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「白い彼女」
第十二章 春美(45話)

白い彼女 第45話

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第十二章 春美
第45話

 自分の判断と行動は、自らの経験によって培ってきた知恵と、可能な限り正確な情報を把握し、活用したうえで、初めて満足できる結果を得ることができる。
 勘とか、根拠のないひらめきとか、自分の感情とか、そういう漠然としたものは信用しない。明確な根拠もなく動くことは、即ち「なんとなく」とほぼ同義であり、そんな行動に明確な目的も目標も見出すことは難しい。目的も目標も曖昧なままでは効果的な手段を選ぶことも無理だ。
 つまり、なんとなく動いても、それはただの徒労に終わる。
 それが春美ハルミの持論だった。そして、それは社会生活の多く、特に仕事に関わる部分においては、正しい考えだと思っている。

 だが同時に、全てのことを論理的に判断してから行動することは不可能だということにも気づいている。
 自分自身、とりわけ異性にからむこととなると、冷静な思考よりも直感とか、体の奥から湧き出てくる感情を優先させてしまうことが多い。わかってはいるのだが、自分を抑えることができない時がある。しかし、それによって刹那的な快楽や幸福を味わうことができても、これまでの経験では長続きしたためしはない。
 やはり、「なんとなく」行動しているから、恒久的な結果に結びつかないのだろうか。

 では、どうやったら感情を抑え込んで、冷静になれるのだろう。

 いつもここで春美の思考は止まってしまう。自分の感情、気持ち――そういう自分にとって曖昧で、掴みどころのないと思える類のものについて考えるのが苦手だった。苦手だから考えない。考えないから進歩しない。要するにそういうことらしいと、自分に言い聞かせるのが癖になっている。

 だが、自分の勘に全てを委ねて行動することが、時として自分自身を救うこともあるのだと、春美は初めて知った。
 自分には罪がある。でもその罪に決着がつくまでは、ここに居られる。それが救いだ。
 病室のベッドで眠っているイサムを眺めながら、春美は思った。


 あの時の胸騒ぎは、今思い出しても不可解な現象だった。
 会いたい、とか引き止めたい、という感情でもない。嘘が露見してしまったことへの焦りでも、怒りに満ち溢れている夫への恐怖でもなかった。
 こういうのを直感とか、虫の知らせなどと言うのだろうか。根拠も前触れもなく、ただ、ついさっき出て行ったばかりの勇を、今すぐに追いかけなければならない。その思いに全身が支配された。

 夫の制止を振り切って、自らの思いに駆られるまま追いかけた。車がどの方角に向ったかもわからなかったが、迷いもなくひたすら走った。
 しばらくすると、暗い雨の中に遠く、ぼんやりと車のテールランプの光が赤く浮かんでいるのが見えた。

 近づいてみると、それは電柱に衝突して大破した車だった。前方に回ると、フロントガラスから半分身を投げ出されたまま動かない、勇の姿があった。雨が彼の全身を濡らし、水と混ざって滑らかになった血が、さらさらと車体の下へ流れていた。前輪の辺りはすでに赤い水溜りが出来上がっていた。


 勇が病院に運び込まれてから二日が経過し、面会が許された。
 看護師から、まだ親族以外の面会は許可できないと言われたが、春美は自分を勇の婚約者だと偽って無理矢理に会わせてもらった。
 手を消毒し、集中治療室に入ると、よくわからない機械に囲まれ、体のあちこちを管に繋がれた勇が横たわっていた。
 直視すると心臓が止まりそうな気がしてしまい、春美は思わず顔を背けた。
「状況はまだ予断を許しません。このまま血圧が上昇しないと、最悪の場合多臓器不全に陥る可能性もあり――」
 担当医の説明もあまり耳に入らなかった。

 さらに三日が経過した。状況が好転しつつあると説明を受けた。そのことを春美が実感したのは、看護師の春美への接し方が微妙に明るくなったことだった。
 さらに二日が経った。勇のベッドの周りが少しすっきりしていた。呼吸器も外してあり、顔がよく見える。春美はようやく勇に会えたような気がした。

 その日の午後、勇を一般病棟に移すと説明された。状態は上向きで安定しているし、急変することもないだろう、とのことだった。
 春美は少し不安だった。勇の状態が徐々に良くなっていることは事実だろうが、彼をここから出すのは、どうやら他の重症患者のためにベッドを開ける必要があるかららしい。しかし移すと言われれば従うしかない。勇は外科病棟の個室に運ばれた。

