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「白い彼女」
第十章 ハルミ、その二(35~41話)

白い彼女 第36話・後編

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第36話・後編

 おれを待たずに勘定をすませ、店を出て行くハルミを慌てて追いかける。ここは出張先、明日も二人でやる仕事がある。このままバラバラというわけにもいかない。

 店を出た途端、冷気が露出している肌を突き刺す。
 雪が降っていた。大雪ということでもないが、人通りのあまりない狭い通りはすでに白くなっている。

 その雪の積もり始めた狭い道のど真ん中を、足早にハルミがつかつか進んでいく。後にはいつもより少し間隔の広い足跡がくっきりと刻まれている。それは真っ直ぐではなく、わずかに蛇行しているように見える。
 後姿を眺めながら、不吉な予感が頭を過った。そしてそれは的中してしまった。

「きゃ」
 短い悲鳴とともに、三メートルくらい先でハルミは見事にすっ転んだ。
 尻餅をついて、片方の靴が脱げてしまっている。そのままハルミはじっとして、起き上がろうともしない。
 追いついたおれは仕方なく、脱げてしまった靴を拾い、渡した。ハルミが手を伸ばして受け取るとき、お互いの視線が合った。彼女の目には表面張力限界まで涙が溜まっていた。

「早く立たないと風邪引きますよ」
 なかなか動こうとしないので、そう言いながら右手を差し出すと、ハルミは靴を履きなおしてから、両手でおれの手にしがみつき、立ち上がろうとした。
 おれの予想を遥かに超える力と体重が右手一本に集中し、バランスを崩しそうになる。
 このままではおれがハルミに向って倒れこみそうだという危機的状況に陥った。
 両足に力を入れて、なんとか体勢を立て直そうとふんばった瞬間、ずるっという音とともに、滑ってひっくり返ってしまった。
 丁度立ち上がりかけたハルミの足元めがけてスライディングするような格好になってしまう。ハルミもつられてひっくり返り、路面に腰を打ちつけたおれの上に落っこちて来た。
 同時にハルミの頭突きがおれの鼻を捉えた。
「ぐふぅ!」
「ごめんなさい、大丈夫? って鼻血出てる!」
 ハルミは急いでバッグからティッシュを取り出し、おれの鼻を押さえた。

 遠くで見知らぬオヤジがおれ達を見て爆笑している。
 確かに情けない光景だとおれも思う。でもこれは不可抗力だ。雪道用の靴なんて持ってない。おれもハルミも靴の裏はツルツルだ。
「血が止まるまで、あまり動かない方がいいわ」
「・・・・かもしれないけど、このままじっとしてるのは、ちょっとまずくないすか」
 路上で仰向けに寝そべっているおれの上に、馬乗りになっていることにハルミは今気づいたらしく、慌てておれの脇にどいた。

 おれが上半身を起こすと、鼻から細い一筋の血が流れ、唇まで到達する。ハルミは再びティッシュを取り出し、今度は細く丸めて鼻穴にグイっと詰め込んだ。
「ちょっと先輩、いきなり何すんの」
「垂れ流しよりマシでしょう?」
 鼻の中の傷は思ったより大きいのか、みるみるティッシュが赤く染まっていく。これでは歩くこともままならず、座ったまま道端に移動して血が止まるのを待った。

 ハルミはおれの顔を上に向けさせ、血が流れ落ちないようにして、赤く湿ったティッシュを抜き取った。新しいのを取り出し、指先で丸めながら言う。
「ところで君って、誰にでもマがさすの?」
「・・・・いや、別にそういうことではないです」
 顔を動かすことができないので、ハルミの顔が良く見えない。怒っているのだろうか。
「ふーん、でも私にはマがさしたんだ」
「だって先輩、酔うとカワイイんだもん、なんて」
「なんて?」
「あ、いや別に、でもちゃんと反省してますからもうぜったいしな――フガッ!」
 白い棒と化したティッシュを、ハルミは力いっぱい鼻の奥まで突っ込んだ。つんとした痛みが涙腺を刺激する。
「い、痛いっす・・・・」
「あら、ごめんなさい」ハルミは意地悪そうに微笑んだ。
「・・・・わざとやったくせに」
「何か言った?」
「いえ、なんでもないです」少しだけ怖いと思った。

「私もね、イワイ君にはマがさすの」
「な、なんで、ですか?」
「だってカワイイって言ってくれるの君だけだもん」
 そう言うと、ハルミは両手でおれの顔を抱え、顔を近づけてくる。
「口のまわりに血がついてるわね」
 戸惑うおれを無視し、ハルミは口で優しく血を拭い始めた。固まった血をハルミの舌先が濡らし、唇が拭き取っていく。生暖かくて柔らかい感触が、おれの唇と鼻の間をゆっくりと数回往復した。
「あの、先輩」
「なに?」
「また、マがさしそうなんですけど」
「私も」

 全ての血を拭き取るとハルミは顔を離し、指先で自分の唇を撫でながら呟いた。
「血の、味がする」
 花見のときに見せた照れ屋で初心な可愛らしさが嘘のように、目の前の先輩は大人っぽく見えた。雪で濡れ、街灯の光を淡く反射する髪が、一層彼女の色香を引き立てているようだった。

 結局その夜からハルミとの関係が始まった。はまったというのか、はめられたというべきか・・・・。
 度を越えて真面目な人は、物事をつきつめて考えるから面倒だと思っている。だがハルミにはその真面目さに加えて、人一倍行動力も備わっていることを改めて思い知った。ただ悩み、考えるだけでなく、一度決断すればあとはまっしぐらということだ。

 面倒なことは他にもあった。当時ハルミはまだ結婚して一年強、それでどうしてこんなことになったのか。夫とはどうなっているのか、おれとこの先どうするつもりなのか。
 そう遠くない未来にやっかいな出来事が待っているのではないか。
 そんな漠然とした不安に身を浸しながらも、おれはハルミの真っ直ぐな視線と、成熟した女性の香りと、そして不倫という言葉の魅力に逆らえなかった。

(第37話につづく)




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