スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←白い彼女 第45話 →(雑記)少し長い、今後のこと&少しの悩みごと
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第45話】へ
  • 【(雑記)少し長い、今後のこと&少しの悩みごと】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

「白い彼女」
第十三章 目覚めの一言(46話)

白い彼女 最終話

 ←白い彼女 第45話 →(雑記)少し長い、今後のこと&少しの悩みごと
第十三章 目覚めの一言
最終話

 上昇上昇。目覚め。
 一言で表せば、そんな感じだった。ただ、上昇という感覚――深いところから浮かんでいくような感覚は、後からとってつけたように自分で考えた表現であり、正確ではない。他にどう表現したらいいか、おれ自身言葉を探せなかった。

 光も闇も形も質量もない虚無の中で、なぜかおれはその虚無を感じ取っていた。その虚無の中にあって、いつしかおれは螺旋を描きながら竜巻のように上昇していく流れとなって、ある一定の方角に向って進んでいく。
 その先、遥か彼方に白い光が染みのように滲んでいるのが感じられた。光に近づくと、白い染みは次第に大きな拡がりとなり、虚無と交わるところに自分自身を知覚する。
 おれと自分が同一のものであるように、記憶の断片が一本の糸に紡がれていく。蘇る記憶とともに、おれは白い光に包まれた。
 光の回廊、その進む先に自らの目覚めがあることを、おれは自然に理解していた。


 苦痛と羞恥と後悔。瞳を開いた瞬間からそれらの現実と向き合わねばならない。自分がそれらに耐えられるかは、目覚めてみなければわからない。また逃げ出したくなるかもしれない。
 ただ、会いたかった。眠っているおれの側で、音楽をかけながら手を握り締めてくれた人。ハルミに。
 そんなことを考えながら、おれは上昇し、やがて目覚めた。

     *

 目覚めるとそこには春美の顔が――と思っていたのだが、実際に瞼を開いた時、誰の姿も見えなかった。
 見たことのない天井が暗い中にぼんやりと見えた。周囲を見回そうとしても、首から下の感覚が曖昧で、動かし方がわからない。天井しか見えない状態で、しばらくぼんやりしている。確かにここが現実だとは思えた。

 ここは病院だろうか。
 おれはきっと怪我をしていると思うのだが、電柱に衝突したあと自分がどうなったかは思い出せない。最後の記憶は、迫ってくる電柱と飛散したガラスの、不自然なほどゆっくりと動く映像だった。

 ここは暗い部屋だった。病院なら、なぜこんなに暗いのだろう。自分の視力がおかしいのだろうか。
 眼球を左に動かすと、窓があった。カーテンが完全に閉まっておらず、隙間から外らしい光景が見える。そこも真っ黒だった。眼球を右に動かすと、奥にドアがあり、隙間から光が細く差し込んでいる。
 どうやら今は夜中らしい。変な時間に目覚めてしまった。体も動かないし、これではどうしようもないじゃないか。
 とりあえず、また眠ることにした。目を閉じればすぐ眠れる。そのことに不安はなかった。眠っても、また目覚めることができると、どういうわけか確信が持てた。

 再び目覚めた。
 今度は朝か昼か、とにかく部屋は明るかった。目の前に人がいたが、それは看護師だった。やがて医者も来て、何やら話しかけられ、それに答えた。声はガラガラだったが、なんとか出すことができた。
 ほんの数分、医者や看護師と話しただけで、また眠くなってしまった。


 三度目に覚めたとき、ようやく春美に会えた。
 春美は何も言わず、おれに向って微笑んだ。
 何か言いわなくちゃ、という気持ちはあるのだが、まだうまく話せない。何を、何と言えばいいのかもわからない。
 何も話さないまま、またおれは眠ってしまった。
 次に目覚めたときには、春美はいなかった。
 その次も、そのまた次も、春美は現れなかった。

 もう二度と春美は来ないのかもしれない。これまでここに来てくれたのは、春美なりの責任感だろう。おれが目覚めて、快復する見通しが立つまでは見届けるつもりだったのでは、と考えるといかにも春美らしい気がする。そうだとしても仕方ない。それでも春美には感謝したい。そんなことをする必要は彼女にはないのだから。