 一般病棟に移ったことで、春美にとってありがたいこともあった。ここでは一日中勇の傍らで過ごすことができる。集中治療室での一回の面会時間は原則二十分以内だった。
 だが長く一緒に居られることで、かえって増す不安もあった。

 勇は眠り続けている。意識が戻らないのだ。
 体のどの部分でもいいから、ちょっとでも動いてくれればと思い、目を皿のようにして観察するが、その気配もない。
 担当医に訊いてみたら、「いつ意識が戻ってもおかしくないのですが」と言われた。
「外からの刺激が有効な場合もあります。本人は眠っていても聞こえていたりするケースもあるんですよ。だから話しかけてあげてください」
 医師はそう付け加えた。

 春美は翌日からできるだけ勇に語りかけるようにした。だが、一人で話し続けるのは空しく、そんなにたくさん話題があるわけでもない。そこで春美は勇のアパートに行き、ラジカセを借りてきた。
 担当医の許可をもらって、勇の好きだったCDを流した。何か反応があるかもしれないので、春美は時間の許す限り、勇の手を握りながら過ごすようになった。

「この状態はいったいいつまで続くんでしょうか」
 一向に目覚めない勇を見て、たまらず春美は担当医に質問した。
「それはなんとも。とりあえず、このままでしばらく様子を見ることになります」
「まさか、このまま意識が戻らないということは・・・・」
 担当医は何かを言いかけたが、急に口をつぐんだ。そのまま暫く春美を眺めてから、ゆっくりと口を開いた。
「・・・・失礼ですが、あなたは患者さんとはどのようなご関係でしたか?」
「私は・・・・彼の、婚約者です」
 春美は以前と同じ嘘をついた。だが担当医はいぶかしげな視線を春美に向けた。
「そうですか。では彼のご家族が一度もお見舞いに来られませんが、連絡はなさったのですか? 以前もお願いしたと記憶しているのですが」
「それは・・・・」
 連絡先を春美は知らなかった。自分が無意識のうちに俯いてしまったことで、嘘がバレたことを自ら悟った。
「まあ、いいでしょう。あなたが彼と親しい間柄であることはわかりますよ」
「・・・・それで、今後の見通しは、どのようになりますか。可能性の段階でも差し支えありませんので、お聞かせください」
 担当医は春美のことを追求しなかったが、春美の問いにも答えず、様子を見る、の一点張りだった。本当にそれしか打つ手がないのか、それとも親族でもない者にこれ以上患者のプライバシーが洩れることを避けたのか、春美にはわからなかった。


 自分には罪がある。
 春美は思う。夫の前で離婚を口にし、奇怪な噂が発生した時、自分はこのために多くのものを失うかもしれない、その覚悟は出来ていた。ただ、勇を巻き込みたくはなかった。そのために敢えて距離を作ったことが、逆に勇を追い詰めてしまった。

 勇が苛立っていることに気づいてはいたが、自分にも余裕がなかった。職場では部長の監視、帰宅してからは夫との交渉で、気の休まる時がなかった。
 勇と会い、話をすることで得られる安心感が、かえって自分の気を緩ませ、そこから甘えや逡巡が生じるかもしれないという怖さもあった。決着がつきさえすれば、そのあと勇とは幾らでも時間は作れる。だから勇のことは後回しにして、事態を一刻も早く収束させる方が得策だと判断した。
 しかし、勇はあと一息、もたなかった。
 自分が追い詰めた勇は恐ろしく、そして哀れだった。でも、最後に見せてくれた涙は、いつもの勇だった。

 春美は思う。ちゃんと話をしなければならない。勿論殴られた仕返しだってしたい。だから、また勇に会いたい。一目でいいから会わせて欲しい。いつもの勇であってほしい。
 既に多くのものを失った今、もうこれ以上何も失いたくない。自分に残されているのは、ここで眠り続けている勇だけだった。

 春美は勇に話しかける。
「今日も許可もらったから、好きな曲をかけるわね」
 そして勇の右手をそっと包み込むようにして、握る。
 春美はそれを繰り返した。
 他に出来ることは、信じて祈るだけだった。

(第十二章終了・次回、最終話)




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