速に何をする気力も無くなりかけてきた。
 弁解も説得も無力だ。
 ユカの言っていることは正しい。正しいから、これ以上聞きたくない。ここから逃げ出したい気分が充満していく。
「ごめんなさい。イワイくんには感謝してるけど、それだけは許せそうにない」
 許せない、許さない。
 その一言を耳にした途端、おれは走ってユカの家を飛び出してしまっていた。ほんの数秒走っただけなのに、何百メートルも全力疾走したように呼吸が困難になった。


 家の門を出たところで息苦しさのあまりかがんでいると、前方にケイコが立っているのが見えた。
 ケイコが事態を把握していることは、顔を見てすぐにわかった。ケイコは力なく笑いながら言った。
「電話で来るなって言われたけど、来ちゃった。会ってくれないかもしれないけど、ちゃんと謝りたくて」
「そ、外で、待ってようか」
 咽かけながら、なんとか声を出すことができた。
「いいよ。そんなことしたら、余計ユカに申し訳ないよ」
「でも――」

 今のユカはたぶんかなり気が昂っている。会ったらケイコも落ち込んでしまうだろう、というより既にかなり落ち込んでいる様子だ。それが気になったし、それ以前におれはケイコと一緒にいたいと思った。
 ユカとはあっという間に終わってしまった。もうケイコしかいない。
 ユカとケイコが絶交してしまえば、ユカには悪いがおれとケイコが付き合っても問題にならないということだ。

 だが、ケイコはおれの期待するような返事をしてくれなかった。
「もう会うのやめよう、あたしたち。その方がいいよ」
 おれの脇をすり抜けて、玄関へとケイコは歩いていった。止めようと思ったが、体が動かなかった。ケイコの一言が、おれを金縛りにした。

 その背中に向かって、おれは叫んでいた。
「一体、コウイチに何を話したんだよ。お前がちゃんとフォローしてれば、こんなことにはならなかったのに」
 ケイコは立ち止まったが、何も言わない。振り向きもせず、立ち尽くしていた。その無反応が余計におれを苛立たせた。
「もともとお前に言われたからユカと友達になったんじゃないか。お前が付き合えばっていうからそうしたのに、自分でぶち壊してどうすんだよ!」
 ケイコはゆっくりとこちらを見た。冷たく凍ったような両瞳は、かつて感じた母親の視線と同種の蔑みを含んでいた。
 もうとっくに全てが壊れてしまっていたことをその時初めて悟った。

 最後にケイコは言った。
「・・・・そうだね。全部あたしのせいだね。あたし、ユカを妹かなにかと勘違いしてた」
 おれはケイコが何を言っているのかわからなかった。
「じゃあ、行くね」
 ケイコは、消えてしまった。

(第32話につづく)




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