 あの時春美は夫と一緒に居て、おれは夫の前で春美を殴り、蹴り、挙句の果てに自分だけ逃げ出してきたのだ。春美は本来戻るべきところを選んで、おれは春美との約束を破った。もうおれ達が一緒にいる理由なんてないのかもしれない。

 何日かが過ぎ、頭に靄がかかっていたような気分も次第に晴れ、全身にも力が入るようになってきた。足はまだよく動かないが、両手はほとんど以前と同じように動かせ、会話も普通にできるようになった。
 日中はだいたい起きていられるようになると、ベッドから離れられないのがもどかしく、また退屈でもあったが、無理に起き上がろうとしたり、長時間人と話をすると、まだ体力が回復していないせいか、あっという間に眠くなってしまう。当面はこのままで観念するしかなさそうだった。

 もうすぐ点滴が外れ、流動食になると告げにきた看護師に今日の日付が四月二十六日だと教えてもらい、驚いた。
 事故ってから一ヶ月近くも経過しているではないか。自分の感覚としては、せいぜい一週間か、長くても十日くらいだと思っていた。


 四月二十八日。
 右手に懐かしい手触りを感じて、目を醒ました。
 ついさっき昼食だったはずだから、いつの間にかおれは眠っていたらしい。
 目は醒ましたが、瞼は開けていない。そのまま右手の感触を味わっていたかった。
 そう、以前にもどこかでこうしてもらっていた気がする。小さな手がゆっくりとおれの手を包んで、柔らかく暖かい気持ちが右手から全身へと伝わっていくのだ。

 誰の仕業かは、見なくてもわかる。
 春美。
 この手は春美以外に考えられない。
 何の根拠もないはずなのに、そう断定できる自分自身が、少し可笑しく思えた。
 くす、と微かな笑い声が聞こえた。どうやら気づかないうちに、おれはにやけていたらしい。
 ぺちぺちと軽く、小さな手がおれの右手の甲をたたいた。もう起きているのがバレてしまっている。
 ゆっくり目を開けると、すぐ傍らに春美が座っていて、微笑んでいた。
 春美は何も言わず、ゆっくりと頷いた。
「・・・・おれ、もう普通に喋れるよ」
 そう言うと、春美は「うん」とだけ返事をした。心が、落ち着いた。

「・・・・もう来てくれないんじゃないかと思ってた」
「ごめん。ちょっと風邪引いたりとか、いろいろやることもあって」
「いろいろって?」
 春美は答えず、花と花瓶を買ってきたから活けてくる、と言って立ち上がろうとした。それをおれは春美の手を強く握って制した。
 春美は少し照れを含んだ笑顔で「ちょっと、なあに?」と言いながら、素直に座り直した。
「前にも、こうしてくれてたよね」
 おれの右手を両手で包み込むようにしている春美の手を見ながら言った。

 目覚めてからずっと、何かはっきりしない、漠然とした記憶らしきものが頭の奥の方でいつも揺らいでいる。
 一体何なのか、何の記憶なのかはっきりとしないし、思い出す手がかりらしきものもわからない。自分が自覚できる記憶のどれとも繋がらない、孤立した存在だった。
 であれば、それはおれが眠っていた時の記憶かもしれないと思っている。そしてそれは時間が経過するとともに、消えかかっている。
 春美の手を感じたとき、これがその記憶と繋がっているような気がした。

「覚えているの?」
 春美は感心したようだった。
「覚えていると言うより、今思い出した、みたいな感じかな」
「今思いついたんじゃなくて?」
「そう言われると自信ないけど・・・・」
「ごめん、うそ。確かに君の手を握ってたわ。ずっとね。あのCDかけながら」
 春美は窓際に置いてあるラジカセを指した。何のCDかは、言われなくてもわかっていた。おれは春美に頼んでラジカセのスイッチを押してもらった。しばらく目を閉じて聴いた。

