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「白い彼女」
第十一章 四月一日(42~44話)

白い彼女 第44話・後編

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第44話・後編

 そまま立ち上がることができない。
 雨で湿ったコンクリートから尻を伝って冷気がじりじりと下半身に染み込んでいく。しかし顔からは水を限界まで含んだスポンジを握りしめたように、汗が大きな水滴となって流れ出し、顎から垂れて上着に染みを作っていた。
 鼓動はその音が聞こえるほどに大きく早く打ち、同時に耐えきれないほどの熱を生み出し全身を加熱し続けている。体温も気温も姿勢も天候も現実も思考も、全てがバランスを失っている。

 何がおきたのか。
 何がいけなかったのか。
 今、おれがここにいることだろうか。
 おれが断わりもなく、ここに来たからだろうか。
 何でこんなめにあわなくちゃいけないんだ。
 おれは、間違っていたのか。
 ただ、ちょっとでいいから会いたかっただけなのに。
 話がしたかっただけなのに。
 それがいけないことなのだろうか。

 ――イサムはあまり今回のこと気にしなくていいと思うの――
 ――当分の間は、少しでも怪しい素振りを見せたらアウトよ――
 ――しばらくの間はおとなしくしなくちゃ――

 頭をぐるぐるとハルミの言葉が回っている。
 そう、ハルミのことを信じて、ハルミの言うとおりにしてきただけだ。おれは。
 おれは、ハルミを裏切ったりしてない。なのに。

 ――いえ、別に知り合いじゃないわ――
 ――だから、困るって何度も言ってるじゃないですか――

 なのに。どうしてそんなことを言うんだ。

 ――もうあの人と一緒に暮らすの耐えられないのよ――

 あの人?
 あの人って誰だ?

 ――人の女房にちょっかい出して、楽しいか?――

 あいつか。あの男か。
 まさか、ヨリを戻したのか。
 耐えられないって言ってたのに。
 おれと会わないようにしている間に、こっそりとあの男と会って、元に戻ったのか。
 おれが苦労して、我慢して、こんなめにあっている間に。
 おれが苦労して、我慢して、こんなに辛いのは、ハルミがそうしろって言ったからなのに。ハルミのためなのに。ハルミのせいなのに。

「お前のせいなのに!」
 拳を地面のコンクリートに打ちつける。激痛がさらなる熱を発生させ、怒りと衝動が全てを麻痺させる。もう耐えられない。もういやだ。

 立ち上がり、ドアを蹴った。
 一発、二発。
 もっと蹴りたくなった。
 三発。
 まだ足りない。
 とにかく蹴った。

 そのうちに、何も聞こえなくなった。音のない世界で、おれは目の前のドアを蹴り続けた。問題はない。聞こえなくたって蹴ることはできるから。
 ドアが開いた。中からすごい顔した女が飛び出してきた。
 何か叫んでいるみたいだ。残念だけど、おれには聞こえないんだ。
 それでもこの女は叫び続けてる。

 だから聞こえないって。たとえ聞けたとしても、もう聞きたくない。女が言っていることを信じてよかったことなんて一度もないんだから。
 女は必ず最後におれを裏切るんだ。いや、始めから騙すつもりなのを、おれが見抜けないだけかもしれない。おれって素直だからな。すぐ信じちゃうんだ。それで言われたとおりにすると、絶対不幸になるんだ。おれを生んだあの女もそうだった、男嫌いだったやつも、その親友とか嘯いてた金髪も。そしてこの女も。

 女は懲りずに何かを叫びながらおれを取り押さえようとしている。
 だから無駄だって。何をそんなに困ってるんだ。もともとお前のせいじゃないか。
 なんかうざくなったので、こいつも蹴ることにした。
 蹴るには間合いが近すぎるので、平手を喰らわしたら、上手い具合に距離ができた。そこで腹めがけて蹴ったら、面白いようにめり込んで、女は開いたドアから玄関の奥まで吹っ飛んでいった。
 だがおれも勢い余って体勢を崩し、その場でひっくり返ってしまった。

 目の前が真っ暗になった。何も見えない。何も聞こえない。何もわからない。だがそこに恐怖はない。現実の辛さも、悲しさも寂しさも存在しない。あるのは安らぎだけだ。
 ああ、おれが望んでいるのはきっとこんな世界なんだろう。

 げほっ。
 げほっ。
 誰かが咳をしている。たいそう苦しそうだな。

 目を醒ますと、おれはハルミの部屋の前で倒れていた。転んで打ったのか、後頭部が痛く、触ってみると、巨大なたんこぶができている。
 起き上がって、咳が聞こえる方角を探す。
 部屋のドアが開いていて、玄関のところに女が横になっていた。うずくまるように体を丸めて、両手で腹を押さえ、激しく咳をしていた。
 よく見ると、それはハルミだった。
「ハルミ・・・・?」
 駆け寄って、抱き起こそうとハルミの肩に触れた瞬間、全て思い出した。

