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「白い彼女」
第十章 ハルミ、その二(35~41話)

白い彼女 第36話・前編

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第36話・前編

 やはり面倒なことになってしまった。初めから予感はあった。
 手元には、さっきハルミから渡されたメモがある。そこには一言、こう書いてあった。
『みんなにバレたくさい』

 ハルミは真面目すぎる。それは仕事の上では長所とも言えるが、私生活、とりわけ男女間のことになるとそうとは限らない。何事にも正面から取り組もうとする姿勢がかえって事態を悪化させることもあるのだ。
 人間関係にはいい加減さも必要だ、とおれは思っている。笑ってごまかしたり、その場逃れの嘘で切る抜けることが、結果的に大きな災難を回避することもあると思うのだ。

 昨年の春、花見の夜にハルミとキスをした。
 思えば、たったそれだけのことが、今日の状況を生み出した元凶だ。

 言い訳にもならないが、あの時の先輩は久しぶりにキレイだと思えた。
 一昨年の十一月に結婚し、「ヤマウチハルミ」から「ミズノハルミ」となり、しばらくの間は職場でも活き活きしていた。
 だが、年が変わって早々、体を壊したらしく半月ほど休暇を取った。その後現れた先輩は、まるで別人のように老け込み、憔悴しきった顔つきに変貌していた。
 肌は乾燥し、目にはクマが張り付き、髪も乱れたままで出勤してくることが多かった。集中力が持続しないのか、仕事でも小さなミスが目立ち、その度に落ち込んでいく姿は痛々しく、仕事のパートナーであるおれはいろんな意味で不安を感じていた。

 それでも三月になるころには体力、気力ともに快復してきたのか、徐々に本来の先輩らしい、キリッとした表情、ピンとした姿勢が見られるようになってきた。仕事の能率も上がり、おれはようやく安心することができた。

 そんな折の花見だった。すっかり元気になった先輩はとてもキレイに見えたし、加えて酔って発色の良くなった肌ところころ笑う姿はとても可愛かった。
 しかし、酔った勢いとはいえ、根っから真面目な先輩に、しかも当時結婚してまだ半年しか経っていない女性にちょっかいをだしたのは確かに不覚だった。

 驚いたのはハルミの対応だった。
 翌朝、出勤してきたハルミは全くいつも通りに挨拶し、会話し、仕事をした。
 勿論、花見の夜が話題に上ることはない。まるで何事もなかったような振る舞いだった。
 もともとあれは単なる勢い、もしくは気の迷いだったと彼女もそう思っていたのだろう。もしかしたら、かなり酔っていたせいもあって憶えてないということもありうる。とにかくハルミがいつもと変わらないのはおれにとっても好都合だったし、自然とあの日のことは気にならなくなった。
 だが、おれは大きな勘違いをしていた。ハルミは忘れてはいなかった。忘れるどころか、毎日毎日思い悩んでいたらしいのだ。

 そのことが判明したのは十二月。新製品のデザインの打ち合わせのため、金沢に出張した日の夜だった。
 初日は早めに仕事が終わり、翌日は工場の見学をさせてもらうことになっていたので、おれとハルミは金沢に一泊することになっていた。

 時間が余ったこともあり、二人で兼六園を散歩し、その後ホテルの近くにあるおでんやで食事をした。その際、久々に酒を飲んだのがいけなかったのかもしれない。初めのうちは殆ど仕事の話しかしなかったが、小一時間ほど経ち、おれが一度トイレに行って席に戻ってきたら、突然なんの前触れもなくハルミは問いかけてきた。
「私自身、あのことをどう受け止めたらいいのか、わからなくて・・・・」
 すでにあの花見から八ヶ月も経過して、しかもその間、一度も話題に上ることもななく、そのうえであの夜のことを問われた。
 背筋が寒くなった。真面目すぎる人間というのは、面倒というより怖い部類に属するのかもしれない。

 おれとしては、できれば避けたい話題だったが、ハルミは真剣だった。酔った分、目が据わっていて迫力が増している。適当にごまかして逃げるわけにはいかなそうだった。
「あの、先輩、今まで何ヶ月もの間、ずーっと悩んでたんですか?」
 おれが訊くと、ハルミは恥ずかしそうに頷いた。
「なんか、すごいっすね」
「・・・・やっぱり、変だと思う?」
「いや、別に変ということは――ちょっと驚いたけど」
 真顔で変かと訊かれて、素直に変だとは言えない。ただ、いまひとつ彼女の深刻さについていけない。
 酔って一回キスをしただけのことを、その直後ならまだしも、半年以上も引っ張るとは。ダンナもいて、別にファーストキスというわけでもないだろうに。

