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「白い彼女」
第十章 ハルミ、その二(35~41話)

白い彼女 第41話

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第41話

 翌日、沈んだ気分と重い足取りで研修会場に向う。
 おれは研修、ハルミは出張。バレたかもしれないというメモを見てから、初めて二人が離ればなれにされた。
 おれ達への包囲網が完成されつつあるかもしれないし、違うかもしれない。気乗りしないが、それが上司からの命令とあれば受講しないわけにはいかない。

 目黒駅近くのコンサルタント会社内にある研修室が会場だった。
 おれのアパートからだといつもの通勤先である神田と、それほど所要時間は変わらない。会社の始業が九時なのに対し、研修の開始が九時半なので、朝ゆっくりできるのだけはありがたい。

「研修の第一義的な目的は、勿論のこと、そのテーマに合った能力や技術の開発・向上にあります。ですが、それだけではなく、一時的に日常業務から離れることで、自身の仕事を客観的に見つめなおしたり、気分転換を図る機会にもなります。そうしたいわばリフレッシュ効果というものも研修における重要な目的の一つです――」
 研修が始まった。会場にはいろんな会社から派遣された受講者が二十名、知っている人は誰もいない。
 講師のオリエンテーションはどこもそれほど大きな違いはないな、などと思いながら聞いていたが、今回は期せずして研修のリフレッシュ効果というものを実感した。

 このところ、ほんの一瞬でも気を抜いてはならない、そんな緊迫感がおれの神経を容赦なく削り取っていったのだが、ここではそのような気遣いは一切不要だった。ここは会社ではないし、それにおれを知っている人物も存在しないのだから。
 しかもハルミも出張しているとなれば、今現在会社では何事も起きようがない。まさに炎熱の砂漠の中に突然オアシスを見つけたような心地だった。

 研修後は仲良くなった他の受講者と毎晩飲みに行った。
 夜は出張先のハルミに連絡を取るつもりだったのだが、電話であれメールであれ、使った途端に現実に引き戻されてしまいそうな気がして、やめることにした。せめて研修期間中はややこしいことは忘れて、できるだけ長くこの安堵感と開放感を満喫したかった。

 もし何かあれば、ハルミから連絡があるだろう。
 そういえば、以前メールを出したときも彼女の反応はそっけなかった。あきらかに無用心な行動を取ったおれを責めていたのだ。
 だったら再びこちらから連絡することはない。それが学習能力というものだろう。必要があれば向こうからしてくればいいはずだ。
 そして実際研修期間中にハルミからの連絡は一度もなかった。それはつまり何も起きていない、おれも向こうも無事だということだ。

     *

 研修は週末に終わり、土日を挟んで週頭からいつも通りの通勤に戻る。
 初めはとても気が重かった先週の研修よりも、さらに今週の会社の方が気が重い。重いと言うより抵抗感が強いと言った方がより正確かもしれない。
 一時の気晴らしはあっという間に過ぎ去り、また今日からいつもの休まることのない緊張の日々が始まる。

 ハルミの出張も先週の金曜日までだったので、今日は久しぶりの通勤のはずだ。
 彼女はどんな気持で出社するだろう。やはり気が重いだろうか。出張先では気晴らしできたのだろうか。先週彼女から一度も連絡がなかったのは、案外おれと同じようにリフレッシュしていたからだったのかもしれない。

 つまらない、面倒くさい、行きたくない。

 次々と湧き出てくる負の感情を無理矢理押し込めて、出発する。唯一の救いは、今日から忙しいということだ。
 今はもう三月の最終週、来週は四月になる。毎年年度末は例外なく多忙な上に、この時期に研修なんて受けたから仕事は山積みのはずだし、加えて研修の復命書も作成しなくてはならない。仕事に没頭すれば多少は気が紛れるだろう。


 出社したところで思いがけない衝撃をくらった。
 会社に着く早々部長に呼ばれ、口頭でそれは告げられた。
 来月から総務部勤務という異動内示。

「えっ」
 思わず口から声が漏れた。
「何か不都合なことでも?」
「あ、いえ、なんでもありません」
 怪訝な面持ちの部長をなんとかあしらい、席に戻ってまずハルミに報告した。