「・・・・勇、寝ちゃったの?」
 囁くような春美の声が耳に近いところで鳴った。
「いや、起きてるよ。懐かしいから、聴き込んじゃってた」
 実は半部以上眠りかけていたのだが、おそらくこのまま眠ってしまうと、春美は花を活けるため、ここを離れてしまうだろう。もうしばらくこうしていたかった。
「私、肩凝ってきちゃった」と言っておれの手を離そうとする。
 おれがもう少しだけ、と言って再度それを制すると、春美は呆れたような表情で、しょうがないわね、と言いながら従った。

「・・・・こうしていると、思い出すんだ」
 別に春美の機嫌をとろうとか、言い訳しようというつもりはなかったが、自然に言葉が出てきた。春美には話しておきたい。
「何を思い出したの?」と訊く春美に、「忘れていたことを、かな」と答えると、春美は首を傾げてみせる。その表情は、しばらく切っていないのか、以前より伸びた髪と、職場で見るより遥かに薄い化粧とで、随分と若く見えた。
「・・・・ずっと、夢みたいな所にいたような気がしてるんだ。そこは、いろんなことを忘れていられる場所で、おれはずっとそこにいて、春美のことを忘れていたんだ。多分おれが忘れたいと願ったからなんだ。でも、誰かが、そうやっておれの手を握ってくれて、そうしたら、その手は誰だろうって思って、確かめたくなって、でも確かめるには目を開けなきゃいけなくて、目を開ければ、春美を思い出してしまう――」
 春美は黙ったまま、おれの手を強く握りしめた。

「――多分、思い出したくなかったんだ。あの夜、春美から逃げようとしたまま気を失ったから、そのまま夢の中でも逃げ続けていたんだ」
「・・・・目覚めたことを後悔してるの?」
 おれは首を左右に振った。
「手を握ってくれなければ、目覚めなかった。春美のお陰で目覚めることができたんだ。思い出すことは怖いけど、それよりも春美に会いたかった。春美に会うために、おれは戻ってきたんだと思う」
「勇・・・・」
「会いたい人が、きっといる、目覚めれば・・・・きっと会える。そして、今・・・・ようやく会えた気がする」
「・・・・勇、もういいわ、話さなくても」
「・・・・でも、言わなくちゃ・・・・いけない・・・・んだ。会えなくなる・・・・前に・・・・」
「とっても眠そうよ。いっぱい喋ったからね。無理しないで」
 春美の言うとおり、目の前がぼんやりとかすんできた。抗いようのない眠気が全身を支配しようとしている。
「でも・・・・言わなくちゃ・・・・。あのときのこと・・・・」
「何も、なんとも思ってないわ。何も心配しないでいいの」
 春美はおれの頬をそっと撫でた。その感触がもたらす安堵感が、睡眠欲をよりいっそう刺激する。でもこのまま寝てしまって、そのあとまた春美に会える保証はない。春美は別れを言いにきたのかもしれないから。

「もう、全部思い出したんだ。細かいことまで、正確に」
「いちいち思い出さなくてもいいのに」
「忘れました・・・・では済まないよ・・・・」
「いいのよ、それでも。相手がいいって言えば。そもそも記憶なんてそれほど正確じゃないって思うわ。都合よく解釈したり、抜け落ちたり、勘違いしたりね。
 人は今を生きなきゃいけない、死ぬまで。記憶はそのために、自分にとって必要な情報。だからそれは客観的な事実とは本質的に異なるものではないかしら。でも、それは自分にとっては真実。必要なものは覚えて、不要なものは消すの。生きるためにね。だから、忘れることも記憶の一部。きっと忘れることも価値のあることなのよ」
 正しいかどうかわからないが、春美らしい意見だと思った。
「でも、このまま眠ってしまったら、春美はいなくなっちゃうかもしれない」
 必死に声を出したつもりだが、声が出ているのか、春美に届いているかもわからなくなった。
「・・・・いなくならないわ。だから目を閉じて、安心して寝ていいのよ」
 言われるままに目を閉じてしまった。鍵がかかったように、開けようとしてももう動かない。遠くなる意識の中で、春美の呟くような声だけが聞こえた。
「いなくなったりしないわ。それにもう一人だし、ヒマだし・・・・」

