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ボクを捨てないで

ボクを捨てないで

 ←ボクを捨てないで あらすじ/概要 →『ボクを捨てないで』の世界
 今日が定年退職を迎えたご主人さまの、最後の通勤でした。
 物持のよいご主人さまは、僕を十五年以上も使い続けてくれました。さすがにもう全身ヨレヨレで、少々くたびれてしまったけれど、破けたり穴があいたりはしていません。

 雨の日も風の日も、僕は毎日、ご主人さまと一緒に通勤しました。普段はポケットの中でじっとしていますが、駅の改札を通り抜けるときは僕の出番。ご主人さまは慣れた手つきで僕をサッと取り出します。
 昔は駅員さんに僕を見せるだけで通れましたが、最近はいちいち改札機に頭をぶつけなければならず、少し痛いときもあります。でも嫌だと思ったことはありません。
 僕は、ご主人さまの、少しごつごつとした、だけどとても温かい手の感触が大好きでした。

 最後の一日となった今日も、ご主人さまの様子はいつもと変わりませんでした。僕もいつも通り、一緒に出かけ、そして一緒に帰ってきました。
 帰宅すると、ご主人さまは、僕と財布、万年筆を書斎の机の上に、並べるように置くのが習慣でした。
 今日は僕たちを一つひとつ並べて置くだけでなく、にっこりと笑って僕たちに話しかけてくれました。こんなことは初めてでした。
「長い間、大変ご苦労さまでした」
 じんわりと体の中から温かくなるような、不思議な気持ちになりました。

 と思ったのもつかの間、次にご主人さまの口から飛び出たひとり言に、僕はたちまち不安になりました。
「さて、明日は少し片づけでもするかな。いらなくなった物はさっさと捨ててしまおう」

 夜中、ご主人さまが寝るのを待って、さっそくおしゃべりの財布くんが騒ぎだします。
「おいおい、聞いたか聞いたか?」
 財布くんはお腹の中の小銭をジャラジャラ鳴らしながら、早口でまくしたてます。
「ご主人さま、明日は片づけするってさ。いる物といらない物に分けて、いらない物は捨てちゃうってさ」

「僕たちは一体どうなっちゃうんだろう。捨てられちゃうのかな」
 僕が尋ねると、万年筆くんが答えました。
「そうかもしれないね。会社勤めが終わったからな。明日からは生活もいろいろ変わる。もう必要のない物も出てくるのさ」
 一番年上で、いつも冷静な彼が言うと、本当に捨てられてしまいそうな気がしてよけい不安になってしまいます。

「おいらは大丈夫さ」と、財布くんは平然としています。
「財布は会社に行かなくても必要だしさ」
「確かにそうだな。財布くんは捨てられないと、私も思う」万年筆くんも同意します。
「やっぱり、やばいのは定期入れくんさ」
「え、僕?」
「だって、明日からは会社に行かなくていいんだしさ。電車にも乗らないし。もう定期入れはいらないんじゃない?」
「じゃ、じゃあ、万年筆くんは?」
「私も大丈夫だと思う。ご主人さまは手紙とか日記とかは手書きだからね・・・・まだ使ってもらえるんじゃないかな」
 二人とちがって、役目を終えた僕には、いくら考えても、もう使い道がありませんでした。
 長い間、とても大事にしてくれたけれど、明日から僕はもう必要ないのです。必要がないから僕だけ捨てられる――そう思うと悲しくて寂しくて、眠ることができませんでした。

 夜が明けて、いよいよ片づけが始まってしまいました。ご主人さまは大きなごみ袋を持って書斎に現れました。
 あの中に捨てられるかもしれないと思うと、僕は怖くてたまりませんでした。

 ご主人さまはまず初めに、財布くんを手に取り、そのままズボンのポケットにしまいました。次に万年筆くんを取り出すと、ペン先を確認しながら、「うん、まだまだ使えるな」と、シャツの胸ポケットに差しました。
 最後に僕を手に取り、じっと見つめながら考え込み始めました。

 捨てないで。捨てないで。
 僕は聞こえないと知りつつ叫びました。

 ご主人はふうっとため息をつきました。
「うーん、やっぱりこれは取って置くか」

 よかったね。
 やったね!
 財布くん、万年筆くん、二人が同時に、ご主人さまには聞こえない声で祝福してくれました。
「でも、どうして捨てられずに済んだの?」
 僕も二人も、首をかしげています。

 ご主人様は僕を手にしたまま、苦笑まじりに呟きました。
「みんな、大切な思い出だもんなあ。捨てられない物ばかりだよ。やれやれ」
 ご主人さまの手の、少しごつごつして温かい感触が、僕は大好きです。

(おわり)



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~ Comment ~

NoTitle

「第7回5分で読める自作短編小説」に「着飾る女」で参加したarimeiroという者です。
優勝おめでとうごまいます。
「ボクを捨てないで」すばらしい作品だと思います。
準決勝あたりで対戦相手だったのですが、読んでみて「あ、こりゃ自分負けたな」と思いました。
最後の一文にやられました!
心に残る作品です。
これからも創作を続けていってください。
頑張ってください!
楽しみにしております。

Re: NoTitle

arimeiro さん

はじめまして。
コメントありがとうございます^^
そうですね…なぜか優勝してしまいましたw みなさまには大変感謝しております。

あたたかいお褒めの言葉、ありがとうございます。
「ボクを捨てないで」は、物を擬人化することと、「もったいない」という言葉から
何かお話がつくれないかなあ、ということを考えているうちに出来ました。
「もったいない」とはちょっと内容ずれておりますが><
読んでくださった方が、少しでも面白いと感じていただけたらこれに勝る喜びはありません。
これからも、地味に長く続けていきたいと思っています。

arimeiroさんのところにも、是非お邪魔させていただきたいと思いますので、
どうかよろしくお願いいたします。

NoTitle

はじめまして。
「三流自作小説劇場」のヒロハルと申します。
私のブログにご訪問ありがとうございました。
これも何かのご縁と、ご挨拶に伺わせていただきました。
またよろしくお願いします。

スゴいですね。優勝した作品だなんて。
記念とか愛着という言葉が好きな私もすぐに物を残してしまいがちです。

心温まるお話を読ませていただき、ありがとうございました!


Re: NoTitle

ヒロハル さん

お越しいただき&コメントありがとうございます。。
また、拙作をお読みいただき、重ねてお礼申し上げます。ありがとうございます。
参加者は少なかったのですが、優勝できたのも皆さまのおかげと感謝しております^^

ヒロハルさんのブログにはたくさん作品がありますね。
ちょこちょこお邪魔しては、是非読ませていただきたいと思います。(まずは短編からということで^^)

どうかこれからもよろしくお願いいたします。
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