「そうなの。やっとだね、君の場合」
 返ってきた言葉はそれだけだった。
 もっと驚いたり心配したりしないか、普通。そう言いたいのをぐっと堪えている間に、ハルミはもう自分の仕事に戻っている。

 やっとだね、と言ったハルミの意図はわかる。この会社では通常、新人は二年で一度異動を経験するのが慣例になっている。ところがおれの場合、入社してからまる四年経とうとしているのに、まだ異動を経験していないからだ。
 しかしおれが気になるのは、今回の異動に別の意味が含まれているのではないか、ということだ。確かにいつ異動になっても不思議ではない。だが先週の研修といい、今回の異動といい、タイミングが妙だ。それに異動が上層部で以前から決められていたことなら、その直前に研修に派遣することは不自然に感じられる。

 やはり上司におれ達のことが知られている可能性が高い。その上でのこれはある種の嫌がらせ、若しくは警告なのではないか。
 まず二人を物理的に引き離して、それから徐々に、静かに、個別に追い詰めていくのではないか。そう思い至るとじっとしていることができない。責められようが、話さずにはおれない。
「どう思います? 先輩」
 正面に座って黙々とパソコンに何か打ち込んでいるハルミに声をかけた。ハルミは動きを止め、それから小さなため息をついて、こちらに目を向けた。
「なにか?」
 少し低めのトーンで返事をしてきたことで、やはりおれが話しかけたことを責めていることが明らかだった。

「いや、だから・・・・異動について」
「遅すぎたくらいでしょう。いつ辞令が出てもおかしくない状態だったから、別に驚いたりはしないわね」
「それはそうですけど・・・・気になりませんか」
「気になるって、何が?」
「その・・・・例のこととか――」
「そうね、引継ぎが必要かどうかは一応考えてみましょう。君の仕事内容はだいたい把握しているつもりだから、おそらく私としては必要ないと思うけどね。もし君の方で報告しておきたいことがあったら、今週中にまとめといてくれる?」
「いや、引継ぎのことじゃなくて――」
「それから、君の後任はまた新人になりそうね。なんだか部長、私を教育係みたいに見てるのかしらね。新人が来たらまた一から教えないといけないのがちょっと気がかりといえば気がかりね」
 くすっとハルミは笑った。
「だから、そうじゃなくて――」
「気に入らないことがあるの? 何か不満でも?」
 おれの言葉を遮るようにハルミは語気を強めて訊いてきた。
 会話を終わらせろという意思が込められていることが読み取れるが、おれはどうしてもハルミがこの辞令をどう考えているかを聞いてみたかった。しかし何をどう言えばいいか思いつかず、黙ったままハルミを睨みつける形になった。

「ごめんなさい――」
 ハルミは即座にそう切り返してきた。そのまま睨み合いになってはまずいと思ったのか、態度を和らげて、言葉を続けた。
「――先週の出張の報告とか、今日はやらなくてはいけないことが沢山あるの。異動は誰でも不安はあるわよね。明日の午後一で業務調整の打ち合わせをしましょう」
 ハルミはそこで話を打ち切り、再びパソコンを打ち始めた。おれはそのまましばらくハルミを睨み続けたが、彼女が一瞬でもこちらに目線を戻すことはなく、仕事に集中しきっている。

 一体この異動についてどう思っているのか、内心ではいろいろ心配なのか、それとも本当に二人の関係とは無縁の、ただの偶然だと考えているのか、一向にわからない。

 ただ一つだけ言えるのは、今のハルミの態度が気に入らないということだ。
 おれの不安とか心配な気持ちを充分知っているはずなのに、あえて無視しやがった。

「異動は初めてで緊張しますけどね――」
 ハルミが聞いていてもいなくても構わない。ただハルミにははっきりと聞こえるように言った。
「でも嬉しいですよ。不満なんて全然。早く異動したかったから、とっても楽しみですよ、センパイ」
 誰のせいでもみくちゃにされて、たらいまわしにされてると思ってるんだ。
 ハルミは何の反応も示さなかった。

(第十章終了・次回(42話)より第十一章)



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