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「白い彼女」
第十一章 四月一日(42~44話)

白い彼女 第44話・前編

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第44話・前編

 雨が降り出した。
 暗闇から不意に飛び込んでくる無数の水滴が容赦なくフロントガラスを打ちつける。
 張り付いた水をワイパーで掻き拭っても、すぐに新たな雨滴がガラスを濡らしてしまう。一度通り過ぎたワイパーは戻ってきて再度水を拭うが、絶え間なく降る雨はまたガラスを覆ってしまう。目の前で無限に繰り返されるワイパーと雨の戦い。まるで無駄とわかっていてもそれを認めたくなくて、必死にあがいているような、空しい光景だ。

 夜の雨は車のライトの光を闇に吸い込んでしまって、遠くまで届かない。濡れた街は街灯や信号、住宅や商店、あらゆる光をアスファルトに反射させ、水で屈折率の歪んだフロントガラスによって視界は滲んだ光で溢れかえる。

 目的地へ可能な限り直進できるルートを捜しながら車を走らせる。広い幹線道路に沿って走ると、距離も時間もロスしてしまうのがもったいない。狭くてもわかりにくくても、とにかくハルミの居るアパートがある北北西方面に進める道を選んだ。
 走り慣れない道に加え、雨も降り出したため見通しが悪く、途中歩行者と接触しそうになったり、一方通行の標識に気づかず逆から進入し、対向車とお見合いに状態になったりした。
 出発してから一時間ほど経って、ようやく目的のアパートを見つけた。途中道に迷って、コンビニで地図を見たり店員に尋ねたりしたロスもあったが、それでも電車を使うよりはギリギリ早く到着できたことになり、そのことに小さな満足感を覚えた。

 それほど古さを感じさせない、白を基調としたアパート。二階建てで、各階にドアが二つずつという外見からすると、どうやら四世帯が入居できるようだ。建物の大きさから見て、間取りはそれなりに広そうだ。
 ハルミから聞いた住所を反芻する。一〇二号室。横向きに建ち、側面を道路に接している形から推測すると、一階の奥がハルミの部屋だろう。

 車を降りて奥の部屋の前まで歩く。予想通りそこが一〇二号室だった。表札を見ると、何も書かれていない。
 ここまできて急に緊張してきた。インターホンに手を伸ばしかけるが、ボタンを押す寸前でためらってしまう。ハルミが出てきたら、まず何と言えばいいのだろう――会いたかった、いや、むしろ突然訪ねたことをとりあえずは謝るべきだろうか。

 ドアの左には格子のついた小さい窓がある。おそらく台所だろう。きっちり閉められていて、おまけにはめ込まれているのがスリガラスのため中を窺うことはできないが、弱弱しい光が外に漏れている。台所は暗くしてあるが、奥の部屋には明かりが点いているらしい。つまりハルミが今そこにいるということだ。

 少し深呼吸して、再度インターホンに指を伸ばす。
 しかし、どうしても躊躇してしまう。理由はわからない。いっそこのまま何もせず帰ろうか、という考えまで浮かんできてしまう。それこそここまで苦労してやって来たことが全て無駄になってしまうではないか。もう一度ここに来た目的を思い出し、思い切ってこのボタンを押さなければ。

 しかし、万一ここで部屋を間違えでもしたら恥ずかしいし、一気に気力が失せてしまいそうだ。そこで、念のため他の部屋の表札を全部確認することにした。
 一階のもう一つの部屋、そして二階にも上がって全部の部屋を見てまわった結果、一〇二号室以外の部屋には全て表札に名前が書いてあった。ハルミの姓であるミズノも、旧姓のヤマウチもなかった。やはり一〇二号室がハルミの部屋に違いない。

 もう行くしかない。観念してあのボタンを押さなければ。
 二階でそう決意を固め、階段を降りてハルミの部屋へ。
 だが、一階の通路に出たところで足が止まった。
 あの小窓、台所の窓がさっきより遥かに強い光を発していた。

 別にどうということはない。ハルミが台所で何かをしているだけではないか。そうは思うのだが、つい様子を窺ってしまう。しばらくそのまま窓の明かりを見つめていたが、何が起きると言うわけでもなかった。
 今度こそ、本当にちゃんとしよう。ここから一気に部屋に向って、勢いでボタンを押せばいい。そうすれば事は動き出すのだから。
 そう言い聞かせ、早足で歩きだした。あっという間に一〇二号室に着く。間髪いれずに左手の人差し指をインターホンのボタンに直行させる。

