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「白い彼女」
第九章 白い彼女(30~34話)

白い彼女 第33話

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第33話

 ベッドにはユカはいないし、「彼女」の姿も見えない。
 もう体も冷め切っているし、思考も正常だ。

 だた、床にうずくまり、目を閉じ、自己嫌悪に苛まれる。自分がキレた後はいつもこうなる。もううんざりするほど同じことを繰り返している。

「でも、すっきりしたでしょ」
「彼女」の声が聞こえた。顔を上げて見回しても姿は見えない。また見えなくなったのか。
 もしかしたら、彼女の言うところの『浅いところ』に移動したのか?
「ちがうよ。まだ動いてない。イサムが私の姿を消しているだけ」
 おれの意思、ということか。自分では自覚していないが、彼女を見たくないと思っているのか。
「それもちがう。イサムは私に見られたくないと思っている」
 それならわかる気がする。こうして落ち込んでいる最中でも、先程の醜態がリアルに思い出される。先程の姿も今の姿も、誰にも見られたくなかった。

「でも、すっきりしたでしょ」
 同じ言葉を彼女は繰り返す。
「ど――」声がかすれて上手くでない。充分に声帯を振動させるほどの空気を送りこむ力を出す気力がない。
 まあいい。わざわざ声に出さなくても彼女は心を読んでくれるだろう。


 全然すっきりしてない。どうしてあんな目にあわせたんだ。
「イサムが望んだから」期待通り彼女は返事をしてくれた。
 でも、またその答えか。いいかげん慣れたな。でももう少し説明してくれよ。おれ自身が、こんな気分を味わうために何かを望むなんてことはありえない。
「ユカに会いたがってた。一つは話をしたくて、もう一つはユカに触りたくて。ユカとセックスしてみたかったんでしょ。とにかくこれでユカとはいけるところまでいったから、すっきりしたでしょ」

 ・・・・。この恥と後悔に塗れた状況のどこがすっきりだっていうんだ。もしそうだとしても、服の中が空っぽじゃあ、やりようがないじゃないか。わかってたのにどうして何も言ってくれないんだよ。
「イサムの記憶を持ってくることをイサムは知っているくせに、何も学ばないから。だから後悔することになる」
 学ぶって、何を。
「記憶は記憶。結果は変えられない。嫌な記憶は嫌なまま。楽しい記憶は楽しいまま」
 ・・・・。
「だから楽しい記憶だけを呼んで、私とここでずーっと一緒に過ごすこともできたのに、いつもイサムは『ああすれば良かった、こうすれば良かった』って後悔してる記憶を望んで、結果を変えようとしている」
 でも、やり直せるものならやり直したいって思うこと、誰だってあるだろう。
「やっぱりイサムは逃げてばっかり」ため息まじりに彼女は言う。

 どうしてそうなるんだよ?
「誰もやり直しなんてできないから、後悔ってするの」
 それは、そうかもしれないけど・・・・。
「やり直せれば、楽になる。自分の責任から逃げたくてしょうがない。イサムはずーっとそう。逃げるから失敗するのに、自分は悪くないと思っているから、平気で逃げ続けている」
 そんな、ことはないだろう。
「欲求は人一倍強くて、なによりも自分が可愛くて、心が弱いくせに強がりたいから、やばくなるとすぐ逃げる。しみったれた自尊心を傷つけないために、都合の悪いことは全部他人のせいにする。それもかなわないときは、暴走する」
 ・・・・・・・・。ひどいな。
「テストを間違えたのは自分なのに、修正してくれない教師を恨んだ。母親が消えたのは犬のせいにした。犬を殺したのは母親のせいにした。ユカと友達になったのはケイコに頼まれたから。ユカと付き合ったのもケイコに言われたから。そしてユカが望んだから。ケイコを抱いたのはケイコが誘ったから。ユカと別れたのはコウイチのせい。それもケイコがうまくフォローできなかったから。ケイコと終わったのもケイコがそうしたいと言ったから。
 自分は何も悪くない。だって自分の意思なんてどこにもないもの。あるとすればそれは逃げることと守ることだけ」
 やめてくれ。
「そんなに自分が可愛いの?」彼女の声は嘲りを含んでいる。
 お前は、おれを責めるためにここにいるのか?
「ちがうよ」
 なら、なぜそんなことを言うんだ。
「イサムのため」
 嘘だ。おれが望んだなんて言いながら、本当はおれを苦しめるために嫌な記憶をわざと持ってくるんだろう。
「やっぱりなんの覚悟もできてない。それで、本当に思い出して平気なの?」
 へ?
「イサムは失っている記憶を思い出したいって言った。今まで何回も逃げてきたくせに、今度思い出せば最後って言ったのに、何の覚悟もない。ユカの記憶からも逃げたくせに、これからもっと思い出せば、もっと嫌なこともどんどん出てくるのに。記憶は変えられないっていうことを学んでいない。今できることを学んでいない」

 できること。何だそれは。
「イサムって頭わるーい」
 だって、何も変えられないって言ったじゃないか。それって、何もできないってことだろう。
「まだ結果にこだわるし」
 答えを教えてくれよ。望んだら出してくれるんだろう?
「・・・・できることは、気づくこと」
 気づくって、なんだ?
「ユカは大切だった、というより、貴重だった。とっても珍しいことに、痴漢から助けたのはイサムの意思だった。自分から動いて、感謝されて、嬉しかった。自分はユカといれば変われるんじゃないか、そう思えた。ユカといるとキレない自分がいた。だから付き合おうと思ったし、デートにも自分から誘った。でもいざとなると臆病だから、告白できなかった。結局全部他人のせいにして、自分を納得させた」

 そうか。そうだったのか。言われてみればそうかもしれない。ユカへのこだわりはそんな気持ちが自分の中に隠れていたからなのか。確かにおれの中に自分で気づかない部分がある。おれにとってユカは、おれは本当はユカのことを――
「ちがう」
 へ? ちがうって? 何がちがうんだ?
「気づくのは、ユカへの想いじゃない。変わりたい自分とどうしても変われない自分。変われない現実に向き合えないから、逃げる自分」
 ・・・・。つまり、おれの姿、ということか。
「そう」

 おれの気づかないおれ自身の姿。おれは変わりたいと願っているのか?
「イサムはそのことを知っているくせに、知っていることからも逃げている。それがイサムの限界。さっきも素直にユカに謝ればよかったのに、そうすればもっとすっきりしたのに、欲求に負けて押し倒しちゃった。イサムは怖くて自分の弱さを認められない。認めないと変われないのに。それがイサムの限界」
 なんか、めっぽう落ち込んできた。
「覚悟がないから」
 お前、随分丁寧に教えてくれるんだな。いつもはもっと半端なのに。
「イサムが、本当に欲しいと望んでいるから」
 彼女はようやく姿を現し、優しく微笑んだ。

 その美しい顔は、遠い昔、いつだっておれとユカを影で支えてくれたケイコを連想させる。
 それはこの部屋でも、記憶の中でも、おれの望むものを与えてくれる導き手の顔なのだ。

(第34話につづく)




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