「最初はあまり気にしてなかったの。ううん、気にしないようにしてた、と言う方が正確ね。お互い酔っていたことだし、その場の雰囲気とかいろいろ重なって、ああなったって考えても不自然じゃないし――」
 どうも話を聞いていると、まるで二人は既に一線を超えている関係であるかのような気分になってしまう。
「――もし、勢いとか、そういうのではないなら、そのうち君から何か言ってくるだろうし、だから深く考えないでおいて、もし何か言ってきたらその時改めて考えればいいかなって」
「・・・・で、おれは何も言ってないですよね」
 おれはあえて念を押した。つまり、彼女の思考に沿えば、彼女の言うところの勢いとか、その場の雰囲気でキスしたという結論に自ずと達するはずだ。そのことに何の不満もない。むしろ支持する。

「そうなんだけど。でも気になっちゃって・・・・。その、実は毎日毎日びくびくしてたの。『今日はイワイ君何か言ってくるかな』とか『何か言われたらどうやって対処しよう』とか『ああ、今日も何も言われなかった』とかいろいろ考えちゃって。いつの間にかそれが習慣みたいになってたのね」
「そんなに気になるなら、もっと早く訊けばよかったのに」
「そうよね。それはわかっているんだけど、そうやって待っているうちに随分時間も過ぎてしまって、訊きそびれたと言うか、タイミングを失ったというか・・・・」
「はあ・・・・」じゃあ何で今さら、という言葉が喉までせりあがってきた。
「あ、今『それなら何で今さら訊くんだよ』って思ってるでしょう?」
 この人はなかなか鋭い。さっきまで恥ずかしそうにしてたのに、今は冷静な自分を取り戻している。八ヶ月間溜めてきた悩みを思い切って打ち明けたことで気が楽になったのだろう。口調は微妙に軽くなってきている。

「なんだか悩むことに疲れちゃって。こうなったら君に笑われてもいいから、何らかの決着をつけてしまおうと思ったの。今回の出張はいい機会だし」
 出張のどこがいい機会なのかわからないが、とにかくそういうことらしい。ハルミはこのまま勢いに任せるように訊いてきた。まるで打ち合わせの時のような口調になっている。
「あなたは、あの時どういうつもりだったの? 私、どうしたらいいと思う?」
 どうも変な質問だと思った。前半は理解できる。だが後半は一体どういう意味だろう。あの時のことはその場の勢いだということは、彼女にもわかっている筈ではないか。ただそれをしっかり確認したいだけだろう。ここまでの話を聞いたところでは、少なくともおれはそう受け止めている。
 何でハルミがどうするかをおれに訊くのだろうか。そんなことはハルミ自身が考えればいいことではないか。

 もしかしたら、ハルミは何かを期待しているのだろうか。
 そんな考えが浮かんだ途端、スムーズに回答できなくなってしまった。
「・・・・先輩の方は、どうなんですか?」
「私は・・・・」ハルミは黙ってしまった。必死に考え込んでいる姿をみて、自分が苦し紛れに発問したことを後悔した。
 目の前の先輩は真面目な人だった。ここでもし「私は本気よ」とでも言われたら――彼女のことだから並々ならぬ決心に違いないし――どうしよう。それこそドツボではないか。
 見ると、ハルミは伏せていた視線を真っ直ぐ起こし、こちらに向かって今まさに何か言おうと、口を開きかけている。まずい。こちらが先に何か言って彼女の言葉を封じるべきだ。
「いやあ、つい、マがさして」
 咄嗟に口から本心が出てしまった。

「え・・・・?」
 虚をつかれたのか、聞き取れなかったのか、ハルミは聞き返した。
「いや、だから、おれの場合」
 おれもハルミもそのまま一瞬固まってしまった。暖かな店内で、この席だけに氷点下の風が吹き降ろしてきたようだった。
「そう・・・・だよね。やっぱりそうだよね。やっぱり予想通りだった・・・・。これですっきりしたわ。ごめんね、変な話して。もう帰りましょう」
 搾り出すように喋った後、グラスに残っていた酒を一気に飲み干し、ハルミは立ち上がった。

(第36話・後編につづく)

※36話は、一気に掲載したい内容だったのですが、微妙に長いため、分割しました。
 切りの良い箇所がなく、かなり強引に中断してます。後編も早めに掲載いたします。





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