 やってしまった。まただ。
 おれは、もうだめかもしれない。
 手先が震え、その振動が足先から脳天まで達して止まらなくなる。
「ハルミ、ハルミ、ハルミ」
 うずくまっているハルミの肩をさすった。涙が溢れて、ハルミの頬にこぼれ落ちた。
「イサム・・・・」
 ハルミは苦痛に歪んだ表情のまま、ゆっくりとその手を肩にのせたおれの手に重ねた。
「ハルミ、おれ、もう・・・・」
「いいから、イサム、帰って、はやく」
「でも・・・・」
 急に視界が暗くなった。何かの影に入ったようだ。同時に異様な気配を感じて見上げると、台所の明かりを遮るように、さっきの男が立っていた。

「何をやっているんだてめーは!」
 いきなり男のかかとが顔面めがけて飛んできた。そのまま命中し、倒れた勢いで先程打った後頭部に再び衝撃が走った。
 痛いというより痺れに近い感覚が顔を覆った。間もなく顔の中心あたりに生暖かい感触が加わった。どうやら鼻血が出たらしい。
 だがそれを確認する暇もなく、次から次へと顔に蹴りが入った。口の中が血の味でいっぱいになる。

 顔の次は腹を蹴られた。顔のときよりも遥かに耐え難い苦痛だった。
 二発目の蹴りは鳩尾に入った。一瞬呼吸が停止し、咳とともに大きな塊がせりあがってきて、我慢できずに嘔吐する。それでも男は容赦なく蹴りを入れてきた。
 避けることも反撃することもかなわず、ただその場で体を丸めて苦痛に喘ぐしか術がない。おれの顔は涙と血とゲロでぐちゃぐちゃになっていた。

「タケシやめて! お願いだからもうやめて、死んじゃうわ!」
 ハルミの叫び声が聞こえた。男のことをタケシと呼んだ。そうか、やっぱりこの人はハルミのダンナだったんだ。
 やがてダンナの蹴りが止った。パンパンに腫れて上手く開かなくなった瞼越しに、ハルミが見えた。間に割って入ったらしい。

 ハルミはハンカチでおれの顔を少し拭いてから、それをおれの手に握らせた。
 いつだったか、似たような経験をしたような気がする。あれは雪の綺麗な夜だった。はるか昔、遠い出来事だ。今、とても懐かしく思う。
「逃げて、イサム」
 ハルミは真剣に、そう言った。
 おれは言われるままにするしかなかった。確かにこのままでは殺されてしまうかもしれない、そう思った途端体が動いた。真っ直ぐ立つこともまともに歩くこともできなかったが、死ぬかもしれないという恐怖が辛うじて体を突き動かした。
 死に物狂いで車に向った。あのあと浮気がバレたハルミがどうなったか、気遣う余裕も後ろを振り返る勇気もなかった。

 無事に車にたどり着き、中に入ると、すぐに発車した。雨はどんどん激しくなっているが、構わずアクセルを踏み込んだ。ゆっくり走っていると、後ろからあのダンナが走ってきて、今にも追いつかれそうな気がした。

 数分経って、ようやく少し落ち着いてきた。ハンドルを握っている自分の手に、血がべっとりついている。その血の色が、そして全身の痛みが嫌でも先程の記憶を呼び覚ましていく。そこに刻まれているのは、辛く、醜いおれのリアルな姿だった。
 また涙が出てきた。自分のあまりの情けなさに、ハルミを取り返された悔しさに。今日あそこへ行ってしまった後悔に。
 こんなことってあるか。何かの冗談だと思いたい。夢だったらいいのに。いっそ忘れてしまいたい。

 ?

 目の前で何かが動いた。左脇から黒い影が真正面に飛び込んできて、車のライトに一瞬照らされた。
 まさか、人か?

 慌ててハンドルを切ったのが迂闊だった。狭い道で、九十キロも出していたことに気づかなかった。コントロールを失い、次の瞬間、正面に電柱が迫ってきた。
 無意識のうちに視線がバックミラーを捕らえ、そこにはたった今避けようとしたものが映っていた。

 なんだ、猫かよ。
 なんか、踏んだり蹴ったりだ。今日一日、全部冗談で出来上がってるみたいなオチだな。
 そういえば、今日は四月一日だったっけ。今日はエイプリルフールだ。
 電柱が車体にめり込み、フロントガラスが粉々に砕け散った。

(第十一章終了・次回(45話)より第十二章)




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