「そう、なのか・・・・」
「やだ、まだ起きてたの?」
 春美の気になる一言で、少しだけ眠気が後退した。
「ひとりって・・・・どういうこと?」
 少し間を置いてから、春美は答えた。
「私ね、あの人と別れたの。正式にね」
「別れた? ・・・・でも、あの時は一緒に・・・・」
「勇が来たのは、丁度その話し合いをしていた時よ。あとちょっとで上手く話がまとまるところだったのに、君が突然現れたから、浮気が全部バレバレになっちゃった」
「・・・・そう、だったのか・・・・それは大変なことに・・・・」
「うーん、大変だったわあ。お陰で部長はおろか、会社全体にも知られちゃって、面倒だから仕事も辞めてきちゃった。今朝辞表出してきたところなの。何だかとってもスッキリしたわ」
 春美は笑いながら言った。相変わらずの素早い決断と行動だが、事の重大さにさすがに心配になってきた。

「そんなにあっさり・・・・大丈夫なのか?」
「心配ないわよ。とにかく君は自分の体のことだけ考えてればいいの」
「そんなわけには、どうにかしないと・・・・このままじゃ・・・・くそ、おれのせいか。おれって、ただの間抜けだな・・・・」
「だから、気にしてないし、私は平気よ。そんなに落ち込まないで」
「でも、おれがバカなことしたからなんだろ、それ・・・・。いまからでも、おれになにかできることあるかな・・・・」

「・・・・。勇、少し変わったわね、そんなこと言うなんて。それとも寝ぼけてるのかなあ」
「そうかな・・・・」
「でも、そうね。そんなに言うなら、一つだけお願いしておこうかしら」
「なに?」
「・・・・責任、とってね」

 可笑しかった。一番言われたくない台詞だったはずなのに、春美が言うと可笑しい。
 本当はこの言葉を待っていたのか、それとも意識が朦朧として、感覚が麻痺しているせいなのか。「なにニヤケてんのよ」という春美の声は、おれのことを言っているのだろうか。
「いや・・・・。もう限界だ。寝るよ」
「うん」
「でも、寝る前に、最後に一個だけ教えて」
「なに?」
「春美は・・・・なんでここにいるの?」
 ぷっと吹き出す音が聞こえた。
「そうねえ、なんでかしら・・・・相変わらず君が、名前と全然違って女々しいから、かな」
「かなあ」
「おやすみ。また明日も来るね」

 その言葉を最後に一切音が聞こえなくなった。
 沈み行く意識の中で、思う。会えてよかった。話せてよかった。
 でもまだ言ってないことがある。とても簡単な一言。でもずっと言えなかったこと。
 そのことを教えてくれたのは・・・・誰だっけ?
 白い、そう白い色した何かだ。
 もう会えないかもしれない女の子だ。

 くすっ。
 私はここにいるよ。いつもそばにいる。

 ああ、そうだったな。いつかまた会えるかな。
 そうだ、聞いてよ。起きたらハルミに言おうと思うんだ。
 もう遅いかもしれないけど、ここからまた先に進もうと思うんだ。自分自身が自分で納得できるように。逃げないように。
 許してくれないかもしれないけど、言えば何かが変わって、何かが終わって、何かが始まる気がするんだ。

 なんて言うの?

「ごめんなさい」って。どう思う?

 ・・・・センスないけど、了解。

 お前ってホントに可愛くないな。でも、それならもうちょっとカッコいい言い方考えることにするよ。
 とにかく、次に目覚めた時にまた会える。そのことにいま、とても感謝しているんだ。

(了)




にほんブログ村 小説ブログ 現代小説へ 
お気に召しましたら、ぽちっとしていただけると励みになります


もくじ  3kaku_s_L.png 
もくじ  3kaku_s_L.png 王様の宝物
もくじ  3kaku_s_L.png 雑記・ひとり言
もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
  • 【白い彼女 第45話】へ
  • 【(雑記)少し長い、今後のこと&少しの悩みごと】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【白い彼女 第45話】へ
  • 【(雑記)少し長い、今後のこと&少しの悩みごと】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。