スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←白い彼女 第39話・前編 →白い彼女 第40話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第39話・前編】へ
  • 【白い彼女 第40話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「白い彼女」
第十章 ハルミ、その二(35~41話)

白い彼女 第39話・後編

 ←白い彼女 第39話・前編 →白い彼女 第40話
第39話・後編

 ダンナの嫌がらせは、考えてみればあり得ることだが、それを実行に移すには、ある前提条件が必要なはずだ。
「おれ達のこと、ダンナにバレてるのか?」

 そうだ。バレていなければ、そんな行動はしないだろう。だがどうやってバレたのか、皆目わからない。それほど頻繁に会っているわけでもないし、極力二人で外を歩くことも避けている。ハルミがここに来ても泊まっていくことはない。携帯のメールも二人で相談して一部暗号化しているので、他人が見ても業務連絡だと思うはずだ。
 それに、もしバレるなら社内での噂が最も可能性が高いのに、今回はどうやら外からの情報らしい。そう考えると、どこか不自然に思えてくる。
 例のFAX送信者が本当にハルミのダンナだとして、何か別の意図がある、ということはないだろうか。

 よく考えてみると、FAXには「妙な噂」と書いてあっただけだ。なのにそれを浮気や不倫と結び付けてしまうのは、おれやハルミの先入観ではないだろうか。もしかしたら全く別のことを指しているのかもしれない。仮にそうだとすれば、この件について、おれは完全に無関係だということになりはしないか。

「バレてはいないと思うけど」
 楽観的な推理を推し進めているところに、願望通りのハルミの返事が聞けて一層期待が高まったが、次に続いた言葉で一瞬にして現実に引き戻されてしまった。
「でも疑ってる」
「なんで疑われてるんだ」
 高揚しかけた感情をもてあましてしまい、つい強く言ってしまう。疑われているなら、やはり「妙な噂」は浮気のことを指すと考えた方が妥当だろう。しかし疑われるにはそれなりの理由があるはずだ。
「先日、彼に離婚の話を持ち出したの。そうしたら、浮気してるのかって疑いだしたわ。違うって何度も言ったけど通じなくて。とうとう喧嘩になっちゃって、実は昨日から別居も始めたの」
「それは、いつのこと?」自分の知らないところで状況が大きく動いていることに内心動揺しながらも、出来る限り平静に尋ねる。いや、動揺している場合ではないほど重要な情報だということに無意識に気づいていたのかもしれない。
「離婚の話をしたのはだいたい二週間くらい前かしら」
 部屋の電灯を取り替えた日、おれに初めてダンナの話をした日からあまり経っていないじゃないか。

「なんで、そういう大事なことを黙ってるんだよ」
「だから今言ったじゃない」
「もう半月も経ってるじゃないか」
「引越してからでいいと思ったのよ。アパート探すのに忙しかったし。別に慌てて報告する必要もないじゃない」
「それは違うだろう。現に今、ダンナに疑われてるんだし、もっと早く、じゃなくて事前に相談するべきだよ。そうすればこんなことにはならなかったかもしれないじゃないか」
「事前にイサムに相談すると、どうして今の事件が起きないの? 同じことでしょう」
「それは・・・・」
「それに、前にも君には言ったことがあるけど、離婚は前々から考えていたことなの。君が原因とか、君とどうにかなりたいからするんじゃないわ。いままで考えてきて、ようやく決心がついた、だからダンナに話した。それだけよ。これは君とのこととは全く別の問題なの」
 ハルミは落ち着いた調子で、力強く言った。おれに迷惑をかけないように、というような気遣いではなく、本心からの台詞なのだろう。それは結果としておれに迷惑をかけないという点ではありがたいが、それでは今のおれの立場って一体なんだ、という疑念と寂しさも感じずにはいられない。

「あ、ごめん。ちょっと強く言い過ぎたね」
 おれが黙り込むと、ハルミはすぐ謝る。仕事中では全くありえないが、プライベートになると頻繁に見られる光景だ。おれが年下であることに気を遣っているのか、おれに嫌われないように必死なのか、ハルミ自身、自分の主張癖に辟易しているのか。
「あの、いままで君と話をしてみて、考えを整理したところ、ひとつ仮説というか、思いついたことがあるんだけど、言ってもいい?」
 おれが何も喋らないままでいると、やや卑屈な態度を織り交ぜて、ハルミが口を開く。おれは手振りで「どうぞ」と促した。