 ちりっ。
 ん?
 ちりちりっ。
 なんだ? 
 耳の奥で火花がはじけたような音がする。
 突然停電したように、見えているものが途切れて真っ暗になる。
 視界が正常に戻ると、三十センチほど開いたドアの隙間の向こうにハルミが立っていた。
 ドアノブにはハルミの片手が握られている。
 おれの左手の人差し指はインターホンのボタンにめり込んだまま静止していた。

「な・・・・ちょっ・・・・」
 ハルミは驚きのあまり両目を丸く見開いたまま、硬直している。言葉にならない声は少し震えているように聞こえた。
 その格好は部屋着や普段着ではなく、たった今仕事から帰ってきたようなスーツ姿であることに、妙な違和感を覚えた。
「あー、ごめん・・・・急に、その、来ちゃって――」
 コチコチになっているのはおれも同じだったが、懸命に声を出した。
「ちょっと会いたいというか、話したいことがあってさ・・・・あの、よければ入れてくれないか」
 なんとかそこまで言って、開きかけのドアの縁に手を掛け、ゆっくりと隙間を広げにかかった。

 半分くらいドアが開き、もう充分に自分が中に入れるくらいの空間が目前に確保されたところで、少し呆けたような顔をしていたハルミが突如我に返って、慌ててドアノブを引っ張り閉めようとした。
 反射的におれは縁を掴んでいた手に力をいれて踏ん張り、足を差し入れてドアが閉まらないように固定する。
「いきなり閉めなくてもいいだろ」
「困ります!」ハルミはなぜか敬語を使い、さらに力を入れてドアを閉めようとする。だがいくら頑張っても彼女の腕力ではドアはびくともしない。

 いきなりおれが訪ねたことがそんなに気に入らないのだろうか。しかしハルミを見るに、驚きはあるが怒っている様には見えなかった。どちらかというと、焦りや困惑でパニック寸前といった感じだ。何をそんなに慌てているのか。
「どうしたの? 何かあったの?」
 訊いてみると、ハルミは何も言わず、激しく首を左右に振った。その必死な形相は、何かを懇願しているようにおれの目を見つめた。見つめながら、いくらやっても閉まらないドアを諦めて、今度は両手でおれの体を外に押し出そうとし始めた。

「何だ、どうした?」
 聞いたことのない声が、ハルミの背後から聞こえた。
 ハルミの動きが次第に緩慢になり、観念したように両手をだらりと下げて俯いてしまう。
 その肩越しに、声の主らしい者の姿が現れた。
 小柄だが、がっしりとした体つきの男だった。スーツ姿の首から上に露出している肌は浅黒く、顎も頬も引き締まっていることから、幅広な体は肥満のせいではないことが一目でわかる。

「なんだ、お前は」凄みをきかせながら男が言ってきた。
 見たことのない顔、知らない男がハルミの部屋にいる。これは一体どういうことだ。
「お前こそ、誰なんだ?」男の質問には答えず、逆に訊き返した。
 男もおれの質問に答えようとしなかった。短い時間だが、睨み合いの状態になる。いつの間にか全身に力が入り、熱を発し始めた。額と鼻の頭に湿度を感じる。

 数秒後、男が口を開いた。おれにではなく、ハルミに対してだった。
「・・・・ハルミ、お前の知り合いか?」
 知らない男がハルミを呼び捨てにした。
「いえ、別に知り合いじゃないわ」
 思いがけないハルミの返答だった。息が詰まり、耳が遠くなる。
「な・・・・んだよ、それは」反論を試みようとしたが、おれの口からようやく出た言葉はそれだけだった。
 ハルミは鋭く冷たい視線でおれを突き刺した。明らかにおれを責めている目だった。
「知り合いじゃない割には馴れ馴れしいじゃないか、そいつ」
 後ろの方で男の嫌味まじりな声がした。
「そんなことないわ」ハルミは振り返って男にそう答えると、すぐにまたこちらを向いておれに言った。
「だから、困るって何度も言ってるじゃないですか」
 何を言われているか理解できず、どうしていいかもわからなくなった。
「それじゃああれか、ハルミ、もしかしてこの男に一方的につきまとわれてるのか?」
 男が言った。『この男』って、おれのことだろうか。
 ハルミはこの問いには何も答えず、再びおれを外に押し出そうとした。踏ん張りがきかず、じりじりと後退する。

「おい、お前」男はおれを睨んで言った。
「人の女房にちょっかい出して、楽しいか?」
 女房?
「とにかく困るから帰ってください!」とうとうハルミは怒鳴りながらおれを突き飛ばした。勢いでその場に尻餅をついてしまう。
 ハルミはおれを見ないようにしながら、ドアを閉めた。さらに数瞬後、がちゃりと鍵を掛ける音が鳴った。

(第44話・後編につづく)




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