「イサムはあまり今回のこと気にしなくていいと思うの。たぶん、だけど」
「どうして?」
 思わずおれが返事をすると、ハルミは安堵したように少し表情を和らげて、続けた。
「タケシ――えっと、ダンナはね、私の浮気を疑っているわ。でも具体的な根拠があってのことではないのよ。本当に浮気しているかどうかまでは知らないわ。今回のFAXは探りを入れるとか、私に揺さぶりをかけるとか、若しくは単なる嫌がらせか、そんなところが狙いだと思うの。もちろんイサムのことなんかこれっぽっちも気づいてないと思うわ」
 確かにそうであればありがたいが、それではFAXの内容の説明がつかない。「君達」というフレーズをどう解釈するのか。誰と誰のことだというのか。

「ここからが肝心なんだけど、部長とダンナはグルじゃないかしら」
「グル? まさか」
「ダンナは学生のときから、部長とは仲が良かったの。私達が結婚した時、ちゃんとした式も披露宴もしないのに媒酌人をお願いするほどね。だからあの人が離婚のことを部長に相談したとしても不思議じゃないわ」
 そう言われてしまうと、部長とダンナについて多くを知らないおれは、そうなのか、と納得せざるを得ない。

 ハルミが離婚を望んでいる。どうやら浮気しているみたいだ。そうダンナは部長に相談を持ちかけた。そこまでプライベートな相談をするということは、とっくに夫婦の関係が冷めてしまっていることも部長は承知しているだろう。
 ダンナは浮気は許せない。だが浮気相手の心当たりがない。そこでどちらかはわからないが一計を案じた。本当は存在しない、匿名の怪FAXが届いたとハルミに嘘を伝え、動揺を誘って尻尾をつかもうと――以上がハルミの推理だ。

「うん。今思いついたことだけど、こうやって口に出してみるとつじつまは合ってるわね。怪しいFAXが届いたら、普通は本人に見せるわよ。見せなかったのは、そんなものが存在しないからだわ」
 自分の推理に酔っているのか、ハルミは上機嫌だ。
「でも私は動揺しなかったわ。彼らの作戦は失敗ってわけね」
「それじゃあ、ハルミの考えが正しいとすれば、もう安心ってわけなのか」
「いえ、もう少し様子を見た方がいいと思うわ。しばらくは私のこと監視してるだろうし、もしかしたら明日も『またFAXが来た』って言われるかもしれない。それに、イサムも浮気相手の候補として見られている可能性は否定できないわ。会社では一番一緒にいる時間が長いから。当分の間は、少しでも怪しい素振りを見せたらアウトよ」
「つまり、おとなしくしてろってことか」

 確かにそれしかない。もしハルミの推理が誤りだとしても、他に打つ手はないだろう。おれは関係ない、とアクションを起こしでもしたら、その時点で二人の関係を認めたことになる。
「ごめんね、迷惑かけちゃって。でもこれは要するに私とダンナの問題だから、イサムはもともと関係ないわ。もう別居も始めたことだし、このまま離婚話を進めていくわ。ケリがつけば、この件も自動的に消滅するはずだし」
 ほんと迷惑だと思う。おれが望んでもいないのに、よりによってこの時期に離婚を申し出るとは。いまさらおれと離婚を関連づけない奴なんているわけないだろう。
 もしバレたらそれこそ大変なことになるってこと自覚してるのか? 少しはおれの都合も考えてほしいものだ。

「・・・・ちょっと不満顔ね、怒ってる?」
「いや、そんなことないよ」
「ごめんなさい。落ち着いたらまたちゃんと謝るから。もうあの人と一緒に暮らすの耐えられないのよ。許して――」
 そう言うと、ハルミはおれの傍らに移動してきて、ゆっくりとキスしてきた。
「しばらくの間はおとなしくしなくちゃ。だから、今日は泊まっていってもいい?」
「ああ、いいよ」
 再びキスをする。たった今まで不機嫌だったのに、これだけでどうでも良くなってしまう自分に呆れてしまう。

 その後は二人で一緒にシャワーを浴びてからベッドへ。
 ハルミの推理で一応の決着がついたといっても、あくまでそれは仮定の話だ。抱き合っていても、彼女の背後に得体の知れない影がゆっくりと、だが確実に迫ってきて、それはやがておれをも覆い尽くしてしまうのではないか、そのような漠然とした不安から解放されることはない。

 ひと時でも気を紛らわしたいという思いが感情の昂りを呼び、激流となってハルミへと流れ込んでいく。ハルミも同じように思っているのか、激しく強くしがみついてきて、いつまでも放そうとしなかった。
 翌朝、ハルミの付けた爪の跡が体のあちこちに残っていた。

(第40話につづく)




にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 
お気に召しましたら、ぽちっとしていただけると励みになります
関連記事


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第39話・前編】へ
  • 【白い彼女 第40話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【白い彼女 第39話・前編】へ
  • 【白い彼女 第40話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。